2022/01/30 02:52

皆さん、こんばんは。

今夜は、『漢字の話 -キラキラネームの秘密』から、「夫婦別姓」について、 お話ししたいと思います。

私は、90年代の初めに、三年ほど大陸で研究員をしていましたが、結論から言えば、夫婦別姓と男女同権とは無関係か、或いは、寧ろ夫婦間の差別を助長する物であると思っています。

※『説文解字(せつもんかいじ、漢代の漢字辞典)』の「姓」の説明には、
「姓は人の生まるる所なり。古の神聖人の母、天に感じて子を生む、故に天子と称す、生に因って以て姓と為すなり。」

「姓」とは、「女」と「生」の字とを合わせた文字です。「姓」とは、一つの祖から生まれ出たものを、他と区別するために用いられた号で、血筋を表しています。『説文解字』によれば、「姓とは人の生まれである。古の神聖人(人格の完全無欠な人、天子)の母は、天に感じて子を生んだ、それで天子と言うのである。生まれた時の事情にちなんで姓をつけたのだ。」、と書かれています。

ここで少し、中国の伝説について紹介しますと、例えば、『呉越春秋・呉太伯伝』には、王朝の始まりについて、次のように書かれています。

「呉国の開国の君主太伯(たいはく)は、后稷(こうしょく)の遠い子孫である。后稷の母は台氏(たいし)の娘の姜嫄(きょうげん)で、帝嚳(ていこく)の皇后となった。

姜嫄が、年若く、未だ妊娠しておらぬ時、野外に散策に出かけて、巨人の足跡を見つけた。この足跡に近づいて、鑑賞しているうちに、心中に喜びが湧きおこり、その形象を好もしいと思った。そこで、自分の足で巨人の足跡を踏んでみたが、その途端、体が震え、それはあたかも、熱い抱擁を受け感じた如くであった。その後、姜嫄は妊娠した…。」

台氏は炎帝神農氏の子孫です。黄帝は姫水(きすい)付近の豪族であり、炎帝は姜水(きょうすい)付近の豪族でした。 姜嫄は炎帝の子孫です。

姓は始祖の居住地にちなんで、或いは、天子から賜り名付けられました。古の神聖人である神農氏の母が、姜水のほとりに住んでいたので姜を姓とし、黄帝の母が姫水のほとりに住んでいたので姫(き)を姓としました。それで、子を生む女の字と生の字とを合わせて「姓」としました。

さて、中国では、結婚しても姓は変わらず、二人の間に生まれた子供は、父の姓を名乗ります。それは、「姓」が先祖を示すものだからです。すると、同じ家族の中で、母と祖母だけが姓が異なることになります。この様な習慣は、新中国誕生以降にできたわけではなく、毛沢東を始めとする、第一世代の元老達も、蒋介石も、或いは、孔子の時代、或いは、伝説時代から、既に、夫婦別姓は行われていました。

なぜなら、結婚しようがしまいが、先祖は変わらないからです。

例えば、孔子(前551年頃~前479年没)の父母について、司馬遷(前145年頃~前86年頃)の『史記・孔子世家』には、父は「(孔)叔梁紇(しゅくりょうこつ)」、母は「顔氏の女(むすめ)」と紹介しています。唐の司馬貞の『史記索隠(さくいん)』には、『孔子家語』を引用して、母の名を「顔徴在(がんちょうざい)」と記しています。叔梁紇は、はじめ魯(ろ)の施氏を娶り、九女を儲けました。妾が男児の孟皮を生んだものの、孟皮は足が悪かったので、そこで、顔氏徴在に求婚しました。唐の張守節の『史記正義』によれば、叔梁紇は。六四歳を過ぎて顔徴在と結婚しています。

『史記』の記述が正しければ、孔子が「女子と小人(しょうじん)とは養い難しと為す」と言う前から、ひょっとすると夏・殷・周以前の伝説時代から、また、近くは、蒋介石の三人の妻が、最初の妻が毛福梅、二番目が陳潔如、三番目が宋美齢と言うように、或いは、毛沢東の妻が、それぞれ、羅一秀、楊開慧、賀子珍、江青と言うように、皆、夫婦別姓でした。

要するに、中共が制度として採用する以前から、中華圏では夫婦別姓でしたので、もし、夫婦別姓が男女平等に影響するのであれば、紀元前から男女平等であったはずです。

少なくとも、新中国建国以降、中共は「男女平等」を掲げているので、現在、中国は男女平等の社会になっていなければなりませんが、そうなっているでしょうか?

話を現代に戻します。

中国共産党は、2015年10月26日~29日に行われた十八期五中全会で、全家庭に二人目の子を許すと宣言しました。これによって、大陸で三十五年間行われていた「一人っ子政策」は完全に終了しました。当初、二十五年の予定であったのを、十年延長して施された政策は、男女の出生率に著しい不均衡をもたらしました。

例えば、2005年に生まれた男児と女児の比率は、118.9対100で、男児の方が女児よりも20%も多く、この様な不均衡は、恐らく、二、三十年後に、深刻な社会問題を引き起こすと言われています。

中共の媒体の統計では、この様な「余剰男性」はおよそ2400万~3300万人に及び、しかも、現代は、女性が結婚を拒絶する事ができるので、この問題は更に深刻なものとなるだろう、と報じています。

「一人っ子政策」下の中国では、例えば、。90年代の初め、祖父が四歳の女児を井戸に突き落として殺害する、という事件が起きました。家の断絶を恐れた祖父が、次に男児が生まれることを期待して、殺害してしまったのでした。

この事件を知った人々は、皆、この老人に同情していました。また、双子や三つ子の男児を出産した母が、英雄のように称えられメディアに取り上げられていました。(2021年5月31日 、政府は、少子高齢化対策で、夫婦1組につき3人まで子供をもうける方針を発表しました) 

 「姓」が先祖を示す物であり、子供は父の姓を名乗るからには、男児の誕生は一族が増えることを意味します。親の面倒を見るのも男子なので、当然、各家庭は男児を熱望します。家族のありかたは日本と同じですが、中国の方が、より、純粋で崩れていません。その様な社会を、男女平等と言うには疑問が残りますが、中華民族繁栄の秘密がここにあるとも言えます。人々が名乗る「姓」が、その人物の認証と同時に、一族に対する責任を求めるからです。

少し長くなりました。

本日が皆様にとって、好い一日でありますように。