
「書」が好きだった母が書き残してくれていた言葉をご紹介します。母は八十歳をすぎても毎朝「天声人語」を書き写したり、午後からは手本を見ながら書を楽しむ生活を送っていました。七年前に数えの八十八歳で鬼籍に入りましたが、二年ほど前に遺品整理をした時に一枚の書に目が留まりました。「和顔愛語」(わがんあいご・わげんあいご)仏教の言葉です。無財の七施の中にも「顔施」がありますが、柔和な顔で接すると相手はホッとすることでしょう。また愛ある言葉をかけて差し上げることで相手はどれだけ心暖まることでしょう。布施心の根本を表す言葉とも言われています。心に沁みる言葉です。
本当に良くぞ書き残してくれていたものです。私が年を重ねつつあるときに、きっと見つけてくれるだろうと見越していたかのようです。母は私が仏教に帰依したことを心から喜んでくれていました。母の生前、会話の中で「和顔愛語」の言葉が話題になったことはありません。いつの間に書いていたのか私の記憶にはありません。しかし、この書を見つけたときには、久しぶりに母と会話したような感覚になり、嬉しく思わず涙しました。宗教者としてこれから残りの人生、母から贈られたこの言葉を心の中心に据え、大切に丁寧に暮らしてまいりたいと思っています。
大学講義の中でも学生にこの言葉を紹介いたしましたが、現在採点している期末レポートの中に「和顔愛語」の言葉に出会えたことを感謝する内容が多く記載されています。日本人だけでなく留学生諸君も感じてくれたようで、年齢や世代、そして国境をもを超えて共有できる言葉だと改めて認識いたしました。
ご支援くださった方へお礼の手紙や返礼品を送る際に、この書「和顔愛語」の写真(L版)を同封させていただきます。