こんにちは、監督の西坂來人です。
僕が最も尊敬する映画監督の黒澤明は「弱いシナリオから絶対にすぐれた映画は出来上がらない」と語ったそうです。
少しでもお手本に近づきたいと思う一心で、この作品もシナリオが弱くならないよう、何度も何度も書き直しを重ねました。
最終的には9回まで書き直して決定稿になったのですが、今回はシナリオの制作の過程について書きたいと思います。
今回は企画者の枝里佳さんと月に1回くらいのペースでカフェに集まり、アイディアを出し合うところから始めました。
まずはテーマを明確にすることからはじめ、「誰が」「何を経て」「どう変化するのか」という物語の芯になる部分(ログライン)を作ります。
そこから肉付けをしていき、葛藤やカタルシス、そこに至るロジックを整理していきます。
さらに、全体的に物語に無理がないか、破綻がないかを精査しながら整えていきます。
工業製品のように論理的に破綻なく物語を繋げていく作業と同時に、観客の感情が動くことを目的にしているので
登場人物の繊細な感情の動きをいちばん大切にしながら作業を進める必要があ流のが最も難しいところです。
最終的に、信頼できる人にシナリオを見てもらって客観的な意見を聞いたり、
足りない要素を足したり削ったり、ギリギリまで修正作業をして撮影の数日前に完成稿ができました。
全ての創作物に言えることですが、シナリオも同じで、何度も書き直しができるので完全な完成がありません。
さらに、シナリオは映画の設計図です。
映画という立体物が完成して、はじめて機能するかがわかる部分も多々あります。
僕の場合、実際に役者さんが演じた時にやり辛らさや違和感があったりする時は、大抵シナリオに無理がある場合が多いです。
それをできるだけ撮影中に気づいて修正したり、編集で修正したりするようなDIY感に溢れる創作のあり方も、
僕が映画監督として感じるもの作りの面白さのひとつだと思っています。