金曜日。三人は『ペペロンチーノ』に集合した。
早川瑞希が先に着いていた。
美子と花南は待ち合わせの時間通りに着いた。
美子と早川瑞希が眼を丸くした。
「初めまして。仲美子です。早川さんもベリーショートなんですね」
「早川瑞希です。初めまして。三人とも同じ。これって凄い」
「わたしも美子に勧められてベリーショートになってしまった」
「花南。あんた。知っていたんだ」
「うん。美子と瑞希さんを驚かせたかったんだ」
予約した席に座ると三人を先ず注目したのがウェイターだった。
それからは通りかかる客のすべてがチラッチラッと三人を観た。
「何か。芸能人になったみたい」と美子。
頷く花南。
「ホントね。これってちょっとイイ気分」と早川瑞希が微笑んだ。
美子は早川瑞希の微笑みに惹き込まれた。
…これが花南が言っていた「こんな素敵な女の人を見たことが無い」…
憂いの在る眸と瞳が柔らかい。
時折、眸と瞳が開き、無邪気に、楽しそうに私を見つめる。
見つめて何かを語りかけてくる。
見つめられると雑念が消えてしまいそう。
見つめられると素直になってしまう。
心を覗く視線では無い。
今の一瞬の楽しさを共にしている悦びが伝わってくる。
何も語らずとも饒舌、そして優しい。
…良いな。こんな大人に成りたいな…
身体つきが大人。比べると私と花南はボールペン。
私たちも三〇歳になったらこんな成熟した女になれるのだろうか。
「早川さん。矢野先生にお世話になりました。五〇万円で示談してくれました。
おまけに花南のマブダチだからと云って二割の報酬を一割に値引き」
美子は…私も矢野先生との不倫を知っています…と言ったつもり。
「花南から聞きました。矢野ぴーは才気ある頑張る子どもが好きなの。知らず
うちに応援している。面倒見が良い。そんな処に私は魅かれた」
…そうなんだ。私にも不倫を隠さないんだ。花南の友達だからなんだ…
美子は「これからどうするの」を尋ねたかったけれど、シアワセそうな早川
瑞希の眸と瞳に見つめられると、無粋に思ってしまった。無粋を承知で尋ねて
も「なるようにしかならない。私は今シアワセなの。今のシアワセが大切」と
潤んだ眸と瞳で応えるに違いない。
…やっぱり。特別な人…
それだけが美子の脳裏に刻まれた。
花南が早川瑞希から教わったヴイキングの料理の取り方を美子に伝授。
「少しずつ取ると色んな料理に触れられる」
美子は花南に従った。
「この店の売りのひとつが店の名前と同じペペロンチーノ。でも昼休みには絶
対食べられない。ニンニク臭が気になって。今日は花南も私もお休み。美子は
ニンニクは大丈夫かな。これって女子会みたい」
早川瑞希が、眼球をクルクル回して、微笑み、美子を見つめた
…彼女の微笑みには癒しが在る。どうしてなんだろう…
「花南のお陰で美子とトモダチになれた。時々女子会しましょう」
「花南も私も子どもですが女子会大賛成。花南は…」
「大賛成に決まっている」
女子会は月初めの金曜日に決まった。
彼女にそっと見つめられるとシアワセに誘われる。私も花南も何時も肩に力
が入っているみたい。彼女の誘いとは脱力。いいえ。違う。リラックス。力み
が抜けて在りがままの自分で居られる。落ち着きが在って物静かな美人。それ
に今を楽しんでいる。今が充実して居るからだ。周囲を和ませ、シアワセに誘
う潤んだ眸と瞳。花南が言った通り本当に素敵な大人。
美子は、今夜、一歩だけ大人の階段を上った。
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