「カルイ」
写真に写っているのが廣島一夫さんが作られた「カルイ」です。
背負い籠は全国津々浦々使われているものですが、この形状はこの地方独特のものです。
傾斜地に作られただんだん畑がほとんどのこの土地で、荷を運ぶのに適した形。下にいくほどすぼまっているので、重心が上になって軽く感じる。また、背負うことをこの地方では「かるう」というところから「カルイ」と呼ばれています。しかもこの形、傾斜地に置いた時安定がいいのです。
カルイは地元の人が自ら作ることが多かったといいます。日之影でカルイ作りを専門にされていたのは飯干五男さんです。飯干さんは民芸品としての小さいものから、3メートルもある大きなものまで作られていたようです。廣島さんは廣島さんなりの工夫を加えたカルイを作られていました。一見、見分けはつきませんが、飯干さんにカルイを習い、しかも廣島さんのカルイ作りをみている小川鉄平さんにはその違いがわかるそうです。
職人仕事に名前は入りません。しかし、どこかに作り手にしかわからないサインが残されているものです。それは縁巻きの仕方だったり、補強の仕方だったり。それが職人のプライドなのだと思います。
私が日之影を訪れた時も、畑仕事の傍らに「カルイ」を見かけましたし、隣の高千穂町でお知り合いになった85歳のおばあちゃまは、今も毎日の畑仕事にカルイは欠かせないとおっしゃっていました。それを裏付ける面白い資料があります。平成13年に発行された「日之影町史10 別編(2)日之影の竹細工」に平成11年に町民各々が保有する竹細工の調査を行った結果、竹の箸を除いてカルイが2239個とダントツのトップで、世帯数が2000戸足らずということなので、一家に一個以上あったということになります。
また変わった使い方があることを伺いました。幼稚園や小学校の運動会の玉入れ競技、大人がカルイを背負って、子供たちが玉を入れる、そんなふうに今も使われているそうです。
この写真のカルイは展覧会チラシ撮影用に、小川さんがご近所の89歳一人暮らしのおばあちゃんから借りてくださったもの。現役ばりばりの廣島さんのカルイです。
「このカルイを借りるために、おばあちゃんの家の雨どいの掃除と、玄関の一部のセメント塗りをしました。」と、小川さん。
いやはや、申し訳ない!
今回の展覧会では廣島さん、飯干さんお二人のカルイを展示させていただきます。
皆様も会場でその違いを見つけてください。
日之影の景色にはカルイが良く似合います。