土石流の発災から2か月が経ち、仲道地区以外の地区からの要請も入っており活動範囲が広がってきています。
熱海市伊豆山土石流災害の被災地は岸谷、浜、仲道、七尾の4か所。
一番被害の大きかったのは岸谷地区で、多くの人が避難所にいます。
伊豆山地区全体の生活復旧支援と心のケア支援のためには今しばらく伴走が必要と考え、私たちはあと1か月ほど、この災害で傷ついた地域のレジリエンス(=災害を乗り越える力、自発的治癒力、回復力)を引き出すため福祉的災害支援を継続することとしました。
皆さまの温かい応援とご支援に感謝し、2か月目のレポートをご報告させていただきますのでご覧ください。
また、引き続きご協力いただけますよう心からお願い申し上げます。
会話で感情をケア~おしゃべりドライブ~
まだ行方不明の方々の捜索が続いていて、公に楽しんだりすることは憚れる8月を迎えていた被災地。
長引く避難生活や生活再建に追われて、悲しみを口に出来ない人も多く、悲嘆を抱えたまま孤立してしまうケースもあります。
そのような中、無料バス送迎支援の道中では誰にも言えない気持ちを吐露していただくことが増えていきました。
車内なら安心して話すことができ、また外出による気分転換をすることで心が解放される。
そこで精神福祉士やグリーフサポーターなどの専門家にも同行していただき、第三者が話を聞くことで悲しみや喪失感など負の感情のケアを目的とし「おしゃべりドライブ」を運行しました。
参加者のお母さんたちが、みんなのお弁当を手作りしみんなに差し出す、
また誰かが誰かの飲み物を買ってくる、そんな心遣いの中にこそ、生きている実感が生まれてきます。
参加された方々からは、
そんな気分になれないと思っていたけれど、参加してみてよかった。みんなと話せてよかった。また明日から頑張れる気がします。
との声をいただきました。
「高齢者になると、そんなささやかな楽しみが失われていきます。でも、ここでは支援されている人が自分でみんなのお弁当を作っている!驚きました。」
と、同行いただいた精神保健福祉士の武山さん。
『これが喜ばれるだろうか、あの人はこれが好きだろうか』そういう他者を意識した交流が、生きる実感につながり、心のレジリエンスが引き出されていくとのことでした。
無料バス送迎支援(移送支援+心のケア支援)
伊豆山地域で路線バス運行休止が続く中、車など移動手段を持たない住民の皆さんの買い物や通院の足としてドアツードアの無料バス送迎支援を続けています。
大雨などで災害臨時交通機関の運行が予告なしで休止することがある被災地の現実。最悪の場合、職場まで徒歩2時間をかけて出勤せざるを得ない方がいらっしゃることをお聞きし、ニーズを確認した上で朝の送迎も始めていました。
そして9月1日、ようやく公共バスが再開することに!
一時は不安に押し潰されそうでしたが、こうしてたくさん助けていただいたからこそ、これからも頑張って生きていこうと思います。
とショートメッセージを送ってくれた方も。
数日でも出勤できない日があれば仕事を失ってしまう切羽詰まった状況にあって、被災してなお生計を立てている方々にとっては必要不可欠な交通手段。
バスの再開は、私たちも心からほっとし嬉しかったです。
この無料バス送迎支援は単に目的地への移動手段の提供というだけではなく、隠れたニーズをお話いただける機会となり、また対話を通して心のケアも行える福祉的災害支援の一つとなりました。
伊豆山キッズクラブ+絵本読み聞かせ(子どものハートケア支援)
8月も大雨が降るたび断続的に避難指示が出される被災地で、なかなか気が休まらない保護者と子どもたち。
子どもたちを笑顔にし、それを見る大人達のレジリエンスを高めることを目的に、7月に引き続き伊豆山小学校体育館にてキッズクラブを開催しました。
さらに夏休み中は、絵本の読み聞かせと紙芝居に、ウクレレの演奏を入れた絵本ライブも行いました。
子どもも大人も絵本の世界に引き込まれる心安らぐ時間になったようです。
現在は夏休み期間が開け、小中学校の授業が再開されています。
土石流災害現場から1.5kmにある伊豆山小学校は安全を考慮して休校となっているため、東西近隣の2つの小学校へ、市が用意したバスで通学しています。
「みんなのことを気にかけてくれていた人たちがいた」という記憶として、子ども達の人生の糧の一つになってくれることを願っています。
と保護者の方。
「不安ばかりが募る中、私たち親もたくさん励ましていただきました。ありがとうございました。」
とおっしゃる方も。
近々皆さんが地域回復の力となっていくことを願っています。
絵本の宅配便(子どものハートケア支援)
友達と会ったり外遊びが制限され、子どもたちの楽しみであった恒例の図書館バスも中止に追い込まれた夏休み。
そんな親子に心安らぐ時間を過ごしてもらうため、OBJ災害支援拠点(福島県南相馬市)より仲道町内会へ絵本30冊を発送、キッズクラブでの貸し出しや在宅避難者への「絵本の宅配便」を行うことなりました。
福島県南相馬市立中央図書館司書の絵本専門士 佐藤さんに選んでいただいたことをきっかけに、全国各地より絵本寄贈のお申し出をいただいたり、静岡県内の絵本専門士の方々がキッズプログラムにかけつけてくださったり、支援の輪が広がっています。
東京都大田区からは「被災地の子どものために、子ども達が選んでくれた」本が届きました。
これがすごい!
専門の方々から寄せられる絵本ももちろん好評なのですが、「子ども」が「子どものために」選んだ本にはみんな飛びついていました!
やっぱり好きな本は同じ仲間が選ぶのが一番なんだなぁと感じました。
もちろんお母さんがたも、心をこめて選んでくれたことをとても喜んでくれています。
また屋外や複数の友達と遊ぶことができない難病を抱えるお子さんがいると聞き、絵本専門士の選んだ心の癒しの絵本を届けました。
絵本の宅配便が来たーーーー!
とみんな月曜日を楽しみにしてくれています。
絵本が子どもたちの心を癒し、その笑顔が家族を癒す。つらい現実の中にも、楽しみや笑顔は大切であると改めて感じた支援でした。
8月下旬には直接的被害があった岸谷地区へも絵本の宅配便が始まりましたが、
被災前のように子ども達が本を楽しめるようになるのもそう遠くないものと思います。
健康たいそう(地域交流支援)
伊豆山仲道町内会の皆さんとの協力のもと生活復旧支援に取り組んでいますが、その活動の一環として「健康たいそう」を続けています。
長引く被災生活でストレスを抱えている心と体のリフレッシュと、住民同士のコミュニケーションの活性化がその目的です。
8月は伊豆高原十字の園やYMCA東山荘よりインストラクターの方々をお迎えし、専門家の指導のもと健康体操を開催しました。
椅子に座ったまま出来る軽い動きで腕を振って足を上げる、歩く体操から始まり、その動きを音楽に合わせてリズムよく徐々に速くして筋力アップのトレーニングをしました。これは生活に必要な体の体幹を鍛えることにつながるとのこと。
椅子から立ち上がる時のような、普段の生活に使う筋肉を動かすストレッチと筋力を付ける運動もあり、
立ち上がる時のコツが分かってすっきりした。オーケー!
と満足度のある体操となったようです。
健康体操に参加された方がお互いに自己紹介してお知り合いになることもあります。
「なんとなく見たことはあったけど、話したことはなかった」とおっしゃる方々に活動を通して交流が生まれ、人と人とがつながり、地域の回復力(レジリエンス)となります。
顔の見える機会を創出し、人と人とのつながりを作り引き出すことは、私たちが被災地に残すべき希望であり復興の後押しになると期待しています。
台風9号に備え・避難指示発令時の支援活動
8月14日、夜半からの降雨により避難指示が発令され、熱海、湯河原間を走る国道と沿線の道路が通行止めになりました。
詳細情報を知るため公民館へ集まった方々へ支援物資を配布。
土石流発災時に発令されていた市からの警報が警戒レベル3(高齢者等避難)であったため避難が遅れたと苦情が非常に多く、現在では避難指示発令が頻繫に出されるとのこと。
その度に臨時バスの運休や国道の通行止めが行われ、地域の生活に大きく影響が出ています。
臨時バスは連絡なく運休する為、運休を知らずにバス停で待ち続ける利用者がおられ、急遽移送支援も行いました。
職場からの理解を得ることが難しく休むことができない状況だったとのことです。
別の日には自主避難が発令されましたが、高齢の方はその自主避難がままなりません。
何度も何度も避難が続いて、それでも体が動かなくて、一人で生きていくのは辛いですよ。
そう話してくれた90代のキヨさん(仮名)は、町内会の見守り支援のため公民館に詰めていた私たちにつながり、無事に避難場所へお送りすることができました。
町内会をサポート(生活復旧支援、コミュニティ支援、在宅避難者支援、一人暮らしの高齢者見守り支援、引きこもり支援)
2か月経つ今でも企業から熱海市へ物資支援があり、町内会へ配布要請が入ります。
飲料水などの重い物資などもあり、その配布や戸別配達などのサポートを行ってきました。
公民館常駐の町内会役員さんが不在時はOBJスタッフが管理を担当して対応し、町内会との信頼関係ができたことを実感しています。
発災時の仲道地区の状況は、断水、停電、電話の不通があり、公民館へ40名の住民さんが避難をしていました。
平時より互いに町内会と住民が助け合う協力体制が出来ており、在宅避難者への支援活動は町内会と消防団のみで行っていたとのこと。
何しろ初めてのことだから、誰も分からない状態で、とにかく残ってる住民を助ける。避難しないで公民館を開けて支援活動をやった。
と自身の避難は考えず、町内会役員として住民の生活支援を行っていたそうです。
公的支援が届かない中、私たちがいち早く現地入りしてニーズに合った支援活動を開始したことに評価をいただいていました。
”助けて”と声にならない方々は心身や生活に困難を抱えている場合が少なくありません。信頼いただき住民台帳をもとに一軒一軒足を運び続け支援を続けてきました。
役員の皆さんも被災され疲れがたまる中、サポートを続けてきたことはこれからの復旧の力になるとおっしゃっていただいています。
最近は最も被害の大きい岸谷地区への物資配達も行いながらニーズ調査を始めています。
まだお一人の方が行方不明で、立ち入り禁止区域の多い直接的被災地。岸谷地区の生活復旧はようやくスタート地点に立とうとしています。
災害支援の中心はあくまでも被災地域住民の皆さん
支援者が被災地域に何を残していけるのか、私たちは常に考えながら活動を行っています。
例えば、
事業を継承していけるようにしていくこと
スキルやコンセプトを伝え残していくこと
それらももちろん大切ですが
地域のレジリエンスを引き出すこと、これにつきると実感しています。
悲しいことですが、災害は人と人の間の「溝」を大きく、深く、拡げてしまいます。
だからこそ人と人との連帯感をもう一回紡いでいかなければなりません。
それは「復興」や「復旧」や「目標」や「ビジョン」ではなく、十分に「悼み」「悲しみ」「嘆く」中からしか生み出せないのではないかと考えています。
私たち「外部」の災害支援団体ができることは、私達の活動を通して、人と人とがつながっていくことの素晴らしさを再認識してもらうことです。
被災地域の人同士もそう、また被災地域の人と外部の人もそう。
コロナ禍は、災害支援する人の思いすら自粛ムードに変えてしまう恐ろしさがあります。
しかしコロナ禍だからこそ残していきたいのです、人と人のつながりのすばらしさを。