
【毎日更新】第15回『LOVE IS [NOT] DEAD.〜おやじパンクス、恋をする〜』
……だが俺は無視した。いや、無視っつうか、それが俺にかけられた声だとは思わなかったんだな。何しろ、友達が少なくて、普段誰かから話しかけられることなんてほとんどねえからさ。はは、笑える。
とにかく俺はそのまま、いやむしろスピードをあげて歩いていったんだけど、なぜかその声が追ってくるんだよ。
「ねえってば」
さすがの俺もなんかおかしいぞって思って、足を止めて恐る恐る振り返ったんだ。
そしたらそこに誰かがいた。だけど、夕暮れの太陽を背にしているせいで、眩しくてその顔はよく見えない。輪郭だけが黒く浮き上がってるような感じで、ほら、ドラマとかによくあるだろ、そういう場面。ただ、その子が他でもねえ俺に話しかけているんだってのは間違いなさそうだった。
「な、なに?」俺は戸惑いながら応えた。
「あんた、あたしのこと知ってるでしょ」
高くて、ちょっと掠れた声。
俺は目を凝らしたが、やっぱり眩しくて見えない。仕方なく俺は、その女の子を中心に半円を描くような感じでカニ歩きで移動して――今思えばその動きもなかなかにキモかったろうな――とにかく女の子の後ろに回って、つまり俺が太陽を背にするようにして、あらためてその顔を見た。で、「あっ」と思った。
その子は間違いなく、あの子、だった。レストランの窓から見える、赤いカーテンの部屋に住んでいる、あの子だよ。
太陽に照らされてピンク色になった彼女の顔。初めて間近で見る、彼女の顔だ。
「あんた、いつもあの店からこっち見てたでしょ」
「えっ?」
突然のことに、俺、当たり前だけどテンパったよ。あ、あ、あ、なんて、日本語忘れたみたいになって、何も言えなかった。
そもそも、なんで彼女がいきなり現れるのかが分からなかったし、その彼女がどうやら自分を知っていて、しかも、レストランから盗み見していたことまでバレてて、それを責めるような口調で指摘されているわけだから、まあ、テンパらない方がおかしいよな。
あと、思ってた以上に彼女が可愛かったことも、俺の混乱を大きくしてた。
「あれ? わかんないかな。あんた、土曜日に来るでしょ、あのレストラン」
「う、うん」俺が頷くと、女の子は笑った。
「やっぱり。よかったあ」
それまでのどこか高圧的な態度とはまるで違う、無邪気な笑顔。そばかすの浮かんだ頬、白人みたいな目鼻立ち、えくぼ、つやつやした髪。
なんていうか、すべてが完璧に見えたよ。そんな可愛い子が現実に存在して、それが目の前で、俺と話しているってことが信じられなかった。これは夢の中の出来事なんじゃねえかって真剣に疑うほどにさ。
それに、いまなんて言った?
よかった?
よかったって言ったのか?
〜第16回に続く〜
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本日はここまでです。
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それでは、また明日。
児玉ロウ




