
このストリートピアノすみだ川は、何より、川のそばに本物のピアノが置かれているという、そのビジュアルが強いですね。近頃はあちこちでストリートピアノをやっていますが、大抵は屋内、駅の構内とかホテルのロビーとかでしょう。ところが、この企画では、ピアノがあるはずのない露天にピアノを持ち出しているわけですから。何でこんなところにこんなものがあるんだ、という驚き。口幅ったく言うと、デペイズマン?
しかもこのピアノは演奏できるわけです。墨田川テラスは、普段はジョギングや散歩をしている人が多い場所ですが、例えば、勢いよく走っているランナーが、不意にピアノの前で足を止めて、流麗に演奏を始める、という情景を想像してみてください。えー、この人がピアノを弾くの?という驚き。まあ、実際には、いろんな事情でそう上手くは行かないわけですが。
言い換えれば、ピアノをコンサートホールから解放する、音楽を音楽の専門家から解放する、ということに興奮するわけです。私はいち市民で、音楽で飯を食っているわけではないから、いくらでも無責任な幻想を口にできる。
そういう幻想を目の当たりにしたくて、断り切れずスタッフを続けてきました。
ところが、幻想を見るのも大変なのですよね。まずは重たいピアノを川っぺりまで持ち出さないといけない。これが一仕事。
ランナーとの関係も、先に書いたのは美しい夢であって、普段墨田川テラスを走っている人からしたら、さして広くない場所にピアノが置かれて、人が集まっていたら、そりゃあ邪魔ですよ。それに危ない。だから、警備や観客の整理が必要。
何かと人が要るし、お金もかかるという、世知辛い現実と向き合わなければならないわけです。
というわけでのクラウドファンディング、と理解しています。
また、同じようなことを何年も続けていると、いろんな意味で固定化してしまう。参加者も、弾く気まんまん、聞かせる気まんまんでがっつり準備してくる人や、セミプロみたいな人、時には本当のプロもやってくる。ただピアノを美しく弾く、ということでは、それもいいんですが、私の幻想には合わない。
参加者のすそ野を広げて、新しい人と出会うという点でも、クラウドファンディングを行うことには意味があるかも知れません。





