山田裕幸(やまだひろゆき)
劇作家、演出家。焼津市(旧志太郡大井川町)出身。大学卒業後、25年にわたって東京で活動を行う。2018年藤枝市に移住し、白子名店街に白子ノ劇場をオープンし活動拠点とするが建物の老朽化により取り壊しに。現在、新たな拠点を市内に準備中。劇団での活動の他にも、SPAC野外芸術フェスタでの演出や戯曲講座、日本劇作家協会人材育成委員長として後身の育成にも関わる。2022年には藤枝ノ演劇祭を立ち上げ、初代フェスティバルディレクターも務めている。週一回、市内中学生とともに地域部活動yattaraも実施中。藤枝市制70周年記念、みんなでつくる音楽劇「ふじえだMY VOICCE」を12月15日、藤枝市民会館で上演!
今日は朝一でアメリカにいる友人と仕事の相談をして、そのあと自作の参考にと、1960年代の時代劇をネットで観た。庶民の所得は上がらないが、やはりぼくたちは未来に来たのだ。家から一歩も出ないで、世界中とつながり、作品に触れることができる。
僕は仕事で、いろいろな場所を訪れることも多いが、ひと段落して(ときには親睦会などを終え)ふと宿までの帰り道に独りになったとき、そのまちの風景に紛れ込むことがある。「もしかしたらここで暮らしていたかもしれない自分」に出会うことがある。それはぼくにとって大切な時間で、そのときに「知らないまちに来た」のだと思い、忘れられない記憶になる。
それはパリなどへの観光ではなかなか感じることのできないもので、できるだけ地味な「いつだって」すぐに行けるような土地であればあるほど魅力的な「妄想」となる。藤枝のまちは、その「妄想」をするには、これ以上ない土地だとぼくは思う。派手なものはあまりないが、おいしいもの、そして愉快なひとたちに、これほど恵まれた場所はない。そしてそれは決まって夜の時間に訪れることが多い。知らないまちで、夜をきまぐれに過ごすことは、とても贅沢なexperienceなのだ。
家にいるのも楽しいが、人はそういうものに時々触れなければいけない。世界はこうあるべきだという見方そのものが揺らぐような体験が、人を成長させるからだ。
770年の歴史ある場所に宿泊場所を作ってどうなるんだ?と思う人がいるだろうが、ぼくはその価値は、この夜の時間を作ることにあると思う。泊まることでさらに加速する「妄想」とともに、夜を過ごしてもらえるのではないだろうか。
がんばれ!大慶寺!そして、ようこそ、藤枝へ。