
HPF2025ワークショップ「香りと記憶の交換ープルーストにはできなかったこと」
開催期間 : 2025年11月11日(火)
開催場所 : 札幌市モエレ沼公園ガラスのピラミッド スペース1
開催時間 : 第1回13:00〜14:00 第2回14:30〜15:30 定員一回8人まで
楠 尚子(パフューマー)
参加料:2,000円
においを嗅いで昔の記憶が瞬時に蘇る現象は、『失われたときを求めて』の中で、マルセル・プルーストによって極めて印象的に記述されたことから、「プルースト現象」とよばれ、思い出そうという意図を伴わない想起として「無意図的想起」に分類される。
プルーストは、思い出は偽物だと信じていた。私たちの知性は経験を再加工し、事実を曲げる。したがって、記憶を意識的に呼び起こすことに反対していた。だからこそ、突然のフラッシュバックをとても喜んだのである。それは思い出す過程で偽物の記憶が紡ぎだされてしまうことがなく、真実に近いと考えたからだ。
ブラッサイによれば、この無意図的想起記憶のメタファーとして、プルーストは写真を多く用いた。記憶とは「人生のさまざまのことを記した、写しのある、随時閲覧可能なものではなく、いわば一つの虚無であって、そこからときどき死んだ思い出が現実との類似によってよみがえり、引き出されてくるのだ」。さらに彼は「もう立ち返ってこない思い出」を「決して現像されない写真」に喩えた。
しかし現代の私たちは、スマートフォンという写真撮影機能を持つ装置を常に携帯することによって、記憶を保存し、いつでも取り出すことができる。このワークショップでは嗅覚を手がかりに、「意図的想起」によって香りと記憶と接続させ、記憶の可視化を試みる。
出典:ブラッサイ『プルースト/写真』上田睦子 訳、岩波書店、2001年
楠 尚子 Naoko Kusunoki
調香師|嗅覚アーティスト
@naoko_perfumer
大学で国際政治とグラフィックデザインを学んだ後、大学院にてコンテンポラリーアートにおける嗅覚表現を研究。香りを芸術の領域でいかに位置づけ、表現し得るかを探究している。既製品に依存せず調香を行う専門ブランド「Y O U REXCLUSIVE」を創設し、実践と研究を往還しながら活動を展開。展覧会においては香りの創作のみならず、多様なメディアを通じて嗅覚の可能性を提示している。東京と京都を拠点に活動。
ラリー・シャイナー著『においの芸術』(2025年、晃洋書房) 翻訳者。




