
実際の美術館では、ひび割れはどう見えるのでしょうか?
デジタル修復を進めていると、よく考えることがあります。
「実際に美術館で見る『真珠の耳飾りの少女』は、どのように見えるのだろう?」
結論から言えば、ネットや画集で見る高精細な写真ほど、実際の美術館ではひび割れ(クラクリュール)は目立たないと言われています。
その理由は、大きく分けて二つあります。
一つ目は写真の撮影方法です。
油彩画を撮影する際は、筆致や絵肌の質感を伝えるために光の当て方が工夫されます。また、高精細・高コントラストで記録されるため、肉眼ではあまり意識しない細かなひび割れまで鮮明に写し出されます。
一方、美術館では作品の印象が大きく変わります。
展示室では、絵肌の凹凸による余計な影が出ないよう、作品全体に均一で柔らかな光が当てられています。そのため、ひび割れの溝にできる影が抑えられ、写真ほど強く目立つことはありません。
さらに、鑑賞距離も影響します。
名画は一定の距離を保って鑑賞することが多く、肉眼では細かなひび割れが画面全体の印象に溶け込みやすくなります。私たちの目は、写真のように画面全体を均一に見るのではなく、少女の澄んだ瞳や耳飾りの輝き、表情など、自然と見どころへ視線を向けます。そのため、脳は絵そのものを優先して認識し、細かなクラクリュールは意識の背景へと退いていくのです。
そのため、チラシや画集、インターネットで見た印象よりも、「実物の方がずっと美しかった」と感じる方が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、その印象に少し近づけることを意識して、ひび割れを控えめに残したバージョンも試作してみました。
展示での照明を考慮した「ひび割れが薄いバージョン」
オリジナル 出展:Wikimedia Commons
実際に『真珠の耳飾りの少女』をご覧になったことのある方は、ぜひ感想をお聞かせください。
「実物はこんな印象だった」
「もっとひび割れは目立っていた」
「このくらいが一番近い」
など、皆さまの体験を教えていただけると、今後の修復の参考にさせていただきたいと思います。
*********************
修正作業は毎日コツコツ



