『12ヶ月のカイ』を撮っていた当時、参考にしていた本やドラマというのもがいくつかありました。
し、(これは撮っている最中に読んでしまうと危険だな……。)と察知して、制作期間中は読まずにおいた本も、実はありました。
ものを作る時、やはり見たもの・読んだものに影響されてしまうということは脳みその作り上少なからずあることでしで、(その点私は脳のことをとても信頼しているので)そういった「危険な書物」からは一時期自分を遠ざけたりなどもしておりました。
がしかし、これらを読むことで新しく世に生まれる創作物に対する理解が深まる、ということも往々にしてあるわけでして。
今回、『12ヶ月のカイ』を撮る際に事前に読んでいた・読まないようにしていた・完成してしばらく経ってから読んだ、それぞれの本を一部ご紹介させていただきたいと思います。
本作をご覧になられた後、さらにこうした書籍からも本作への世界観、もしくは現世に対する考察を深められるかもしれません。
▼制作前に既に読んでいたもの(安全)
1)川添愛 著「働きたくないイタチと言葉がわかるロボット」
AIに出来ることと出来ないことを、素人なりに考えたいと思い、 SNS上の話題から手に入れたのがこの本でした。AIというもの、ロボットというものの仕組みのかなり基礎的な部分を、イタチたちの物語で絵本的に(とはいえ分厚いですが)分かりやすく説明してくれています。
じつはこの本、実家の母に貸し出したっきり一向に返ってくる気配がないんですよね……。
「家にある」とは言っていて「読む」とも言っているのですが「いつ」とは返答がありません。
2)ユヴァル・ノア・ハラリ 著「ホモ・デウス」(上下巻)
根本的に「人間というものはなにか」について考える、そしてこの先の「人類」の可能性を考えるために非常に効果的だった本です。上下巻でとても内容も濃厚な哲学書ですが、SFや社会派なドラマを作る上で必読の書といっても過言ではありません。
映画や物語を作る方でなくとも、著者のハラリさんの考え方には面白い部分がたくさん見つけられると思います。亀山が、身の回りのあらゆる人にお勧めしている本でもあります。
▼制作中に読んでいたもの(まあ安全)
3)新井紀子 著「AI vs 教科書が読めない子どもたち」
4)新井紀子 著「AIに負けない子どもを育てる」
AIの、主に「言語」というところにおいて現実的には何がどれくらい出来ているのか、数学者の新井紀子さんの研究やプロジェクトを元に当時のAIの現在地が垣間見える本です。
「当時のAI」と書きましたが、人間側が抱えている問題はこの本の中にある状態よりも個人的には「むしろ悪くなっている」ような印象もあるので、決してAIが流布した現在で「古い本」ということでは全くなく、むしろ我々人間サイドが今後何をしなければいけないのか、AIとの共生のために何が必要なのかそのヒントを下さるような本です。
シリーズ化もされており、2冊目の「AIに負けない子どもを育てる」も非常に面白い本でした。(これも両親に勧めた気がします。読んだかどうかは存じ上げませんが。)
▼制作後に読んでいたもの(危険)
5)カレル・チャペック 著「ロボット」
こちらは1920年にカレル・チャペックというチェコの作家が書いた戯曲であり、現在とてもよく使われてる「ロボット」という言葉の語源になったとも言われている作品です。
(「ロボット」に決まる前は労働を意味する「ラボル」という名称だったそうで、ただそれだと親近感が湧かないとのことで「ロボット」という名称になったそう。ちなみに『12ヶ月のカイ』のスピンオフ作品のショート連続ドラマ『ソムニウム』にはこの「ラボル」という名称のPCHのプロトタイプが登場します。)
ある意味ロボットの権利といいますか、人間とロボットの違いや対立について考えさせられる作品でして、これを実は『12ヶ月のカイ』撮影中にとある方からお勧めされてはいたのですが、これを読んでしまうと本作の筋が大幅に変わってしまうような予感がして、これは完成後まで取っておいたのです。
案の定、そうしておいて正解でした。
この戯曲を読む前と後とでは、ロボットに対する考え方がガラリと変わりますし、そしてこのような作品が100年以上も昔に存在した=それほど昔から人類は自分と似て非なる存在について考えていたということ自体に、脳みそがやられそうになります。
これは是非、『12ヶ月のカイ』ご鑑賞後にお読みください。
6)ヨハネス・ケプラー 著「ケブラーの夢」
別段、『12ヶ月のカイ』の本筋とは関係のない作品ではありますが、現在の歴史において最古(なんと1608年…!)のSF小説と言われているケプラーの「夢(Somnium、ソムニウム)」。アイスランドの少年とその母親が精霊から月の世界について学ぶというファンタジックな内容も美しいのですが、なによりわたくしが肝を抜かされたのは、この小説の執筆背景。
天動説から地動説へと移り変わっていたこの頃、ヨーロッパでは魔女裁判が激増ししてた時代。ケプラーの母親も魔女としての疑いをかけられており、その疑いを晴らすためにこの「夢」を執筆していた、とも言われているらしいです。(そのためか、文体は小説というよりも論文に近い印象。)
非常に古い本なので、入手はかなり難しいのですが、もし見つけた際には、お手に取ってみていただきたい一冊です。
AIと関係のない本もいくつか混ざりましたが、要するに、このような様々なアイディアを元に描かれているのが『12ヶ月のカイ』である、ということでもあるのです。
さて、いよいよ今週末7月22日(土)から公開となります。
皆様のご感想は、どのようになるでしょうか?
非常に楽しみです。
亀山睦木