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小説好きのあなたに近未来を届けます。

お届けする作品は『未来探検隊』の他三つです。四作品とも未発表。何れもワープロ原稿をワードの添付メールで送信。僕に送り先のメルアドが届き次第、直ちに送ります。スマホや他の携帯には送れても容量が大き過ぎて開けません。パソコンは大丈夫。ワードで圧縮せずに送るので今までの経験では問題なしでした。

現在の支援総額

18,000

1%

目標金額は1,000,000円

支援者数

4

募集終了まで残り

終了

このプロジェクトは、2021/04/05に募集を開始し、 4人の支援により 18,000円の資金を集め、 2021/06/04に募集を終了しました

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1%達成

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目標金額1,000,000

支援者数4

このプロジェクトは、2021/04/05に募集を開始し、 4人の支援により 18,000円の資金を集め、 2021/06/04に募集を終了しました

お届けする作品は『未来探検隊』の他三つです。四作品とも未発表。何れもワープロ原稿をワードの添付メールで送信。僕に送り先のメルアドが届き次第、直ちに送ります。スマホや他の携帯には送れても容量が大き過ぎて開けません。パソコンは大丈夫。ワードで圧縮せずに送るので今までの経験では問題なしでした。

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 一八五の君の走りは美しい。足が長いからストライドが大きい。跳ぶように

走っている。蹴り足がお尻に届きそう。ピッチがゆっくりでも前に進む。他の

ランナーは五歩。君は四歩。スピードは同じ。四百での歩数は百八〇歩。一般

的なランナーは二〇〇歩を超える。この違いは大きい。ランナーとしてのポテ

ンシャルが桁違い。これは才能だ。才能とは頑張らなくてもできてしまう領域。

一年間で八秒も縮めたのは才能。しかし君の走りの美しさは二五〇まで。二五

〇まではトップか先頭集団。そこから、もがき、が始まる。酸欠で全身がもが

く。もがくと失速する。四百は最後の百が勝負処。最後の最後の五〇が本当の

闘い。今の君はそれ以前に離脱している。四百は苦しい。百のスプリントとス

ピードを持続する筋力。呼吸せずに走り切る持久力も要る。究極の無酸素運動。

スタートしてから百までは誰も呼吸しない。呼吸するとスピードがその瞬間弱

まる。だから百のランナーは呼吸しない。百なら無呼吸でも走り切れる。二百

も無呼吸で走り切る。四百も無呼吸で走るらしい。しかし君には無理。君の才

能は持久力を持ち合わせていなかった。

 走り終わった時。苦しそうに喘ぐ君。両手を腰に当てて天を仰ぐ。大きく呼                                

吸して酸素を取り込む。幾ら苦しくても君は膝に手を置かない。顔を地面に向

けない。ここが他のランナーと違う。「俺はランナーでは満足できない。レー

サーを目指している。下を向いては跳ぶように走れない」と聴こえてくる。何

時も遠くを見つめている君。そんな時には流行り歌のひとつでも聞かせてあげ

たい。それもビートの効いたロック。「リラックスすれば跳ぶように走れる」                               

と言いたい。これが私の精一杯。君は流行り歌なんか聞かないと思っても私に

少し近づいてもらいたくて…。眠れない私が夜を過ごして朝を迎えられたのは

流行り歌と自分の歌と唄のお陰なのさ。それを知って欲しくって…。


 私はギターケースを背負ってチャリに乗っている。

 後ろから君が追いかけて来た。

 見る見るうちに距離が縮まる。

 このままでは抜かれる。

 チャリと走りのトライアルで走りに敗けたらみっともない。

 恥ずかしい。

 私は立ち漕ぎ。

 思い切り力を込めた。

 風圧で思うようにはスピードが出ない。

 頭の後ろのギターのネックが邪魔。

 ネックも風圧を受けている。

 前後に揺れる私の後頭部を打つ。

 前輪の上の籠も邪魔。

 籠に入れたリュックがグラグラして前進を阻んでいる。

 君の足音が聞こえてきた。

 息づかいが間近。

 並んでしまった。

 私は敗けじと「これでもかぁ」とペダルを踏みこんだ。

 足元には縁石の段差。

 前輪が右にグニャ。

 バランスが崩れた。

 危ない。

 私は右側に放り出された。

 幸運だった。

 右には君が居た。

 受け止めてくれた。

 アスファルトに叩きつけられなかった。

 君は私をお姫さまダッコ。

 笑っている。

「無茶するなよ」

「だって敗けたくなかったんだもの」                                

「美子もギターも壊れるところだった」

 君は私を降ろしてギターケースを背中から外そうと…。

「イヤ。もう少しダッコ」

「…」

 君の長い髪が私に触れた。

 汗の匂い。

「ねぇ。これってシアワセ。時間よ停まれ」

 横倒しのチャリの車輪が空回りしてた。

「誰か見ていてくれないかなぁ~」

 はにかんだ君は私を歩道に立たせた。

 チャリのスタンドにストッパーを掛けた。

 夢見心地はもの想いを強めてしまう。


 一年間で八秒縮められたのは才能。才能だけではオリンピアンになれない。

ましてファナリストは絶対に無理。オリンピックや世界選手権では決勝まで三

日間で三本の予選がある。二本を上手く早く走れたとしても準決を勝ち上がれ

ない。準決で力を使い果たしたら決勝はみじめだ。ファイナリストたちは予選

のレース運びが上手い。力を出し切らない。着順勝負の予選。その通過の着順

を見据えて走る。何時もと同じように力を込めて走るのは三百過ぎまで。それ

からは周囲をキョロキョロ。通過できるスピードに切り変える。全力は決勝と

決めている。彼らは全力での四百のダメージを熟知している。全部を使い切る

と回復までの時間がかかる。次のレースは翌日に待ち構えている。これを可能

ならしめているのは対戦者との力の見極め。そして自分の力への信頼と金メダ

ルまでの戦略。この戦略なくしてオリンピックや世界選手権で勝てない。


 美子はマイケルジョンソンをネットで探しまくった。


 日本の四百の教本はどれもこれも当たり前のように無呼吸を前提に書かれて

いた。美子の疑問が膨らんだ。納得できなかった。最大出力の下での人間の無

酸素運動は四〇秒が限度。四百を四〇秒未満で走る人類は居ない。マイケルで

さえ四三秒一八。何処かで最低でも一回呼吸しなければ四百のゴールまで辿り

着けない。君ならば二百を越えた処で一度。三百で一度。更に三百五〇の勝負

処で最後の一回。名づけて『勝利の三段ロケット』。「素人が何を言っている

のか」と四百の権威に言われそう。笑われそう。何を言われても、笑われても

構わない。私は君が速く、強くなれば良いのだ。

 

 美子はついにマイケルを見つけた。


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