
みなさま、こんにちは。Cultiva代表の副田大介(そえだ だいすけ)です。
いよいよ、仕込みも酛立て(酒母造り)に突入しました!これから数回にわたり、私が取り組んでいる酒母の製法の一つである「生酛造り」についてお話ししていきます。第一回は、生酛とは何か、そして私がなぜこの手法に注目しているのかについてです。
まず酒母とは、酒造りの出発点であり「酵母を純粋に培養したスターター(種)」のことです。酒母造りでは、仕込みで使う大量の酵母を、雑菌の混入を避けながら健全に増やすことが目的です。その中でも生酛は厳密な温度管理のもと、乳酸菌や硝酸還元菌といったさまざま微生物の遷移を経て、酵母が生きやすい環境を整えていきます。
精米90%山田錦の埋け飯。低温下でゆっくりと冷却し、蒸米を硬くしていく(老化)
埋け飯後の蒸米と米麹と水を合わせ、時間をかけて水を吸わせていく
生酛造りは、江戸時代に確立された伝統的な製法で、人工的に乳酸を添加して短期間で酸性環境をつくる速醸酛と違い、自然の硝酸還元菌や乳酸菌の働きを利用し、雑菌汚染を避けながら時間をかけてゆっくりと酒母の発酵を進めていきます。乳酸菌が生産する乳酸によって酒母が酸性になることで、酵母にとっては生育しやすく、他の菌にとっては生きられない環境をつくりだすのです。この「徐々に酸性化するプロセス」こそが、生酛の本質であり最大の特徴です。生酛造りといえば、埋け飯(蒸米をゆっくり冷却し、硬くしたもの)と麹を桶やタライ中で擦り潰す「酛摺(もとすり)」が有名ですが、私は、生酛の本質は「徐々に酒母が酸性化していくプロセス」にあると思っています。
品種特性を最大化する戦略
酸性化の過程では、麹由来の酸性プロテアーゼや酸性カルボキシペプチダーゼといったタンパク質分解酵素が段階的に活性化し、米のタンパク質は一度ポリペプチド(タンパク質の分解物)として蓄積されたのち、更に多様なアミノ酸へと分解されていきます。これにより旨味・甘味・苦味といった幅広い成分が生成され、複雑な味わいが形づくられます。
私が生酛造りに着目しているのは、米の品種ごとに異なるタンパク質の組成が、アミノ酸の生成パターンとして表れ、その違いが米の個性を際立たせてくれるからです。山田錦やヒノヒカリなどの米は、それぞれタンパク質の構成比に違いがあり、その違いが生酛のような段階的なタンパク質の分解で酒質に鮮明に表れてきます。つまり、生酛造りは酒米テロワールを探究する上で極めて有効な手段だと考えています。
酛摺の作業の様子
上の写真は「酛摺(もとすり)」の場面です。埋け飯後の蒸米と麹を水と合わせ摺り潰し、糖の濃度が高く水分活性が低い状態(ヨーグルト状)にしていきます。手間のかかる伝統的な工程ですが、この一歩が生酛の奥深い味わいの始まりです。
次回は「水と硝酸還元菌の関係」について。生酛造りがなぜ“水”から始まるのか、その意味を掘り下げてお伝えします。



