前回:コムトゥヴができるまで#21
はこちらから↓
https://note.com/sop_mei_fr/n/nc8ec847e6e40
引き継いだのは、料理より先に「空間」でした
前任の付け合わせ担当から、正式に僕へバトンが渡りました。
そのスタッフはオープン当初から3年間ここでやっていた人です。
長く続けていると、少しずつ物は増えていきます。
携帯の充電器、用途がよく分からない道具、
使われていない収納、メモ、予備の予備。
それらはすべて、
料理を盛り付ける一番大事な場所に置かれていました。
僕が担当になって、最初にやったこと。
料理ではありませんでした。
全部、捨てました。
フラットにしました。
理由は単純です。
少しでも多く皿を並べて、
余計な情報を減らし、
料理だけに集中できる場所を作りたかったからです。
物があること自体は、確かに便利です。
でも、便利さが増えるほど、
判断も、動きも、味も鈍っていく気がしました。
一度フラットにする。
必要なら、また足せばいい。
この感覚は、今の店づくりにも生きています。
続けていると、何事も知らないうちに増えていく。
だからこそ、定期的にリセットする勇気が必要なんだと思います。

「これ、少しだけやっていいですか?」から始まった火入れ
質問できるようになってから、仕事の景色が少しずつ変わっていきました。
野菜の担当だけでなく、気づけば火入れにも触らせてもらえるようになります。
シェフが肉を2枚焼いている。
その横で見て、
「ああ、こういう焼き方なんだ」と目で学ぶ。
すぐには触らない。
一度見て、あとで質問して答え合わせをする。
それを繰り返していました。
シェフが忙しそうな時、
勇気を出して聞きます。
「これ、少しだけやっていいですか?」
「ここ、少しずつ任せてもらえますか?」
その積み重ねで、
仕事は“振られるもの”ではなく、
“預けてもらうもの”に変わっていきました。
肉を焼く。
火と向き合い、音と匂いに集中する時間。
その楽しさを知ったのは、この店です。
教わる → 見る → 聞く → 少しやる。
この順番が、僕を料理人に戻してくれました。
あの時、聞くことを選んでいなかったら、
今も火には触れていなかったかもしれません。

肉を全部任されるまで、2年かかりました
少しずつ、一週間一週間。
自分の仕事が増えていくのを実感していました。
特に中心になっていったのは、肉を焼く仕事です。
最初は団体分だけ。
次の週は、その続きを。
また次の週も少しだけ。
その繰り返しで、焼く量が増えていきました。
広いレストランだったので、1日10-30ポーションの肉を焼かせていただき、多い時に1ヶ月で800名ほどのそれぞれの肉を一人一人丁寧に焼かせていただきました。
ただ、この店の焼き方は今までとまったく違いました。
串も刺さず、温度計も使わない。
肉の「中心」を頭の中でイメージしながら焼く。
正直、最初はまったく分かりませんでした。
厚みと火入れ時間を自分なりに分解して、
何分オーブン、何分休ませるかを毎日考える。
仕事後も、休みの日も、家で同じことを繰り返しました。
少しずつ、焼かせてもらえる肉が増えていく。
でも、全部を任されるまでには2年かかりました。
この時、肉を焼くという仕事の
「深さ」を初めて知りました。





