
【魚を一名分焼き損じた日。僕は初めてこの店で殴られた。】
前菜からメインに上がって、1週間ほど経ったころ。僕はこの店の“現実”に直面しました。
忙しい営業中、シェフから突然こう言われた。
「この魚、焼いとけ。」
焼き加減の基準も聞いていない。どの火で、何分なのかも分からない。それでも、とにかくやるしかなかった。
強烈な緊張の中で焼き上げた瞬間、シェフは一言だけ言った。
「違う。」
次の瞬間、僕の焼いた魚はゴミ箱に落ち、僕の頬にはシェフの手が飛んできた。
殴られた痛みより、「上手くできなかった悔しさ」のほうが何倍も刺さった。
覚悟していたつもりの世界。でも実際にその瞬間が来ると、胃がねじれるほどの衝撃だった。
ただ、この日の経験が僕の“料理への向き合い方”を決定的に変えた。
教えてもらえないなら、見て盗む。怒られないためじゃなく、食材に嘘をつかないためにやる。
あの日の悔しさは、今も僕の中で燃え続けている。

【辞める最後の1ヶ月人を雑に扱うシェフ】
僕がメインに入り始めた頃、同じ店で洗い場やサービスを担当していた新入社員の子が、辞めると聞かされた。
その景色を今でもはっきり覚えている。
辞めると分かった途端、シェフのあたりが急に強くなった。
「どうせあいつ間違えるぞ。」「見てみ、ほらな。」
まるで失敗を待っているみたいに笑っていた。1年弱、毎日汗だくになりながら働いてきた子に対してその扱いか?と、胸がざわついた。
確かに彼は完璧ではなかったし、人に対して失礼なことを言うこともあったでも、この店のために、自分のために、必死で頑張ってきたのを僕は知っている。
辞める“最後の1ヶ月”だけ人を雑に扱う。その優しさのなさに、僕は静かにショックを受けた。
辞めるからどうでもいい、辞めるから適当でいい、辞めるから攻撃してもいいそんな世界で働き続けたい人なんていない。
僕はあのときの光景を、ずっと忘れない。
そして今の自分は、辞める最後の日まで、ちゃんと人を大切にできる大人でいたいと強く思っている。

「“坊主にするかサービスに回るか”と言われた夜僕は自分で頭を剃った。」
サービスの子が辞めて、シフトが回らなくなったとき。シェフから突然、こう言われた。
「マネージャーが休みの日、サービスに入ってくれ。」
でも僕は“料理を学ぶため”にこの店に来た。前菜からメインに上がって必死で食らいついている最中だった。だから正直に断った。
数日後、些細なミスをした瞬間シェフがいきなりブチ切れた。
「お前みたいな奴は、坊主にするかサービスに行くか選べ!!」
全く関係のない話なのに、あのとき断ったことへの鬱憤をぶつけられたんだと直感した。
その日の夜、深夜0時に家へ帰った僕は、ソファで待っていた妻に言った。
「……坊主にしてほしい。」
妻は驚きながらも、黙ってバリカンを持ってきた。鏡の中で髪が落ちていく音だけが響いた。
翌朝、坊主で出勤した僕を見てシェフは一瞬固まった。
でもそれで良かった。
これは“言われたから”ではなく、自分の覚悟を自分で選んだ証明だったから。
あの時の決断は、今の自分の“強さの根っこ”になっている。

続く…
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