『殺劫 チベットの文化大革命』は中国国内では「禁書」扱いになっていますが、国際的には多くの研究者らに注目され、論評されています。米国の代表的な中国政治研究者として知られる、コロンビア大学のアンドリュー・J・ネイサン教授は外交評論誌「Foreign Affairs」(2021年9-10月号)に寄稿した書評「チベットに関する三冊の本」の中で『殺劫』についてこのように紹介しています。
「オーセルの著書が取り上げているのは、1966年の文化大革命の到来にまつわる物語である。彼女の父親は、指導的な立場にあった僧侶や貴族が公の場で屈辱を受けたり、拷問されたりする情景や、史跡が破壊されたり、勝利集会、デモ行進が行われたりする状況を、自分のカメラで記録し、毛沢東の肖像画を掲げる笑顔のチベット人の若者たちを撮影した。父親の死後何年もたってから、彼女はこれらの写真を国外で出版することを決意した。彼女は一枚一枚の写真が意味する内容を緻密な作業で読み解いた。誰がそれらの中に登場しているのか。彼らに何が起こったのか。さらには、彼女が写真を見せたときに生存者たちがよみがえらせた記憶とは――。彼女が力の限り発掘した事実を読者は知ることになるのである」