サウナーがサウナを体験する上で最も重要視するのが水かもしれない。サウナーの聖地である静岡県の「サウナしきじ」や熊本県の「ゆらっくす」が人気なのも水風呂の水質に理由がある。
大泰寺の横を流れる太田川も水質では負けていない。何せ、日本一の那智の滝と同じ那智の原生林に、その源を発し、流域には紀伊半島南部で唯一の大規模な田園地帯を形成してきた「恵みの川」なのである。
透明度が高く、また那智の滝から流れる那智川と違い、ゆるやかな傾斜で流れるためしぶきがたたず、その水面が鏡のような美しさである。
そして、太田川のすごいところは、米を育み、人々がそこに定住し、文化・歴史を育んできたところである。太田川の河口近くには、下里古墳と呼ばれる紀伊半島唯一の前方後円墳があり、またその対岸には八咫の鏡を作った場所と伝わる八咫烏神社まである。古代から太田川の恵みで育った米を経済的な基盤として文化が育ってきた証拠である。言い換えれば、太田川がこの地に高度な文化をもたらしたのである。
勢いの強い川でカヌーで遊んだり、釣りをしたりするのは楽しいだろう。ただ、こうした荒々しい川と対峙する時、人の心はどちらかと言えば高揚する。穏やかな太田川だからこそ、全てを忘れ、心地よい整いを体験することができるのである。
現在、過疎化の影響で太田川周辺でも休耕田が目立つようになってしまった。しかし、現在、那智勝浦町と隣の太地町の水道は太田川の水が供給されていて、恵みの川であることに変わりはない。