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小説好きのあなたに近未来を届けます。

お届けする作品は『未来探検隊』の他三つです。四作品とも未発表。何れもワープロ原稿をワードの添付メールで送信。僕に送り先のメルアドが届き次第、直ちに送ります。スマホや他の携帯には送れても容量が大き過ぎて開けません。パソコンは大丈夫。ワードで圧縮せずに送るので今までの経験では問題なしでした。

現在の支援総額

18,000

1%

目標金額は1,000,000円

支援者数

4

募集終了まで残り

終了

このプロジェクトは、2021/04/05に募集を開始し、 4人の支援により 18,000円の資金を集め、 2021/06/04に募集を終了しました

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支援者数4

このプロジェクトは、2021/04/05に募集を開始し、 4人の支援により 18,000円の資金を集め、 2021/06/04に募集を終了しました

お届けする作品は『未来探検隊』の他三つです。四作品とも未発表。何れもワープロ原稿をワードの添付メールで送信。僕に送り先のメルアドが届き次第、直ちに送ります。スマホや他の携帯には送れても容量が大き過ぎて開けません。パソコンは大丈夫。ワードで圧縮せずに送るので今までの経験では問題なしでした。

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 マリアからメールが届いた。 

—こともあろうに佐々木薫子から手紙が昨日届いた。わたしが彼女を知らない前提で書か

れていた。頭が悪い。海彦は佐々木薫子のにじり寄りに屈しなかったんだ。頑張ったんだ。

それが面白くなくて口惜しくて橘南と云う女子をわたしに告げた。わたしと海彦の関係を

壊すのが目的。要するに海彦へのリベンジ。これから彼女から手紙が来ても無視。封を開

かずにゴミ箱行き。それはそれとして橘南ってどんな娘。海彦はつき合っているの…。わ

たしが思った通り海彦はやっぱりモテている。少しヤキモチ—

 まったく油断ができない。俺と橘南が並んで歩いているところを宮澤洋子か佐々木薫子、

そうでなければ別のお喋りな女子が見かけて騒いだんだ。佐々木薫子はマリアが言った通

り頭が悪い。根性がねじ曲がっているから頭が悪くなる。佐々木薫子が、俺ににじり寄っ   

た時に、彼是と考えたひとつ、マリアへの手紙は正しかった。俺が籠絡された時の手紙は

予測できる。誇らしげに、高らかに、自分と俺との関係を、これでもかとマリアに主張す

る。マリアが呆れ果てて、俺との絶縁を決めるまで、これでもかは続く。

 佐々木薫子の手紙は大した問題ではない。笑止と云う他ない。

 マリアは橘南を知った。

「付き合っているの…」と尋ねられた。

 返事を送らなければならない。それも直ぐに。嘘はつけない。                                   

 在りのままを伝えて分かってもらえるのだろうか。友達以上恋人未満を分かってもらう

のは無理。俺自身が分かっていない。南と俺はつき合っているのだろうか…。「つき合う

とは親密な相思相愛の関係」と南が言った。俺と南は親密であっても相思相愛ではない。

ひと言で云えば仲良し。幼馴染みの仲良し。それだけで言い表わせられるのだろうか。南

は俺への気持ちを伝えてきた。今のところ俺には南への恋愛感情はない。同情が大半を占

めている。しかしこれからは分からない。南は凛々しい。逆境が凛々しさを強めた。魅力

的ではないか…と問われたら、俺は魅力的と答えてしまう。

 俺が悩んでいるのはマリアに悪く想われたくないからだ。マリアに橘南を安心して欲し

いからだ。在りのままは安心してもらえない。だいたい俺自身が揺れ動いている。在りの

ままは揺れ動いている俺をマリアに伝えてしまう。

 それで良いはずがない。

 今夜中にマリアに返信しなければダメだ。遅れるとマリアに不信を持たれる。

それに南を傷つけるような文章は書けない。

 今は二十一時半。海彦は橘南の携帯にメールした。

—相談があるんだ。これから行ってもイイ…⁉…—

 直ぐに返信が届いた。

—OK。アップルティを準備して待っている。パイもあるよ—


 海彦はマリアからのメールをプリントして走った。南の部屋までは走って十五分。二十

二時前に着かなくては。過ぎると夜更けの怪しい時間になってしまう。それだけは避けな

くては…。俺と南は怪しい関係ではないんだ。南は俺の相談に応じてくれるのだろうか…。

 マリアに安心してもらう。南にも納得してもらえる文面を、どうしても思いつかない。

南への相談は窮余の一策。余りにも情けない。情けないけれど、此処は、正念場だ。格好

つけると後々困るに決まっている。窮地に陥るのは俺だ。恥はいち時。

 橘南は一F玄関で出迎えてくれた。

「海彦。どうしたの。なんか切羽詰まっているみたい」

「そうなんだ。生涯最大のピンチなんだ」

「生涯最大のピンチとは穏やかではないね。お茶の準備できているよ」

 海彦は差し出されたアップルティに手を付ける前にプリントを橘南に示した。

 それを読んだ橘南がすかさず言った。                                 

「海彦ってバカ…⁉…」

 海彦は紅茶を吹き出しそうになった。

「バカなのかも知れないなぁ。マリアへの返信を南に相談しようとしているんだから…」

「だってさ。橘南とは小五の時からの幼馴染み。そう打ち込めば済むじゃない」

「それで良いのだろうかと考え始めた。南と俺は幼馴染み。これは間違っていない。しか

し今は幼馴染みのままなんだろうか。南は俺を三回もドキッとさせた。南は友達以上恋人

未満が望みと言った。それを聞いて俺は嬉しかったんだ。友達以上恋人未満に挑戦しよう

と想ってしまった。だけど俺には友達以上恋人未満のイメージがつかないのも事実。そん

な時にマリアからメールが来てしまった。今の俺と南はただの幼馴染みでは無い」

「海彦って正直の前にバカがつく」

「嘘も方便はイヤなんだ」

「海彦ってそうだよね。小っちゃい頃から嘘を嫌っていた。嫌だって言うのは分かる。こ

のままではワタシからのプレゼンは無理。質問してから考える」

「質問。どうぞ」

「こともあろうに佐々木薫子から手紙が来た。この意味が分からない。マリアは佐々木薫

子を知っているんだ…。佐々木薫子のにじり寄りってナニ…」

 海彦は順を追って話した。

 正月の軽音楽部の音出しでのマリアへの敵対。海彦は私のモノ。イザベル。マリアから

の警告。にじり寄り。三学期終業式の後の佐々木薫子の…誘惑…。最後に宮澤洋子からの

「残酷」と「軽蔑」。もし俺が佐々木薫子に殺られてしまったらマリアとの関係は継続し

ていない。それへが妖怪たる佐々木薫子の狙い。そして南からコクられていない…と。         

「そうだったんだ。これが海彦がケイベツされている真実なんだ。彼女は病んでいる。そ

の病巣が何か、分からないけれど確かに病んでいる。海彦なら薫子を救えるかも知れない

ね。マリアとの勝負の他に薫子は海彦に救って欲しかったのでは…。今ふっと想った」

「止せよ。今そんなこと言うのは…」

「ごめん。女の娘は何も無くして妖怪にはならない。なるにはそれなりの理由がある」

「俺が悩んでいるのはもうひとつ在る。マリアからのメールに佐々木薫子からの手紙が示

されていない。要約が在るだけ。これが問題だ。だいだいは分かる。しかしながら詳細が

分からない。南のことをどのように書いたのかはまったく分からない。恐らくアリアは幼

馴染みでは納得しない。きっと数々の疑問を持つ。海彦は真実を書いていないと…」                                   

「分かった。薫子がワタシを良く書くはずがない。いま少し考える」

「紅茶のお代わりは…」

「お願いします」

 二十四時を過ぎていた。怪しい時間に突入してしまった。

「マリアには小五からの幼馴染みの仲良しと書く。ワタシと海彦の今を書く必要はない。

ワタシとは付き合っていないと書くべき。だって付き合っていないもの。海彦はワタシを

どう書くのか悩み抜いた。それはワタシを傷つけまいと考えたから。優しすぎると馬鹿に

近づくんだね。とんでもない馬鹿にコクったのかも知れない。それを今夜感じてしまった。

ワタシ。海彦の子供なら産んでも良いと思っているんだ。だってさ。ワタシには家族が居

ない。やっぱ家族を持ちたい。海彦の子供をたくさん欲しい。これって超フライングだっ

て分かっているから気にしないで。でも言える時に言っておきたかったんだ」

 海彦は家に向かって走った。やはり相談して良かった。橘南にバカと言われても相談し

て良かった。小五からの幼馴染みの仲良し。付き合ってはいない。これを軸に据えられる

ならスッキリとした返信を書ける。震災で両親を喪った南の過去は伏せておく。書かなけ

ればならない内容だけれど今は伏せるのが最善だ。マリアに疑問を持たれないのが最重要。

今夜はドキッとさせられなかった。代わりにガア~ンが鳴った。走っている海彦にはマリ

アへの返信とガア~ンが交錯した。返信の文面がまとまってくると「海彦の子供をたくさ

ん欲しい」が海彦を支配した。友達以上で恋人未満の関係では在り得ない「海彦の子供を

たくさん欲しい」。強烈。橘南は先をイメージして見据える。見据えると突撃。イメージ

は限りなく膨らむのが常。それに怪しい時間に突入するからこんなことになる。怪しい時

間が南に言わせたんだ。俺が主導権を握っていると思ったのは錯覚だった。「友達以上恋

人未満」は橘南の究極のレトリック。もはや浮かれている場合では無い。


—俺は監視されているみたいだ。気味が悪い。注意しなければ…‼…—

 海彦はマリアへのメールの最後にこう書き添えた。

 次々と難問が浮かび上ってくる。東の空が茜色に染まっていた。

 俺はどうすれば良いのだ。マリアとは切っても切れない関係。南が言った通り橘南とは

直ぐにでも切れる関係だ。関係を遮断するのは常に俺の方だ。遮断して良いのか。マリア

から絶縁されてもマリアとの関係は切れない。嘉蔵が存在する限りは切っても切れない関

係。絶縁で困るのはバンドの維持。もし俺が南と付き合い、それがマリアに知れた時には                                   

絶縁も在り得る。でもちょっと待て。本当にそうなるのだろうか。俺とマリアは付き合っ

ているのだろうか。付き合っているような、いないような可笑しな情況だ。他人同士の男

と女の付き合いを前提にすれば付き合っていない。出逢った時から付き合いが始まったと

も云える。俺とマリアの約束はふたつ。「Sea You Again」とバンド。このふたつは限

りなく付き合っているに近づく。近づいても俺はマリアと付き合っている自覚がない。出

逢ってから自然の流れで今日まで来ている。付き合う覚悟が無いから自覚が無いのだ。マ

リアはどうなのだろう。マリアが俺を困らせたのは俺の覚悟を試したのだろうか。それと

も激したひと時の感情を爆発させただけなのだろうか。そうだとしても激するには激する

だけの感情の大本が在る。それに基づかなければ激さない。マリアも無自覚に俺との付き

合いを望んでいたからなのだろうか。そんなことは在り得ない。俺と違ってマリアはボヤ

~としていない。やはり俺の覚悟を試したのだ。「付き合う」との言葉を交さずともマリ

アは俺と付き合うのを望んでいる。そして付き合っていると思っている。他人同士の男と

女の付き合いとは違う付き合いを求めている。それにも覚悟が要る。俺とマリアはこれか

らどのように付き合ってゆくのだろう。付き合っていけるのだろうか。バンドなくして俺

とマリアの付き合いは継続しない。橘南の「友達以上恋人未満」は現況を見据えたプロポ

ーズ。この申し出に応じた時には付き合っているのと同じだ。だから俺は今考えさせられ

ている。南は俺に覚悟を求めている。今と先を見透さなければ覚悟できない。覚悟を無理

強いすることはできない。無理強いした覚悟は直ぐに破綻するに決まっている。そうなれ

ば俺はマリアにも橘南にも失礼な男になる。やはり今と先を見透さなければ覚悟できない。

マリアとの先を見透すとはバンド。これを抜きには考えられない。南との先は見えない。

見えないと覚悟できない。やはり南に今は覚悟できないと言う他ない。

 

 翌日、海彦は橘南が希望したイオン仙台店のフードコートで待ち合わせた。                               

 橘南は既に買い物を済ませていた。

「今日は安売りの火曜日なの。まとめ買い。主婦みたいでしょう」

 長葱の青緑色がはみ出していた黄色のエコバックを橘南は開いた。野菜や肉魚、一〇ケ

入りの卵パックや冷凍食品が入っていた。お菓子も少し。

「休憩しない」

「うん。俺。ミスドで何か買ってくる」

「一緒に行く」                                    

「そうだな」

「海彦。ちょっと変。心ここに非ずと言った感じ。何か買ってくるのは変。南。何にする

…と聞くのが普通。それから飲み物どうする…でしょう。どうしたの。何かあったの…」

「マリアにメールを送ってから南を考えた」。海彦は昨夜のガア~ンから考えた内容を南

に告げた。最後に「俺は今、覚悟できない」と言った。                                   

「海彦って本当にバカ…‼…。ワタシ。海彦に覚悟を求めてコクっていない。マリアの次

で構わないと言っただけ。海彦と時どき今日のように一緒に居たいだけ。切っても切れな

いマリアに敵わないと言っているのに。ワタシは奥目で美人でないし唄えない。海彦に何

かをもたらす女子でも無い。何処にでも居る普通の女子高生。ワタシが邪魔なら、荷物な

ら、重い荷物ならそう言って。ワタシ。海彦の前から消えるから」

 橘南は通路に立ち尽くし、瞳を見開いたまま、大粒の涙を流し、拭おうともしなかった。

「そんなこと言えないよ。俺たちは小五の時に離れ離れになったけれど幼馴染みだろう。

小五の時は仲良しだった南にそんなこと言えない。俺は喪った南との七年を埋めたい。先

のことはそれからだ。今夜のご飯はナニ。ご馳走して下さい」

 海彦は橘南の頬に両手を添えて親指で涙をぬぐった。

 橘南は海彦の首に飛びついた。

 号泣。

 海彦は波打っている橘南の背中を抱え上げた

 床に置かれたエコバックが崩れ、玉葱がひとつ転がり出た。

「牛シャブ」



■『アンダルシアの木洩れ日』の抜粋は明日のその15で終了します。次は『スパニッ

 シュダンス』の抜粋を届けます。また4/12にリターンを見直しました。活動報告の4

 /12をクリックして検討下さい。

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