前回の活動報告の続きになりますが、引き続きキョンについて少しお伝えさせていただきます。
特定外来生物ってなに?
「特定外来生物」という言葉は聞いたことはありますか?
環境省の「外来生物法」では下記のように定義されています。
「外来生物(海外起源の外来種)であって、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるもの」
指定された生物の取り扱いについては、輸入、放出、飼養等、譲渡し等の禁止といった厳しい規制がかかります。
千葉県では、「キョン」以外にも「ヒアリ」「アカカミアリ」「カミツキガメ」「アライグマ」「アカゲザル」「セアカゴケグモ」などが確認されているようです。
ちなみにアライグマは貴重な在来の水生生物を食べ荒らしてしまい、アカゲザルは在来動物であるニホンザルと交雑してしまい純粋なニホンザルがいなくなってしまう事態も想定されています。
キョンは千葉県においては、葉物野菜や苗、家庭菜園の花などに被害が集中しており、まだ在来種への影響は確認をされていません。ただ、千葉県から出てしまえば、シカが食べなかったような貴重な在来植物や高山植物に影響がでる可能性はかなり高いと思います。
キョンは有害鳥獣であり特定外来生物
正直なところ、キョンの田畑への食害被害はイノシシに比べるとかなり評価としてはかなり小さくなります。(キョンの食痕がシカと見分けがつきずらい、家庭菜園での被害は報告されていない、なども考慮する必要はありますが…)
そうなると、獣害問題としては低い評価となり、イノシシの捕獲報奨金が15000円程度に対し、キョンは7500円程度と約半分ほどです。
また、キョンを捕まえるにはくくり罠(地面に設置した踏板を踏み抜くとワイヤーが足を絡めとる罠)が定石とされていますが、イノシシよりもずっと軽くて俊敏なため、キョン用に罠を改造する必要があります。
捕まえるのは難しくて捕獲報奨金もじゅうぶんに出ない、となると捕獲圧もなかなか上がっていきません。
つまり、特定外来生物は単純な「獣害問題」だけではなく、「環境問題/生態系問題」としても評価して十分な捕獲報奨金を出していただきたいところですが、「獣害対策」の予算は農水省、「特定外来生物」の予算は環境省の管轄という行政ならではの縦割り構造と、環境省の予算不足…など様々な要因から実現が難しそうです。
であれば、駆除されたキョンのお肉と皮をしっかりと活用することで捕獲者さんへの還元とキョン対策に充てていこう、というのがそもそもキョン活用に取り組み始めたときに考えていた仕組みです。
キョンの原皮が高いワケ
現状、まだまだ革事業を回せるほどの売上が出ていないので不十分ではありますが、キョンの原皮はイノシシ原皮の2倍以上の価格で買い取っています。
他県でジビエの革を扱っているところからキョンの原皮を購入できないかと相談をされることがありますが、原皮の価格が高すぎると値下げ交渉をされます。
皮はあくまで、精肉の過程で出てくる副産物であり、ほとんどの皮が二束三文ですし、その前提で価格相場が成り立っているので気持ちはわかります。自分としても非常につらい…。
それでも現状動いてくれている捕獲現場の人たちに、価格を下げてくれ、とは私は言いたくないのです。
その状況がやはり他県の人には伝わりずらいので、できる人たちがいるのであれば、県内のキョン活用は県内でやるべきと考えています。
キョンレザーに価値をつけるとキョンが増えるジレンマ?
上記以外にも、特定外来生物である以上、価値をつけてビジネスになるとキョンを養殖しよう、自分のところでもキョンを増やそう、とする人間が出てくるリスクがあります。
もともと千葉県ではイノシシは一度絶滅をしていました。現在爆発的に増えているイノシシは、ハンティング用に人間が離した、と言われています。哺乳類以外ですと、ブラックバスが良い例であるように、価値があると増やそうとするのも残念ながら人間の心理です。
そのため、「キョンを資源に」というと、「資源として扱っていいのか?」という厳しいお声もいただきます。
それに対する完璧な回答はまだ出せていません。ただ、
●キョン資源はキョンが根絶されるか課題解決したら取扱いを一切やめる。
●トレーサビリティを徹底し、駆除対策から出てきた皮しか使わない。
●行政と協力し、売り上げの一部をキョンの生息調査や捕獲対策に持続的に還元する。
上記を満たした革のみを価値のある革として行政が認定する、という仕組みを考えています。
その仕組みが、シシノメラボ(旧千葉県ジビエレザー協議会)として今取り組んでいるチバレザーの一部でもあります。
ちなみに本プロジェクトは令和6年度「ちば地域課題解決実証プロジェクト補助金」の助成を受けています。
一部のジビエや革関係者のなかには、行政と連携し、補助金を活用しながらプロジェクトを動かすことを非難する方もいますが、連携と補助を手段とし、駆除という目的を達成するほうがよっぽど大切なのではないかと思います。
(あくまで補助金は事業のスタートダッシュに使うブースターであり、その後自走ができる仕組みを目指す場合を想定しています。補助を目的とし、意味のない事業を作り出すのは論外です)
大変長文にはなってしまいましたが、「キョン」を活用するうえで今まで考えてきたこと、そしてこれからも考え続けていかねばならない要点のひとつ「特定外来生物」についてお伝えをさせていただきました。
まだまだ勉強中のため、未熟な論点もあり、さまざまな意見があるかと思いますが、何かを感じた方はぜひ意見を伝えに工房にいらしていただけると嬉しいです。