こんにちは、絵本プロジェクト長崎チームの黒川陽子です。味の箱船には、日本でプロジェクトが始まる当初より関わっている古参です。
エタリの塩辛に出会ったのは、2004年長崎市内の小料理屋のおかみさんから、故郷の長崎県雲仙市で作られているという魚の塩辛(エタリの塩辛)を食べさせられた時でした。カタクチイワシと塩の旨味によって織りなされた独特の味わいは、ふっくらと炊き上がった熱々の白御飯との相性が抜群!!一口食べて魅了されたものの、エタリの塩辛にまつわる食文化は白米とはかけ離れていたことや、存在が危ういと聞き、もしかしたらこれを食べられるのもこれっきりなのかも?と言う思いが、エタリの塩辛と関わる始まりになりました。
よく、オイルに浸けているアンチョビと比べられ、色合いや風味が野鄙、使いにくいなどと言われたり、エタリの塩辛の背景となる食文化や食べ方を伝えようとしても、大人の食べ物としてとらえられてしまい、子供達に大切な食文化のひとつだと言うことを伝えにくいのが課題でした。この度、絵本が誕生することで、小学生はもとより、地域の文化食として、幅広く様々な方面にエタリの塩辛の存在を知ってもらう強力なアイテムになるのでは?と期待が膨らみます。
○エタリの塩辛絵本プロジェクト発進
コロナ禍だからという事ではなく、当たり前のようにいつでもどこからでも必要な時にLINEやZoomでメンバーと話し合いが出来る・・これも時代の流れ?エタリの塩辛と出会った頃はこの2つは存在していませんでした。有り難みをしみじみと感じながら、千葉・神戸・長崎の制作に関わるメンバーとZoomでの会議やLINEを介して制作に取り組みながらも、現地でも実際に制作チームで会い、風景を見ながら構想を練りました。
絵本の組み立てについては、雲仙市南串山町で漁師のご主人と水産加工業を営む生産者で、横浜出身、そして地域の絵本読み聞かせの会のメンバーでもある竹下敦子さんを中心に展開しています。
何を登場させるか?どのような場面を紹介するのか?などと、絵本制作をいくつも手がけてきているスペシャリストのメンバーと話をしていくうちに、ストーリーや構成は決まっても、方言と標準語のやり取り、慣習などの史実に基づいてのリサーチは難儀・・・生産者として、また地元人的視点と外者的視点の両面からエタリの塩辛と接することができる竹下さんの役割は大きかったです。
会議中にどこからか呪文のように降りてきたフレーズ。
♪♪エタリ タリタリ ターリタリ♪♪♪
このリズムが、絵本のそこかしこに散りばめられています。
○イラストを担当してくださるのも長崎の方
今回この仕事をお願いする以前からエタリの塩辛に興味があり、陶芸をはじめ、壁画、本の挿絵、イラストなど、立体から平面まで様々な素材を使った作品の制作や社会貢献などの活動をしているイラスト担当の佐藤恵さん。
「スローフードの絵本だからとパソコンの描画ソフトは使わないアナログなやり方で描こうとして、後悔・・・、でも、手や服を汚しながら描くことは絵を描く原点だなーと再確認させてもらっている」と言ってくださっています。
エタリの塩辛が大人だけの食べ物ではなく、子供たちにも興味をもってもらえるような表現を基調とし、エタリやエタリ漁を描くことも大切だけど、説明画にならないように家族を中心に人の手や顔の表現を丁寧に描いた仕上がりに向けて奮闘していただきました。
○日常を大切に現実と未来を見据えた絵本
人々の関心がなくなると消えてしまいそうな地域の食べ物、今は亡き先人達が作り食べ続けてくれていたからこそ、まだ存在していると思うと感謝でいっぱいです。
時代の流れと共に、そのスタイルは少しずつ変化していきますが、食文化として細々ながらでも食の場面に現れ続けてほしいと願います。
今回完成する絵本の4つの食材、是非この機会に皆さまの食歴に加えて頂ければ幸いです。