背中に柔らかなシーツの感触を覚えながら、朝八時のアラームで目を覚ます。窓の外からは鳥の鳴き声が聞こえ、ボクは寝ぼけ眼を擦りながらゆったりと体を起こす——ア々、そんな朝だったらどれほどよかったことだろうか。
目覚めた場所は食堂の北側のスペース、背中に感じるのは畳の硬さ。頭の奥には昨晩にショットした五杯のウォッカに起因するであろう鈍い痛みがあり、ボクの思考を乱してくる。起きたのは友達に起こされたからだし、時間は十時十五分。しかも十一時からバンドの合わせがある。しばし絶望的な気持ちで放心していたが、そのうち人目のつく場所で一人伏している自分自身に羞恥心を覚え、気怠い体を起こした。そういえば、朝マックも食べ損ねていた。
急いで一旦部屋に戻る。静電気の実験でもしたかのように寝癖で爆発した髪を櫛でどうにか整え、ギターとエフェクターボードを掴んで音楽室に向かう。ラインを見ると、メンバーの一人が遅刻するようだった。そんなことはさておいて声出しをする。コンディションは最悪。しかし練習しないと明日の本番に間に合わない。とりあえず合わせ開始、Bm7から……。
なんとか二時間の合わせを終えた後は、中庭に向かう。ピザ窯コンパなる企画が開催されていたからだった。空腹の胃にピザが沁みること沁みること。ここまで来てようやく体調も回復してきた。耐久ドミニオンで一勝負だけ参加したあと、ケーキコンパで作品を一つ作り……寮祭企画を存分に満喫して一段落ついたころ、熊野寮に来訪していた吉田寮関係の友人に偶然出会い、せっかくだからと寮内の案内をした。屋上に連れて行ったところいたく感動され、ここでライブをやりたいと話していた。熊野寮の屋上は存外に見晴らしがいい。
食堂に戻ると同釜会……卒寮生が集まる企画が開催されていた。鍋を囲み、周囲の話に耳を傾ける。しばらくして周囲の人間も少しはけたところで、地下で行われるクラブイベント、クラクマに少しだけ顔を出す。
一日の最後に、喫煙所でギターの弾き語りをした。しゃべったこともないような面々と『今宵の月のように』を合唱する。月は見えない。月齢は27.9、ほぼ新月だった。最後まで一緒にいた友人は、熊野寮について「いい所ですわ」と繰り返していた。
気が付けば一日は数時間前に終わっていた。今日は早く寝ようと思っていたのだけれど、楽しすぎたからしょうがなかった。