三輪代表は視覚を失ってから、文字通り手探りで新しい表現に取り組み始めます。
視覚に頼らないでの造形、触覚だけで形を作っていく表現。最初は、とにかく位置をしっかり決めるということが重要だったそうです。長年、緻密な造形をしてきた代表は、ある種の3Dスキャナーのようなものが頭の中にあり、位置さえはっきりわかれば、頭の中に3次元の座標軸を思い浮かべながら、形を作っていくことができるのです。ただ、一旦作業を離れるとどこの部分をやっていたかを見失ってしまうーそこで正方形の台の上で台の寸法を手がかりに位置を把握するようにして、作業をするようになります。その後、ビー玉を埋め込み、それの位置関係で全体を把握するなど、さまざまな技法を重ねていきます。そして、何より手触りの彫刻ならではの、質感や触った時のざらざら感・スベスベ感などを表現として取り入れていきました。
見えなくなってからの代表作の一つに、おせんべいの彫刻があります。
醤油煎餅、海苔煎餅、ざらめ煎餅といった種類の違った煎餅の触覚を再現し、ユーモラスな形も相まって、展覧会でも多くの人が触って、煎餅の種類の違いを実感していかれます。
そして、「みんなとつながる上毛かるた」でもそうなのですが、その触覚の違いを共有したくなるのか、そばにいる人との対話が始まることが多いのです。
言葉を交わしながら、視覚に頼らず形や手触りを共有する・・・そこには、新しい美術体験の可能性があるように思えるのです。