
みなさん、おはようございます!
私たちが普段、何気なく使っている「水」。
蛇口をひねれば当たり前のように水が出る。
現代の暮らしでは、それが日常かもしれません。
でも、ここ里や森での暮らしは、少し違います。
大自然から「生命の水」を分けていただくためには、
日々の感謝と、人間の思い通りにはならない
大自然の営みに寄り添う覚悟が欠かせません。
昨日の朝のことです。
飲水用に使っている水場のお地蔵さまから、
ぱったりと水が出なくなってしまいました。
一瞬、背筋に冷たいものが走りました。
なぜなら、農園の貯水タンクにある水が尽きれば、
この容赦ない酷暑の中、
私が手塩にかけて、愛情いっぱいに育てている
大切な「娘たち(鶏たち)」が、
カラカラに喉を渇かせて生命を落としてしまうからです。
タイムリミットは、貯水タンクが空になるまでのおよそ6時間。
一分一秒の遅れが、生死を分ける過酷な勝負の始まりでした。
それでも、私はこの出来事をこう捉えるようにしています。
「これはきっと、水源にいらっしゃる山の神さまが、
『たまには顔を見せに来なさい』と仰っているサインなんだ」と。
山の神さまへのご挨拶として御神酒を携え、
装備を万端にして、いざ山へ。
……と、意気揚々と出発したのも束の間。
道中で、痛恨の忘れ物に気がつきました。
山での作業に必須の「ノコギリ」です。
配管を切断したり、行く手を阻む枝を払ったりするために、
絶対に欠かせない大切な相棒。
これがないと、山の神さまにも「お前は一体何しに来たんだ」と
呆れられてしまいます。
慌てて引き返すことになり、あまりにも痛いタイムロス。
焦りで胸が張り裂けそうになるのを必死に抑え、
気を取り直してノコギリを腰に下げ、
再び駆け足で山へ向かいます。
行く手を阻むのは、私の背丈を優に超える深い藪。
むわっとした熱気と湿気を孕んだ夏の森を、
全身流れ出る滝のような汗とともに、
ひたすらかき分けて進みます。
すると今度は、夏山のお約束。
アブの大群が容赦なく、熱烈なお出迎えをしてくれました。
たまらず逃げるように斜面を這い登り、
息を乱して進んだその先。
突然、空気がふっと変わり、
肌を刺すような凛とした静寂に包まれた空間が現れました。
そう、ここは聖域です。
山の神さまが鎮座され、
先人の方々が何代にもわたって大切に守り抜いてきた涵養の森。
ここが、しゅりの森自然農園を潤す、生命の水源地です。
まずは山の神さまへ御神酒をお供えし、深く頭を下げてご挨拶。
そして、いざ原因の究明へ。
配管をたどって調べてみると……
なんと、原因は「乙事主(おっことぬし)さま」でした。
そう、イノシシです。
どうやら、大きなイノシシが通り道を横切った拍子に、
農園へ水を供給する貯水加圧タンクへの配管を、
見事に蹴り外してしまったようです。
でも、彼らにとっては、ここが本来の住処。
配管が外されたのも、彼らの日常のひとコマに過ぎません。
「なんでこんな時に!」と腹を立てるのではなく、
「お邪魔しているのはこちらなのだから」と受け入れる。
それが、この厳しい大自然の中で生命を育む、
生産者としてのあり方だと思っています。
しかし、ここで外された配管をすぐに繋ぐわけにはいきません。
水源の補修というものは、
必ず「高い所から」行うのが鉄則だからです。
外された配管はひとまずそのままにして、
一気に最深部である「鎮守の雫」へと斜面を登ります。
実は前回の台風の際、
「鎮守の雫」と「奇跡の湧水」の貯水槽に設置していた
自作のストレーナーが、流れ込んだ土砂の猛威によって破損。
今回は、その交換用の部品もしっかりと背負ってきています。
いざ確認してみると、
案の定、配管の中には土砂がぎっしりと詰まっていました。
ここで、取りに帰った「ノコギリ」の出番です!
思い切って、取水口から下70センチの部分で配管を切断。
泥まみれになりながら、持参した針金を何度も突っ込んで、
詰まった土砂を執念で掻き出していきました。
開通後、休む間もなく新しいジョイントを接続。
さあ、これで「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」の
貯水槽まで、無事に水は届くのか!?
……来ません。
水音が、まったく聞こえないのです。
刻一刻と迫る、タイムリミット。
猛暑の中でぐったりと羽を落とし、
喉を渇かせて待っている愛しい娘たちの姿が頭をよぎり、
胸が締め付けられます。
ここで諦めるわけにはいかない!
気力を振り絞り、もう一度、急斜面を登ります。
再び最深部まで戻り、
そこから引かれている配管に沿って下りながら、執念の再点検。
道中に備えていたいくつかのジョイント部分を
ひとつひとつ外し、針金で地道に土砂を取り除いていきます。
滝のような汗が目に入り、
泥にまみれながらの、大自然との根比べ。
そして……
「よーし!!」
六根清浄の貯水槽に、とうとう豊かな水音が響き渡りました。
豊富な生命の水が、勢いよく流れ込み始めたのです!
そこから本流の取水槽を経由して、ついに大量の水が!
……と喜んだのも束の間。
「あ、もう一つジョイントがいるんだった……」
痛恨のミス。
しかし、もう絶望している時間すらありません。
ここで立ち止まったら、娘たちが死んでしまう。
「ないものは作れ!」
これが、長年この過酷な場所で開拓生活を重ね、
泥臭く生きてきた私の意地です。
あたりを這いずり回って探し、25ミリのパイプの外径に、
ちょうど内径が合う別の古いパイプを見つけ出しました。
それを力任せに重ね合わせ、持参していた針金で
指がちぎれそうになるほど力強くぐるぐると縛り上げ、
なんとか強引に繋ぎ合わせます。
もう、本当にタイムリミットです。
農園の貯水タンクは、おそらくもう空っぽのはず。
水が飲みたくて、娘たちが今か今かと待っている。
祈るような気持ちで、大急ぎで転がるように山を下ります。
息をゼーゼーと切らして、農園へ帰還。
真っ先に、水場のお地蔵さまの元へ向かいました。
果たして、お水は……?
……ザァァァァァァッ!!
勢いよく、美しく流れ出す生命の水を見た瞬間、
安堵で全身の力が抜け、その場にへたり込みました。
「燃え尽きたぜ 真っ白にな・・・」 by あしたのジョー
無事に、復旧しました。
これで、大切な娘たちに、お腹いっぱい水を飲ませてやれる。
「大自然と共に生きる。」
長年ここで土に塗れ、自らの手で森を切り拓いてきて、
ずっとそう思ってきました。
いや、今は違います。
私たちは、大自然に「生かされている」のです。
山の神さまが守る豊かな森があり、
乙事主さまが元気に駆け回る里がある。
私たちはその尊い営みの「おこぼれ」として、
生命の水を分けていただいているに過ぎません。
人間の思い通りには決してならない、大自然の圧倒的な厳しさ。
そして、それ以上に大きくて温かい、計り知れない恵み。
その謙虚な気持ちを絶対に忘れてはいけないと、
いつも水源の山の神さまから学びます。
山の神さま、乙事主さま。
そして、最後まで見守ってくださったみなさん。
本当に、ありがとうございました。
今日も無事に、農園にはとうとうと生命の水が流れています。
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