中間テストが終わった日曜日の朝。寝坊していると海彦は志乃に起こされた。
「お父さんが待っている。起きて。顔を洗って。歯を磨いて」
海彦は、逆立った寝癖を直そうと、湯タオルを頭に載せ、海太郎の書斎をノックした。
「まあ座れ」
海太郎は椅子を回転させ海彦と向き合った。
「明日から海へ出る。予定では二〇日。今度も北だ。根室海峡でロシアによる漁船拿捕が
起きた。北海道の海は広い。それで応援。日本人相手と訳が違う。外国船は漁船であって
も銃火器で武装している。北からの風と潮も厄介だ。それでも必ず無事に戻る」
「根室海峡って知床半島の東側…」
「そうだ。国後島との間。拿捕海域は幅二〇キロの海峡から北へ一〇キロの海域。此処は
スケソウダラの水揚げが多い。シャチのお見合い場所でも在る」
「海に落ちたら助からないね」
「一分も海に浸かっていたら蘇生は無理だ。流氷はまだ処々に残っている。今は三度くら
いかな。しかし流氷は恵みをもたらす。世界でも類まれな漁場。オジロワシやゴマフアザ
ラシ。イルカ、シャチ、ザトウクジラも集まる」
「父さんの仕事は大自然相手でもあるんだ。海は大自然そのもの」
「問題が発生しなければ幸せな仕事だと何時も思う。拿捕されると身柄を拘束される。船
も取り上げられる。返してもらうのに幾らの金が必要か知らないだろう」
「ロシアに拿捕されると保釈金でカタがつく。金額は分からない。拿捕されても保釈金を
払えば無罪放免みたいだ。日本の法律と違う。裁判がない。何か変だ」
「ここは微妙な海域なんだ。北方領土返還は日本の国是と言っても良い。ロシアは応じな
い。拿捕は返さないとのメッセージでもあるんだ。ひと昔前は保釈金を充て込んだ拿捕と
思える事例が多かった。ロシアの経済が立ち直ると拿捕の件数は減った。船の大きさにも
よるが一千万円が最低の水準。拿捕される者にとっては死活問題になる」
「となるとハッキリした違反でなくても拿捕される。船に積んである魚はどうなるの」
「ロシアが証拠品として押収する」
「往復ビンタにゲンコツだ。だから父さんが行くんだ。でも拿捕の現実を俺に教えたくて
叩き起こしたんじゃないよね」
「そりゃそうだ。俺は海彦に歴史を学べと言った。学ばなければならぬ歴史とは拿捕件数
の年度別推移では無い。拿捕する側、される側の実情が歴史だ。それを伝えたかった」
「な~だ。父さん。俺を見くびり過ぎ。歴史には表と裏、光と影、の両面が潜んでいる。
勝者の歴史が古代から近代までの教科書。敗者にも歴史がある。支倉常長は表。嘉蔵が裏。
スペインとの通商は政宗の野心。これが光。家康の魂胆は影。通商が実現しなかった結果
に勝者もなければ敗者もない。政宗の野心は頓挫。家康の魂胆も泡となり国を閉ざした」
「それだけ分かっていれば充分だ。私は言わなくて良いことを言ってしまったようだ。伝
えたかったもうひとつは歴史を学ぶとは平和を築く人間になる…ことだと」
「分かった。マリアの政治家に繋がるね」
「これからが本題だ。昨日ハポンの会から正式な招待状が届いた」
海太郎は封書を海彦に渡した。開けると招待状が日本語で印字されていた。それと有効
期限が半年間のイベリア航空の往復チケット。マドリットとセビリアの往復も。
— 瀧上海太郎さま
前略。過日コリア・デル・リオのハポンの会は臨時総会を開催しました。そこで正式決
定したのは瀧上海太郎氏長男海彦君の招待です。勝手ながら来西は海彦君の夏休みが良い
かと思っております。宿泊先はトーレス・ロドリゲス・ハポン宅になります。
年末年始には孫娘のマリアが大変お世話になりました。
その御礼が遅れてしまいました。失礼をお詫び致します。
私どもは末永い交流を貴家並びに仙台の日西友好協会、そして日本の方々と続けたいと
念願しております。平和の架け橋を世界中に示したいと考えています。
我が街のハポンを名乗るスペイン人は六百人ほどです。百世帯と少し。スペイン全土で
は八百人は下らないと推測しております。その大半の方々がハポンの会に所属し、僅かで
すか会費を納めています。それを資金としての招待です。
御子息海彦君が我々の四百年を埋めてくれると。そして我々の新しい歴史が始まると胸
が膨らみます。御予定が決まり次第、連絡をお待ちしております。かしこ。
コリア・デル・リオ ハポンの会
会長 トーレス・ロドリゲス・ハポン —
「立派な招待状だね。父さん。これはマリアが書いた文章だよ」
「本当か。本当だったらエライことだ。日本人でもこうはなかなか書けない。正式文書に
ありがちな常套慣用句が排除されている。海彦。どうしてマリアが書いたと分かるんだ」
「何か所かあるんだ。先ず書体。『HG丸ゴシックMーPRO』。これは俺が気に入って
使っている。マリアもこれを気に入った。次に『前略』と『かしこ』。これは手紙を書く
時の巻頭句と結び。マリアから日本語で手紙を書く時の書き方を教えてと頼まれ教えた。
『来西』もそう。漢字ではスペインを西と書く。こう言うとマリアは眼を丸くした。たっ
た一文字でスペインを表わす漢字の表意『西』に驚いていた。スペイン人で『来西』を使
えるのはマリアくらいと思っている。日本人にもあまり居ない」
「マリアには驚かされるばかりだ。挨拶も、政治家も、歌も。今度は招待状だ」
「父さん。俺も同じだよ。ぼやぼや、うかうか、していられないと尻を叩かれっぱなし。
俺は驚くのに慣れてしまった。あんな女子高生は日本には居ない」
「居ないだろうな。それは私にも分かる。海彦。何時行くつもりだ」
「五日前にマリアからのメールで正式招待を知らされその時から考え始めた。八月一日か
ら一〇日はどう…。お盆に間に合う」
「では私はその予定と御礼を日本語で書く。お前がスペイン語に翻訳してくれ」
「えっ。俺がスペイン語で書くの。父さん。ズルイ」
「ズルイか。親とは身勝手でもある。お前は近々スペインに行く。スペイン語の勉強にな
るだろう。マリアは立派な日本語で書いた。お前も負けられないはずだ」
海太郎は本当にズルそうに海彦を見て哄笑。
「海彦。良かったな。マリアの家にホームステイできて」
海太郎はこう言い残して書斎から出て行った。親父もズルするんだ。俺には初めてだ。
ズルと云うよりもこれは意地悪だ。親父は俺がスペイン語で書けないのを知っている。俺
が自分と同じ水準と知っている。二人とも百の単語を覚えるのが精一杯。それなのに命じ
た。何か変だ。父親が息子に意地悪する。それもパパ海太郎がだ。何かある。会話の勢い
で意地悪するほどパパ海太郎は単純ではない。何故だろう…。俺への物足りなさかも…。
意地悪するには何かしらの理由がある。人に言わない。言えない根深さが必要だ。
海彦はふ~っと長く息を吐いた。明らかに何時もと違うパパ海太郎。ズルそうな顔を俺
に初めて見せた。それが可笑しかった。ひょっとしたらヤキモチ…。俺はマリアと仲良し
になった。マリアとバンドを組み音楽をやりたいと言った。墓を守れに納得した。懊悩呻
吟して一曲創った。送ったカラオケにマリアが歌を入れた。それを聴いたみんなは顔色を
喪った。彩だけが得意気。俺は嬉しいよりホッとした。それは一刻。今はたったの一曲。
音楽の路に進むと云っても駆け出しただけ。路は長くて遠い。路上ライヴでも三曲は要る。
まだまだ孵化したばかりの稚魚の俺。まだまだの俺。焦ってもどうにもならない。プレッ
シャーの下でも一曲創った。とりあえず一曲できた。それをユニットとして鍛え上げなけ
ればならない。編曲を工夫する。時間は沢山ある。
やはりパパ海太郎のヤキモチだ。俺が巣立とうとしている。親父はまだまだ子供と思っ
ていたんだ。俺には秘策がある。意地悪への対抗策がある。経緯をマリアに包み隠さず伝
え、スペイン語に翻訳してもらい、それを書き写す。マリアには親父の意地悪を一部始終
書こう。俺をもう直ぐの一人前と認めてくれたと添えて。
海彦の携帯が振動した。メールの着信。授業中はマナーモードに切り変え、左の胸の内
ポケットに入れている。それが震えていた。
授業中に連絡してくる奴は居ない。そいつらも授業中。授業中と知ってメールするのは
余程の急な連絡。悦ばしい知らせなら急がなくともよい。ゆっくりと昼休みにでもメール
すればよい。何かしらの異常事態発生…⁉…。海彦に悪い知らせの嫌な予感が過った。
教師を窺い見つからないようにメールを開いた。志乃からだった。
—お父さんが撃たれた。ヘリコプターで旭川に搬送中。キトク。今はこれしか分からない。
直ぐに家に戻って来て—
海彦は二回読んだ。血の気が引いた。
海彦は黙したまま相対性理論の時間のゆがみを熱く語っている物理の教師に向かった。
「どうしたんだ。海彦。何も言わず近づいて来て」
海彦は志乃からのメールを指し示した。
「先生。俺。帰る。授業中にゴメンナサイ」
海彦は小走りに校門を出た。遠くの右に一台のタクシーが見えた。そのタクシーに向け
て両手を大きく振った。タクシーが停まってくれた。
「一番町一丁目」
運転手は海彦のただならぬ気配を察してくれたのか、急ぎの運転に切り変えてくれた。
親父が撃たれた。キトク。ヘリで旭川に搬送中。これだけが海彦を駆け巡っていた。
海彦は志乃に『もう直ぐ到着。今はタクシーの中』と返信。咄嗟に橘南にもメール。
—親父が撃たれた。危篤。オホーツク海の現場からヘリコプターで旭川に搬送中。今は家
に戻る途中のタクシー。今日の夕食会は延期して。またメールする—
家に着くと門の前に黒塗りのプレジデントが停まっていた。海上保安庁の制服二人が乗
っていた。海彦がタクシーから降りると、二人は揃って車から降り敬礼。海彦は直立不動。
深く正しいお辞儀で応えた。「ご苦労様です」。通用門をくぐった。
玄関を開けると志乃が上がり框(がまち)に両膝を載せて正座していた。
黒のスーツ姿。その後ろに海之進と静が座って居た。
「海彦。これから迎えの車に私と乗ります。必要と思えるものはバックに詰めました。パ
ソコンとルーターも入れました。携帯の充電器も入っています。さあ行きましょう」
海彦は着替えたかった。スリムのジーンズにマイケルジョーダンの白いトレーナー。何
時ものナイキのバスケットシューズ。余りにもラフ。そんな悠長な場合ではなかった。表
情が消えた志乃に気押されてしまった。
海彦はプレジデントに乗った。車に乗り込む寸前、海之進が「海太郎を頼むぞ」。背中
で海之進に応えた。静が縋るように手を振っている。
助手席に座る制服は「報道官」と名乗った。
「これから塩釜の海保にお連れします。そこで待機しているヘリに乗ってもらい旭川に向
かいます。一時間一〇分で旭川医科大学付属病院のヘリポートに着きます」と言った後に
無線で「只今瀧上一等保安正の奥様志乃様と長男海彦君を車にお連れしました。庁舎到着
までおよそ十五分。どうぞ」。無線特有のザザァ~の雑音の向こうから「了解」。
—『ゆうぎり』は根室海峡を北上。知床半島の先端を廻りオホーツク海に出た。レーダー
が不審船を捉えた。網走沖北北東七五キロ。此処は日本の排他的経済水域。不審船は動い
ていない。恐らく密漁。この海域は毛ガニの漁場。他にもヒラメや水蛸の好漁場。今は毛
ガニの漁期ではない。漁期ならば多くの漁船がレーダーに映る。一隻の場合の多くは密漁、
二隻ならば瀬取りの密輸。『ゆうぎり』は全速で接近。視認。『ゆうぎり』の接近に気づ
いた不審船は急ぎ網を巻き上げていた。底引き網。一五〇トン程度の中型漁船だった。船
長の双眼鏡にはその在り様が写っていた。不審船は国籍を隠していた。日本国籍の船では
無い。日本の漁船なら船体に船名を記している。この時点で不審船は国籍不明船に。『ゆ
うぎり』は英語・ロシア語・中国語・ハングル語で国籍を明らかにするよう警告。そして
「網を捨て退去」をスピーカ-を通して命じた。国籍不明船は応じない。網を巻き上げて
いる。再度の警告と命令にも応じる気配がない。瀧上一等保安正は船長から放水の命を受
け部下二名を従えて船首の甲板に出た。放水開始。国籍不明船までの距離は約五〇M。強
烈な放水が網を巻き上げている三名に命中。放水の威力は屈強な男をも弾き飛ばす。三名
は甲板に伏せた。その時に船室の窓から発砲。連射。機関銃だった。瀧上一等保安正が二
人に伏せと怒鳴った。一瞬遅かった。放水ハンドルを握っていた者の側頭部を打ち抜き、
瀧上一等保安正の右胸を貫通。もう一人は伏せて銃弾から逃れた—
「これが事件の概要です」と報道官が海彦と志乃に言った。
海彦はヘリコプターからの景色を見つめ聞いていた。仙台の市街地と田園。石巻の湊。
リアス式海岸。岩手山の上空に差しかかると下北半島が遠くに見えた。真下は津軽平野の
東。空は快晴。下界の出来事は嘘のよう。
海彦は報道官の説明をひとつ残らず記憶した。
「何時かこんな時が来ると。お父さんが海上保安庁に任官した時から覚悟していました」
志乃は海彦に語りかけるのではなく、微笑みを浮かべ、独り言のように言った。
海彦は志乃の左手を握った。手は冷たくも志乃の微笑みは美しかった。
津軽海峡が少しずつ南に動いていた。ヘリコプターは苫小牧から東南に延びる海岸に近
づく。海岸線を一台の車が東南に走っていた。快晴の穏やかな景色。静かだった。
海彦は志乃の「こんな時」と「覚悟」を反芻した。親父も任官した時から命を賭して日
本の海を護ると腹を決めていたんだ。俺は何ひとつ知らずに育てられ生きてきたんだ。
夕張山地の上空。頂上付近には雪が残っていた。
「間もなく旭川です」とパイロット。
大雪山連邦の頂きが近づいて来た。まだまだ雪が深い。里は桜が散った北国の春。
ヘリコプターは徐々に速度を落とし高度を下げ始めた。
盆地の中の旭川。仙台と似ている佇まい。人々が暮らす市街地と田園。違いは海と碁盤
の目の広い道路。海彦は屋上に立ち手旗を振っているヘリポートへの誘導員を見た。
親父が死んでも戦死ではない。殉死。戦い、撃たれた親父は死んでも殉死。戦死と殉死
では意味が違う。何故殉死なんだ。多くの場合、訓練中とか不慮の事故での死を意味する。
警察官が暴漢に襲われ命を落とした時も殉死。PKOで南スーダンの戦闘地域に派兵され
た自衛官が撃たれ亡くなった時でも殉死。自衛隊では戦死は在り得ないのだ。
親父は日本の排他的経済水域を守ろうとして戦った。親父は勇敢に戦う。腹を据えて、
覚悟を決めて、戦う。親父は怯まない。これだけが真実。
「日本人相手とは違う。相手は銃火器で武装している。必ず生きて帰る」
親父は出航の前日に俺に言ったのに。
…死ぬな。親父…
排他的経済水域は日本の領海内では無い。けれど日本の一部だ。そこに外国の漁船が勝
手に侵入して密漁。その現場を発見したら『ゆうぎり』は黙っていない。その先頭に立っ
て親父は戦った。そして外国人に撃たれた。部下の一人は即死。万がイチ、親父が死んだ
時、親父の死が、殉死と、呼ばれ、扱われるなら、親父は、死んでも、死にきれない。
親父は、日本の国益を、守ろうとして、戦った、紛れもない、戦死なのだ。
ヘリコプターは『旭川医科大学付属病院』屋上のヘリポートに着陸。出迎えた一人の制
服が海彦と志乃を屋内に導いた。報道官も降りた。三人が降りたのを確認するとヘリコプ
ターは離陸。上昇開始。飛び去った。その途中で二回、機体を左右に振った。翼が無くと
も翼を振った。海彦はそれを見届けた。ヘリコプターも親父の生還を祈っている。
集中治療室から医師が出て来た。海彦と志乃は名乗り集中治療室に入った。
海太郎は眠っていた。酸素マスクを装着。点滴が二本。輸血が一本。輸血の管は止まっ
ていた。意識が無い海太郎。全身麻酔で眠っている様子に似ていた。苦しそうな表情では
無い。かと云って何時もの海太郎では無い。まったく表情が無いのだ。
死相が現れている。海彦にはそう写った。ベットの横に置かれた心電図が海太郎の心音
の波形を刻んでいた。これだけが海太郎生存の証し。心電図の波形が横に真直ぐに延びた
時が死。海太郎を見つめた。ただただ見つめた。
「今夜が峠です。手は尽くしました。生還を祈りましょう。状態を説明します」
医師は心電図の前に立ち海彦と志乃に正対した。
「搬入された時は正直ダメかも知れないと思いました。直ぐに何とかなるかもと思い直し
ました。いや。何とかなるのではない。何とかしなければ。絶対助けなくてはと。ひとつ
は銃弾の貫通。ふたつ目は止血の正確さと素早さ。それとヘリの中での輸血。この三つが
今の命を繋いでいます。さすが海上保安庁です。人間は血液を三〇%程度を流出すると命
の危険に晒されます。瀧上海太郎氏は弾丸に肺の静脈を傷つけられ大量の血液を喪ったの
です。私は静脈を繋ぎ合わせました。危険な手術でした。成功しました。繋ぎ合わさなけ
れば何時までも出血が続く。助かる命も助からない。救護班は出血の量を見定めての輸血。
瀧上海太郎氏は流失した血液と闘っています。生命力に期待しましょう」
医師の説明の最中に志乃は海彦の手を握った。指先が温かかった。
「夫の手を握っても良いでしょうか」
「かまいません。それが一番の良薬になります。御主人の通常時の血圧が分かりますか」
志乃は白い毛布カバーの横から両手を忍ばせ海太郎の右手を握った。
「はい。一三〇から一四〇の間です。低い方は八〇から九〇です」
「現在は一一〇と六五前後です。脈拍はほぼ五〇で安定しています。意識を喪ったのは銃
弾が貫通した時の衝撃の強さと大量輸血による貧血。問題は遅発性の副作用。輸血から二
十四時間後に現れます。発熱が心配なのです。発熱は合併症を引き起こします。黄疸は免
れません。発熱が肝臓に悪影響を及ぼさないか注視しなければなりません」
海彦は海太郎に語りかけた。
「親父。決して海で死ぬな。生き恥を晒して生きろ」
海彦はこの世から親父が居なくなると一度も考えたことがなかった。想いもしなかった。
俺も腹を括らなければ…。覚悟しなければ…。親父が生還できなかった時には俺がみん
なを護ってゆかなければ…。親父がやってきたように…。
■『アンダルシアの木洩れ日』の抜粋はその15で終了です。明日からは『スパニッシュダ
ンス』の抜粋を、このプロジェクトの終了日まで、掲載します。楽しんで頂けるなら嬉し
い限り。
■4/12にリターンを見直しました。活動報告の4/12を開いて検討下さい。




