
コムズは、杏などの木をくり抜いて作られる3弦の楽器です。コムズには「フレット(音を区切る仕切り)」がなく、とてもシンプルなつくりをしています。広大な草原を馬に乗って移動し、季節ごとに住処を変える遊牧(ノマド)生活。彼らにとって、大きく重たい楽器を持ち歩くのは不可能なことでした。 そこで生まれたのが、コムズの「スリムで、削ぎ落とされたようなシンプルな形」です。なにやら服の袖に楽器を通して馬に乗ってたという話もあるらしいですよ。
現代のコムズはコンサート演奏用に、少しぷっくりとした見た目に改良されていますが、今でもまだ細長い形をしたコムズを見かけることもあります!
1本の木をくり抜いた頑丈なボディに、3本の弦。 余計な装飾を省いたその姿は、草原を移動し生きる人々のための「究極のポータブル楽器」でした。コムズは、楽譜を持たず、数千年にわたり「口承」で受け継がれてきたキルギス音楽の自由さと奥深さを、最も象徴する楽器といえます。
遊び心あふれる「アクロバティック」な奏法
コムズの最大の魅力は、その自由な演奏スタイルにあります。時にはコムズを肩に担いだり、頭の後ろに回したり、あるいは逆さまにして弾いたりと、手品のようなアクロバティックな奏法が次々と繰り出されます。
これは単なる見せ場ではなく、厳しい自然の中で生きる遊牧民たちが、音楽をいかに「楽しむもの」として大切にしてきたかの証でもあります。指先だけでなく、腕全体、体全体を使って鳴らされる音は、まるで草原を駆ける馬の鼓動そのものです。聴いて楽しい観て楽しい。まさにそれを表現しているのがコムズのアクロバティックな奏法なのです!
生活のなかに息づく「生きた音楽」
コムズは、決して過去の遺物ではありません。今でもキルギスの人々の暮らしの真ん中で、生き続けています。
例えば、コムズを持ってレストランで食事をしていたら、隣のテーブルから「一曲弾いてくれよ!」と気さくに声がかかり、ライブが始まることも珍しくありません。また、長距離バスの出発を待っているわずかな時間に、背負っていたコムズを取り出せば、通りがかりのバイケ(おにいさん)が「俺にも弾かせてくれ」と加わり、見ず知らずの人同士が音を通じて笑顔で繋がったりもします。そんな光景が、キルギスでは今も当たり前のように繰り広げられています(どちらもまさかの実体験)。
数千年の歴史を持ちながらも、敷居の高い芸術としてではなく、生活の喜びや寂しさを分かち合うための「共通言語」として愛されているコムズ。



