
1.はじめに
「春」第1楽章が明るくにぎやかな自然の目覚めを描いたものであるとすれば、第2楽章はそのあとの穏やかな午後の情景、といった趣があります。
今回は、ヴィヴァルディ《四季》の中でも特に静かで内面的なこの楽章を取り上げます。
2.牧歌的な午後、遠くで犬が吠える
この楽章には、春の野に吹く風のような、ゆったりとした空気が流れています。
通奏低音が規則的に繰り返すリズムは、まるで遠くで番犬が寝ぼけながら吠えているようなイメージ。実際、楽譜にも「犬の鳴き声(Il cane che grida)」という指示があります。
その上を流れる独奏ヴァイオリンの旋律は、とても穏やかで、どこか夢うつつのよう。明るく満ち足りた春の午後に、ゆったりと横になってまどろんでいるような情景が思い浮かびます。
3.「音を聴く時間」の美しさ
この楽章には、速いパッセージや目立った展開はありません。
だからこそ、ひとつひとつの音がどんな表情で響くか、その「音の余韻」に意識が向かいます。演奏者にとっては、音を発する瞬間よりも、そのあとの沈黙や残響の時間がとても大切になる楽章です。
「演奏する」というよりも、「その場に音を置いていく」という感覚に近いかもしれません。
4.小池彩夏のコメント
穏やかな旋律の中で音の呼吸と「間」を大切にしています。弓をゆっくりと滑らせながら、音と音の隙間に春の柔らかな空気を感じていたいのです。犬の鳴き声のモチーフも、響きの中にそっと溶け込ませることで現実感が生まれます。夢と現が交わるような、不思議な静けさが魅力です。
5.次回予告
次回は、《春》第3楽章。再び軽やかなリズムが戻ってきて、春の到来を喜ぶ人々の踊りのような雰囲気が広がります。どうぞお楽しみに!






