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お届けする作品は『未来探検隊』の他三つです。四作品とも未発表。何れもワープロ原稿をワードの添付メールで送信。僕に送り先のメルアドが届き次第、直ちに送ります。スマホや他の携帯には送れても容量が大き過ぎて開けません。パソコンは大丈夫。ワードで圧縮せずに送るので今までの経験では問題なしでした。

現在の支援総額

18,000

1%

目標金額は1,000,000円

支援者数

4

募集終了まで残り

終了

このプロジェクトは、2021/04/05に募集を開始し、 4人の支援により 18,000円の資金を集め、 2021/06/04に募集を終了しました

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 陽大から譲り受けた高一の教科書を花南が見せてくれた。

 処々に書き込みが在った。

「書き込みには興味津々。でも教科書をやっつけてから対話する」と花南。

 美子の予測通りだった。花南ならそうする。花南は目的を見喪わない。書き

込みに興味を持っても寄り道しない。今は高一の教科書をやっつけるのにまっ

しぐら。やっつけると花南は書き込みと対話する。それはそう遠くない。                                

 すべての教科書に書き込みが在った。 

…花南には悪いけれどひと足先に陽大と対話させてもらう… 

 陽大の教科書の書き込みは最初と最後のページが多い。最初と最後はどの教

科書も余白が多い。真っ白が一ページ以上も在る。美子は花南に断りを入れて

数Ⅰの教科書を開いた。見開きの余白に書き込みが在った。

『円周率が3.5よりも小さいことを証明せよ』  

―偶然、東大の数学の入試問題にこの設問を発見した。東大も面白い問題を出

すものだ。要するに考える力試し問題だ。ここでの力試しとは背理法を用いた

演繹。背理法は証明問題には欠かせないが授業ではまだ触れられていない―

 陽大の書き込みはこれだけだった。解いていない。  

「花南。あんた。この『円周率3.5』の設問を解いたの…」

「まだ高一の教科書は半分くらい。最後まで眼を通していない」

「そうなんだ。面白いよ。学内の定期テストには絶対に出ない。花南。『円周

率が3.5よりも小さいことを証明せよ』だよ」

「円周率って円周の距離を測定する時の数式でしょう。円の直径×3.14。しか

しこれは無理数で終わりが無い。何処までも続く。1÷3と同じ。それで3.14

でOKになっている。でもそれでは証明したことにはならない」 

「面白そうだから私やってみる。陽大は解いていない。解けたら自慢できるか

も…。花南はどうする」   

「教科書の最後まで辿り着いたら考えてみる」

 美子は証明方法を考え始めた。

 陽大は背理法を用いると書いている。背理法って3.5が正しい仮定する。こ

こから追及して正しくない結果を明らかにすれば3.5よりも大きいか、小さい

かを証明できる。直径10センチ・高さ10センチの円柱の筒を作る。3.5が正し

ければ10×3.5×10で筒の体積が判明する。350CCが筒のキャパ。3.5が正し

ければ計量カップに入れた350CCの水が全部入る勘定になる。実際に用意し

た350CCの水は全部入らない。零れる。よって円周率は3.5よりも小さい。

この証明の最後は円筒を作っての水入れの実験。これで完璧。

「花南。できた。ごめんね。勉強の邪魔して」

 明日は陽大を学校中探して自慢すると決めた。

 美子は別棟の二年生の陽大のクラスに出向いた。陽大は居なかった。

 陽大は「二年生になったら陸上部に入る」と。

 トレーニング室を覗いた。

 陽大はバーベルと向き合っていた。

 美子は陸上部のトレーニングを知った。陸上部は重いのを避ける。重くない、

と云っても三〇キロから四〇キロを両肩に載せてスクワット。三〇キロでも美

子にとっては限界の重量。それをジャンプして前後開脚を交互に。これも一〇

回で一セット。それを三セット。

 陽大は涼しい顔でこなしている。                                

 陽大と眼が合った。

「おう。美子。もう直ぐ終わる」

「うん。待っている。今日は自慢したくて来たんだ」

 陽大は無言でバランスボールに乗って体幹を鍛えている。

 陸上部に入ったばかりの時は六〇秒丁度のタイム。四百のハードラーよりも

五秒も遅い。陽大は「ひと月で一秒縮める」と宣言。目標は五〇秒。インター

ハイの地区予選を突破するには五〇秒を切らなくては次に進めないらしい。

 この時から放課後に陽大の練習を人目につかぬよう見守るのが美子の日課に。

…本当に一ケ月で一秒も縮められるのだろうか。それも毎月一秒。分からない

から練習するんだ。縮めたいからキツイ練習を繰り返すんだ。私にはできない。

陸上部に入ってマネージャーしようかな。ただ見ているだけではつまらないも

の。陽大を応援するには見ているだけでは足りない。トレーナー兼マネジャー

はどうだろう。マネジャーは難しくない。今直ぐにでもできる。トレーナーは

整体を勉強して実践の技を身につけなくてはダメだ…

 美子はトレーナー養成の教室を探した。

 探せば在るものだ。

 サッポロ市のカルチャー教室に在った。受講料が半年で二万四千円と格安。

開校は六月。間に合う。ここを修了すれば来年の四月から陸上部に入れる。


「美子の自慢はナニ」

 陽大がタオルで頭と顔の汗をぬぐっている。

「トレーニングの邪魔したみたい」

「大丈夫。決めたスケジュールはしっかりと消化した」

「花南にプレゼントした高一の教科書を花南に見せてもらった。そしたら数Ⅰ

の教科書の巻頭の書き込みに『円周率が3.5よりも小さいことを証明せよ』が

在った。東大の入試問題と書かれていた。『東大も面白い問題を出すものだ』

とも書いていた。けれどそれだけ。解いていなかった。だから解いてみた。そ

れを伝えたくてさ」

「へ~え。そうか。思い出した。確かにそう書いた。それで美子の答えは…」

 美子は「直径10センチ。3.5。高さ10センチの筒をボール紙で造る。こ

れに350CCの水を入れる。すると水が零れる。これで自慢できるかな…」。

「そう云うアプローチも在りだな」

「陽大の解き方は…。教えて」

「俺は直径10センチだと円周は35センチになるから35センチの伸縮しな

い細い銅線を用意した。それを直径10センチの厚紙で作った円筒に合わせた。

すると余りが出た。これが俺の背理法を用いた解き方」

「な~んだ。陽大も解いていたんだ。私。馬鹿みたい。全然自慢できない」

「そんなことない。自慢して良い。零れる水の方がドラマチックで面白い。俺

の解き方は面白くも何ともない」

「でもさ。陽大の解き方はシンプル。手間がかからない。Simple is Best」

 美子はこの時に陽大の懐の深さを実感した。                                

 これみよがしに解いた答えを書き込んでいない。私なら書き込んでしまう。

陽大は解いたならば書き込む必要なしと考えている。それに陽大は脳味噌まで

を筋肉にしてタイムを縮めようとしていない。脳をフル活用して筋肉に指令を

発している。速く走る為に学んだ彼是を活かそうとしている。筋トレもそのひ                                

とつ。速くるためのメニューも自分で考案。   

『円周率3.5』から美子は陽大の書き込みの全貌を知りたくなった。


■4/12にリターンを見直しました。活動報告の4/12をクリックして下さい。

 

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