2022/02/16 17:44

皆さん、今晩は。

今夜は、拙著の題名にもなっている、キラキラネームについてお話ししたいと思います。

次に挙げるのは、2011年2月28日に、実際に、マタニティ関連の大手出版社から発行された、子供に付ける『名付け本』に掲載されている名前ですが、読むことは出来るでしょうか。

・希亜・希杏・希空・希歩・希明・乃蒼・和杏・希海・心愛・叶愛・希彩・望亜・望歩・希愛・希綾・和愛・音愛・望彩・望愛・望蒼・野愛

これらは同書によれば全て「のあ」と読むそうですが、「のあ」が何かも分かりません。常用漢字の音訓から逸脱しているので、第三者には読むことができません。子供の人生に対する配慮の欠けた、非常識な名前であると思います。幾ら大手企業から出版された物でも、人様の子供に、デタラメな名を付けるよう紹介する事が、許されてよいはずはありません。

そもそも、「名付け」「命名」と言う物は、子供が授からなければ、特に注意を払うと言う事もありません。それに、奇妙な名前は昔から幾らもあったので、これまで特に注意を払うという事もありませんでした。しかし、読めない名前に「キラキラネーム」と言う呼び名が付けられ、また、実際に、その様な名を持つ子供達が、新聞やテレビで取り上げられる機会も増えてきました。そこで、試しに調べてみると、大手出版社の「名付け」に関する辞書から、育児書を出版している会社の冊子に至るまで、世の中に通行する多くの「名付け」に関する書物に、大量の悪例が掲載されていました。

奇妙な名を持つ子供達が、媒体で盛んに取り上げられるようになるのは、2012年から13年にかけての事です。インターネット上で、株式会社リクスタ(リクルーティングスタジオ株式会社)が運営する「赤ちゃん名付け実績No.1、無料 赤ちゃん名づけ」というサイトが、「2013年 ベスト・オブ・キラキラネーム」を発表すると、その異常な内容から、インターネットのみならず、地上波でも取り上げられ、一気に注目を集めるようになりました。例えば、「日刊ゲンダイDIGITAL」には、

「1位「泡姫」、2位「黄熊」、3位「姫星」。
スマートフォン向けアプリ「赤ちゃん名づけ」を手がけるリクルーティングスタジオが、「2013年 ベスト・オブ・キラキラネーム」を発表した。利用者の投票で反響が多かったものだ。1位は、泡姫と書いて「ありえる」と読ませる。黄熊「ぷぅ」、姫星「きてぃ」なのだ。

なるほど!と思わず膝を叩いてしまったが、これらは曲がりなりにも人の名前。連想ゲームでもペットの名でもない。泡姫と名付けられた女の子は、中学ぐらいできっと「ソープ嬢」というニックネームで呼ばれることになるに違いない…。」(「日刊ゲンダイDIGITAL」 『「泡姫」「今鹿」…親しか読めない「2013年 キラキラネーム」』 2013年12月25日)

「2013年 ベスト・オブ・キラキラネーム」の1位から30位までの順位は次の通りです。

1位、泡姫 ありえる
2位、黄熊 ぷぅ
3位、姫星 きてぃ
4位、宝物 おうじ
5位、希星 きらら
6位、心愛 ここあ
7位、美望 にゃも
8位、今鹿 なうしか
9位、姫奈 ぴいな
10位、皇帝 しいざあ
11位、男、あだむ
12位、本気、まじ
13位、昊空、そら
14位、七音、どれみ
15位、姫凛、ぷりん
16位、琉絆空、るきあ
17位、希空、のあ
18位、愛保、らぶほ
19位、奇跡、だいや
20位、匠音、しょーん
21位、祈愛、のあ
22位、大大、だいだい
23位、天響、てぃな
24位、夢露、めろ
25位、火星、まあず
26位、夢希、ないき
27位、頼音、らいおん
28位、緑夢、ぐりむ
29位、杏奴、あんぬ
30位、雅龍、がある

この順位は、作為的で偶然の投票によって選ばれた名前などではなように思います。更に言えば、29位の「杏奴」を除いて、その他は、好い名を授けようという目的とは真逆の意図が感じられます。

○「泡姫(ありえる)」の秘密

さて、キラキラネームとは何かを考えるために、ここに挙げられた幾つかの名前について考えてみたいと思います。先ずは1位の「泡姫(ありえる)」について。

この名(?)は、「キラキラネーム」によくある、本来の漢字の音訓を無視した、全くのデタラメの読み方を付けた物です。「泡」に関係があり、30位までの多くの名が動画に関係があるので、これはディズニー映画「The Little Mermaid」の主人公「アリエル(Ariel)」の事と考えがちですが、全く違います。

そもそも、原作の『アンデルセン童話・人魚姫』の主人公には名前がありません。この物語の主人公に「アリエル(Ariel)」という名前を付けるのは、ディズニー映画「The Little Mermaid」だけです。しかし、ディズニーの動画は、米国の理想を表現する目的をもって製作されるので、原作の人魚姫が異種・身分を越えられず、声を失い、恋に破れて泡となって消えるのとは違い、主人公の人魚姫「アリエル」は、魔女に勝ち、声を取り戻し、王子様とめでたく結ばれ子供まで授かります。つまり、ディズニーの「アリエル」は、「泡」とは無関係なのです。

では、「泡姫」とは何でしょう。これは、ソープランドでサービスに従事する女性を意味する隠語です。ソープランドとは、浴室で風俗嬢が男性客に対して性的なサービスを行う風俗店の事なので、「泡姫(ありえる)」とは、せいぜい「ありえる」という名の風俗嬢という意味にしかなりません。

この名は、2012年にアクセス数の多かった名前のランキング、「2012年 赤ちゃん名づけ年間トレンド」の中には全く登場せず、13年にいきなり1位に輝いている。また、奇妙なことに、13年には、動画の登場人物から取ったような名前が増えています。

しかし、冷静に考えて、自分の娘に風俗嬢のような名前を付けたい親がいるとは思えません。そもそも、水面に浮かぶ気泡の意味である「泡」は、はかない物の代表で、好い字ではありません。

誰が作ったのかは知りませんが、この名付けの根底には、「悪意」が含まれていると言はざるを得ません。  

今夜はこのへんで。

本日が皆様にとって、好い一日でありますように。