実は私、結婚して原木しいたけ農家に来るまで知りませんでした。
原木しいたけ栽培が、絶え間ない力仕事によって成り立っていること。
「え、毎日こんな肉体労働してるの?」って本当にびっくりしたんです。
ということで、擬似体験してみましょう。まずは、原木の水漬け。
ウチのようなハウス栽培の場合、しいたけを発生させるために一昼夜、原木を水槽に沈めて水責めにします。それにびっくりした原木の中のしいたけ菌たちが「生命の危機だ!子孫を残さねば!」と胞子を飛ばすために顔を出すという仕組みになっております。
原木を台車に乗せて水槽に運ぶわけですが、これ、細い木でも1本4kg、太いものだと13kgくらいあるんです。いわば10kgの米袋相当の原木を、当たり前ですが一本ずつ手で運ぶんです。だいたい1日に5枠から6枠を運ぶので、この作業を5〜6回繰り返します。その数300〜400本!
動画はコマ送りにしてるので、一見ラクそうに見えますが、これは筋トレです。しいたけジム。
この後、クレーンを使って水槽に沈めるのですが、これも重いし怖い。へっぴり腰です。
さて、ここまでで3分の1。この水漬けを終えてからも、まだまだ木を運ぶ作業は続きます。
前日に水漬けしておいた原木を棚に並べる作業(これも1日300本〜400本)、収穫が終わった原木を休養ハウスに片付ける作業(さらに1日300本〜400本)をこなすと、毎日900本から1000本の原木を手作業で運ぶことになるのです。年末年始と田植え時期を除き、この作業を毎日ひたすら繰り返しています。
さらに、さらに、この日間スケジュールの他に、毎年2月には約1万本の木を山から運び出し、植菌して積み上げる作業、6月には上下左右をすべてひっくり返して積み直す“天地返し“の作業という年間スケジュールが組まれているのです。私たちは1年にいったい何本の原木を持ち上げているのでしょう。
私の今までの主担当は、しいたけの収穫と選別だったので、今回初めて水漬け作業をやってみて、原木じゃなく菌床栽培に切り替える農家さんや、高齢により辞めてしまう農家さんの気持ちがよくわかりました。これは大変すぎる。
しかし、こんなに大変でも原木栽培を今後も続けていきたい。その理由はプロジェクト本文に書いてある通りですが、もうひとつ実際に作業をやってみて、わかったことがあります。
原木の持ち方、身体の使い方、洗練された動線など、まるで歌舞伎の“型“のようにも、陶芸や伝統工芸の職人技のようにも見える、作業動作の美しさ。それは、毎日続けることによって培われるものであること。
原木をただ闇雲に積むのではなく、太い細いを見極めてバランスよく積み上げている美意識や、質を高めるために努力を惜しまない職人気質の高さがあること。
▼上段がこの道何十年のお義父さんが積んだ山で、下段が素人の私が積んだ山。歴然の差。
そこには、長年積み上げてきた技術の結晶と、手作業にこだわる原木しいたけ農家としての誇りがありました。
コスパを追求する現代の風潮とは真逆を行く原木栽培ですが、効率だけを追い求めるのはつまらない。一見、非効率に見えるものにこそ「たのしい」があるのだと私には思えるのです。