
こんにちは!たけえりです。
今回は、絵本のテーマである「アニマルウェルフェア」とはそもそも何か?について、なるべく分かりやすく解説したいと思います。
◆アニマルウェルフェア(Animal Welfare、動物福祉)とは何か
アニマルウェルフェアは「動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的及び心的状態」と定義されています。(国際獣疫事務局(WOAH))
ちょっと難しいので、一般的にはアニマルウェルフェア=動物が生まれてから死ぬまでの間、身体的・精神的に良好な状態で過ごせるよう配慮すること などと説明されています。
私は身近な人には「動物を一生大切にすること」などとざっくり説明しています。
単に虐待を防ぐだけでなく、動物本来の習性を尊重し、苦痛やストレスをできる限り減らし
快適・健康に暮らせるよう配慮することが必要となります。
アニマルウェルフェアの基本的な指標として、1960年代にイギリスで「5つの自由(Five Freedoms)」という原則が提唱されました。
国際的に知られている、動物が満たされるべき条件を示したものです。
<5つの自由>
・飢えと渇きからの自由
・不快からの自由
・痛み・怪我・病気からの自由
・本来の行動を発現する自由
・恐怖と抑圧からの自由
近代では効率的な生産を重視した「工場型畜産」が普及し
多くの動物が狭い空間で飼育されるようになるなど
畜産動物に不自然なストレスや過度の負担をかけるようになりました。
5つの自由は特に扱いの酷い畜産動物を守るために生まれたものですが
現在ではペットや実験動物など、人間の管理下にあるさまざまな動物を守るための重要な倫理基準となっています。
アニマルウェルフェアは動物の利用は認めた上で、動物の感じる苦痛をできるだけ抑えようという考え方です。
動物の利用自体を否定する「アニマルライツ(動物の権利)」という考え方とは異なります。
◆アニマルウェルフェア改善に向けた取り組み、日本はかなり遅れている
それでは、海外では畜産動物への配慮はどのぐらい進んでいるのでしょうか。
海外では欧州を中心に、アニマルウェルフェアに関する法律が整備されています。
例えばEU(欧州連合)では、畜産動物の飼育方法を規定する指令があり、ケージ飼育の制限や動物の飼育密度などが定められています。
採卵鶏のバタリーケージ(小さな鳥かごに鶏を入れて飼う方法)は2012年以降一部の小規模施設を除いて禁止されており
ブロイラーの飼養密度は1平方メートルあたり33kg以下に制限しています。
豚については麻酔や鎮痛措置なしでの日常的な尾の切断(断尾)や歯切りは禁止されており
生後7日以降の子豚の去勢には麻酔および鎮痛措置を行うことが義務付けられています。
EUの複数の国では麻酔なしでの外科的去勢自体禁止しています。
そして、動物の屠畜前には必ず気絶させ、迅速に死亡させる必要があります。
気絶処置を行うことで動物が無意識かつ痛みを感じない状態になり
意識があるままの状態に比べればより安楽になくなることができるからです。
厳格な基準を適用する一方で、アニマルウェルフェアの改善を行う畜産農家を金銭的に支援する制度も用意されています。

欧米を中心に、食品関連企業にも「ケージフリー卵(平飼い卵)の採用」や「母豚への妊娠ストール不使用」といった、アニマルウェルフェア基準・目標を自主的に導入する動きが広がっています。
多くの食品企業がアニマルウェルフェアを経営戦略の重要な柱として位置づけており
投資家は世界の食品大手のアニマルウェルフェアへの取り組みを評価・順位付けする「Business Benchmark on Farm Animal Welfare(BBFAW)」というベンチマークをESG投資の判断材料の一つにしています。
つまり、アニマルウェルフェアへの配慮が企業価値に直結するのです。
消費者の意識も高く、アニマルウェルフェア対応食品の購入意欲も高い傾向にあります。
欧米ではアニマルウェルフェアの認証制度(例:イギリスのRSPCA Assured、オランダのBeter Leven、アメリカのCertified Humane、Global Animal Partnership など)が広く普及しており
消費者は商品についているこれらのラベルを目印に、畜産動物に配慮した食品を選択・購入することができます。
一方で、日本では畜産動物の飼育方法についての「指針」(農水省策定・公表の「アニマルウェルフェアに関する飼養管理指針」)はあるものの、法的拘束力はありません。
このため、世界では廃止の動きが広がっている狭いケージでの拘束飼育や過密飼育、麻酔なしでの外科的処置、意識あるままの屠畜が未だに行われているのが現状です。

農水省や畜産技術協会、日本養豚協会の調査によると、日本では9割の養豚場が、母豚の飼養管理に体とほぼ同じ大きさの狭い檻(ストール)を使用しており、母豚は一生のほとんどの期間をその中で過ごします。
約95-99%の農場が、無麻酔で仔豚の去勢を行っており、断尾や歯切りもほとんどが麻酔を使用していません。
肉用鶏(ブロイラー)はEU平均の1.4倍過密飼育されており、最期は意識あるまま逆さづりにされ首を切られます。それでも死ねなかった鶏は熱湯に入れられ、全身やけどで絶命します。
乳牛に関しては約7割の酪農家がつなぎ飼いし、放牧を全くしていません。除角も約9割の酪農家が実施していますが、大半が麻酔を使用していません。
今回の絵本の主人公である採卵鶏の現状に関しては、次回の記事で詳しくお伝えします。
世界動物保護協会(本部ロンドン)は、2020年版の動物保護指数(API)レポートで、日本の家畜のアニマルウェルフェアについて、最低ランクの「G」と評価しています。
アニマルウェルフェアに関する法制がない点を問題視しており、 法整備や農場・屠畜場の定期検査のほか、おりでの飼育禁止やブロイラーの飼育密度の緩和、麻酔下での手術の実施、長距離輸送の禁止、食肉解体前の気絶処置などを推奨しています。日本の畜産業には厳しい目が向けられているのです。
◆日本の消費者は「安さ」を重視し、「生産背景」に関心がない?
そして、企業や消費者の意識もまだそこまで高くありません。
日本ではまだアニマルウェルフェアの認知度が低く、動物に配慮した卵や肉の購入意欲も低い傾向にあります。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査レポートによると、日本の消費者の購入意向は調査対象の他の3カ国(アメリカ、イギリス、オーストラリア)よりも低く
普段卵や肉を購入するときに「価格」を重視する割合が他の3カ国よりも大きい一方で
「飼育・生産方法」を重視する割合が4.2%と非常に低い(アメリカ10.9%、イギリス25.8%、オーストラリア24.9%)ことが判明しています。
たとえ購入したくても、そもそも店頭に並んでいる商品がどのように生産されたのかを知るすべがないので、適切な商品を選ぶことができません。
一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会による認証や、山梨県のように地方自治体が独自の認証制度を設ける動きも出てきていますが
認証商品は簡単に手に入らず、認知度もまだ低いのが現状です。
政府が法整備をしない→畜産農家はアニマルウェルフェアの改善に取り組む必要がない→企業はアニマルウェルフェア対応の畜産物を調達できない&企業・消費者共にそもそも関心が薄い→需要がないので農家もアニマルウェルフェア改善のための設備に投資できない…という悪循環に陥っており、動物がいつまでたっても救われない状況が続いています。
◆変化の兆しも
しかし、日本でもここ数年、畜産動物のアニマルウェルフェア改善の兆しが見えつつあります。
国連などの国際機関が、持続可能な畜産や食料安全保障などの観点からアニマルウェルフェアの順守・改善を各国に求めており
日本でも政策上の課題として明確に取り上げられるようになりました。
令和7年度補正予算ではアニマルウェルフェア関連の補助金が含まれ
鶏のガスによる気絶処理やケージフリーなどへの補助が強化されました。
従来の補助金では難しかった、収益向上や規模拡大ではなく「アニマルウェルフェア向上」を目的とした畜舎改修や設備導入が申請しやすくなりました。
企業の側でも、特に大企業を中心にアニマルウェルフェアの目標を掲げる動きが少しずつ広がっています。
消費者の意識はまだそこまで高くないものの
先の三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査レポートでは、アニマルウェルフェア対応食品を購入しない要因や理由について、日本では「近所に購入できる店がない」ことを挙げる人が最も多く、十分に普及していないことが障害になっているようです。
普段の買い物で、店頭に並んでいる卵や肉の生産方法を製品表示や認証ラベルで確認できるようになれば、購入する人が増え、企業や畜産農家も改善に向けて本腰を入れることができるかもしれません。
アニマルウェルフェア関連の法整備や、既存の施設をアニマルウェルフェア対応に改修するための国の補助拡充、消費者の認知度向上、消費者が動物に優しい商品を選べるようにするための認証制度の確立などを通して、日本のアニマルウェルフェアを国際水準に近づけなければなりません。
今回の絵本が、変化を後押しするのに役立つ存在になれることを願っています。



