自己紹介
終わらないノイズから、一度降りた大人たち「STUDIO ELAN」
はじめまして。アートプロジェクト『なぎのえき』を主催する、STUDIO ELAN(スタジオ・エラン)プロデューサーの篠原有利です。
私たちは、エンターテインメントを大量生産して消費させるための集団ではありません。かつて皆さまと同じように都会の猛スピードに摩耗し、終わらないタスクや重責に心をすり減らしながら生きてきた大人たちです。
本プロジェクトには、芸歴30年を超える私の妥協なきディレクションのもと、無邪気な残酷さと慈愛を体現する桜乃遥香(なぎ役)や、現代の孤独と再生を等身大の声に宿す莉子(栞役)など、気鋭のキャストとクリエイターが集結しました。「消費される悲劇」ではなく、確かな手触りのある「アート」を届けるため、一切の妥協を排した制作を行っています。

このプロジェクトで実現したいこと
日常に置ける「心の避難所」を創り、全国の大人たちへ届ける
佐賀県唐津市にある鄙びた無人駅を舞台に、写真と音声(オーディオドラマ)を掛け合わせた没入型アート作品『なぎのえき』を制作し、皆様の元へ「途中下車の切符」としてお届けします。
毎日の満員電車や終わらない仕事に息が詰まりそうになったとき、目を閉じてイヤホンをつければ、そこは波音とひぐらしが鳴く夕暮れの無人駅。職場のデスクでフォトブックを開けば、一瞬でアンバー(琥珀色)の静寂へワープできる。 そんな、擦り減った心を回復させ、もう一度「今の現実」を愛するための実用的な回復ツール(避難所)を形にすることが、私たちの目的です。心の中に在る郷愁と癒しの空間へといざないます。

プロジェクト立ち上げの背景
消費されないための祈り、あるいは静かな駅について

二十歳のころ、私の世界は一度完全に砕け散りました。想いを寄せていた恋人を、別の男性が運転する車での交通事故で突然失ったのです。押し寄せる悲しみと行き場のない嫉妬心から逃れるため、私はただ「仕事」という名の戦場に逃げ込み、気がつけば35年以上の月日が流れていました。
痛みを忘れるために数字とタスクに追われ続け、心も体もボロボロになり「もうどこにも逃げ場所がない」と絶望していたとき。偶然出会ったのが、唐津の無人駅でした。錆びた駅名標と夕暮れの静寂に包まれたとき、何十年も鍵をかけていた「言えなかった想い」が溢れ出し、私はようやく深く息を吸うことができたのです。
世間に溢れる、悲劇を安易に消費してお涙頂戴で終わるドラマにするつもりはありません。私のこの生々しい痛みと救済の体験を、永遠に残る「アート」として昇華させ、いま都会で限界を迎えている誰かを救いたい。その強烈な祈りが、このプロジェクトの原点です。

現在の準備状況
唐津市の後援と、熱狂的な制作現場
本プロジェクトは、唐津市観光課様からの「撮影協力」および「ロケ助成金支援」という行政の正式な後援を得て、公益性と安全性を担保しながら進められています。
また、この物語は深くあなたの心に届くような豊かな世界観を持っています。それを感じていただける小説版も連載をしています。本ページの活動報告や、noteにてバックナンバーもすべて読めるようになっています。
https://note.com/yuurishinohara/m/m928032f188db
現在、ロケ地での写真撮影を繰り返し、オーディオドラマの音声収録と編集作業が佳境を迎えています。
制作現場では、キャスト陣に対して「何度でもテイクを重ねて役を掴み取らせる」という厳しい指導を行っていますが、彼女たちはへこたれるどころか圧倒的な熱量で食らいつき、日々クオリティが跳ね上がっています。「ここなら本物に育つ」と確信できる、魂の込もった現場ができあがっています。
同時に出演者による「地元を盛り上げるためのコンテンツ」制作をスタートさせています。
ただの動画コンテンツではなく、地元の方々が喜んでいただけるものを制作するために試行錯誤を繰り返し、その結果はリターンになるようにしています。
また主演は、福岡を中心に活躍する中洲リバークルーズ 船上アイドル「AQuariA」 正規メンバーの桜乃 遥香(さくらの はるか)を起用。彼女の魅せる表情と明るさ、その裏側にある切なさを表現した『桜乃 遥香写真集』としての側面も感じてください。

リターンについて
遠方の方も「制作の目撃者」になれる特別なラインナップ
唐津に足を運ぶことができない全国の皆様にも、深く、長くこの作品を楽しんでいただけるリターンをご用意しました。

【目玉】Kindle完全版書籍コース唐津にゆかりのない方へ一番のおすすめです。本編のオーディオドラマに加え、キャストへの指導風景や未公開オフショット、監督の演出意図などを網羅した「完全メイキング電子書籍(Kindle)」をお届けします。ひとつの芸術が泥臭く創り上げられていくドキュメンタリーを共有できる、特別なコースです。
デジタル乗車券コースまずは手軽に世界観に触れたい方向け。オーディオドラマの先行試聴と、公式サイトの「乗客名簿」へのお名前掲載をご用意しました。
特装版フォトブック&音声コース現実の「美しい避難所」として、最高級紙を使用したリアルな特装版フォトブックと高音質データカードをお届けします。手元に確かな「余白」を置いておきたい方へ。
法人・起業家応援プランエンドクレジットへの特別協賛掲載に加え、社内リラクゼーションや福利厚生として使える音声・写真の二次利用権利をお付けします。戦う社員への「癒やしのギフト」としてご活用ください。
【法人様へ】
「もう十分頑張っているよ」の言葉の代わりに、この切符を渡してください。
-
御社のオフィスに、すぐ隣の『癒しの唐津』を置きませんか?
「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」――。 目覚ましい変貌を遂げ、圧倒的なスピードで走り続ける福岡の街。 その最前線で戦い続ける経営者の皆様、そして会社を支える大切な社員の皆様の心は、決して終わることのないタスクと都市の喧騒の中で、気づかぬうちに深く摩耗していないでしょうか。
「もっと早く」「もっと遠くへ」と急かされる日々の中で、今、ビジネスパーソンに最も必要なのは、安易な気休めではなく、心の底から深く息を吐き出せる「確かな余白」です。
玄界灘の波音、ひぐらしの声、すべてを包み込む夕暮れの琥珀色。 ここから車でわずか1時間。すぐ隣にある「癒しの唐津」の無人駅は、いつだって静かに、訪れる者の張り詰めた心をフラットに引き戻してくれます。
私たちは、その唐津の「アンバー(琥珀色)の静寂」を、オフィスや自宅のデスクでいつでも開ける、実用的な没入型アートツールとして形にしました。
御社の未来を創る社員の皆様へ。 福利厚生という名の「心の避難所」を、導入してみませんか。
【『なぎのえき』導入がもたらす3つの価値】
1. 戦う社員へ贈る、いつでも帰れる「心の避難所」(メンタルケア)社内の休憩室やデスクに、この特装版フォトブックとオーディオドラマを置いてください。ページをめくりイヤホンをつければ、そこは波音が響く夕暮れの駅。張り詰めた緊張の糸をふっと緩め、もう一度現実に向き合うための「澄んだ深呼吸の時間」を、社員の皆様へプレゼントすることができます。
2. 隣り合う街の景色を守る、文化への投資(地域間CSR)福岡の成長は、周辺地域の支えがあってこそ成り立ちます。唐津市のロケ地支援を受けて制作された本プロジェクトへの協賛は、単なる資金提供ではありません。隣接する佐賀の美しい風景と文化芸術を未来へ繋ぐ「地方創生への投資」であり、地域と共に歩む企業としてのブランド力を確かなものにします。
3. 「人を想う企業」であることの静かな証明(トップ協賛のPR)作品のエンドクレジットへのロゴ掲載は、御社が「利益だけでなく、人の心と文化を深く愛する企業」であることの美しい証明となります。アートに感度の高い層やプロジェクトのファンへ向けて、上質で信頼感のある企業メッセージを、深く、静かに届けることができます。

【地域にお住まいの皆様へ】
「何もない静かな駅」を、永遠の聖地へ
唐津市、山本駅。 初夏の風が吹き抜け、冬には冷たい潮騒の匂いが届くような、静かで美しい場所。
この『なぎのえき』という物語の舞台として、この場所を選ばせていただいた時、地域にお住まいの皆様の中には、こう感じる方もいらっしゃるかもしれません。
「静かな日常を乱されたくない」「見知らぬ人がウロウロするのは、正直面倒くさい」
その懸念は、痛いほどわかります。 小説の舞台になり、AR(拡張現実)のスポットができることで、確かにこの駅には「外からの人」が訪れるようになります。それは、皆様が守ってきた平穏な日常に、小さな波風を立てる行為(デメリット)に他なりません。
それでも。 どうしても、この場所でなければならなかった理由と、皆様にお伝えしたい「このプロジェクトが地域にもたらす、未来への確かな価値」があります。
忘却という一番の悲劇から、この風景を守るために
地方の駅舎や美しい風景は今、静かに、しかし確実に失われつつあります。 「何もない静かな日常」は、時として「誰も来ない、忘れ去られる場所」へと姿を変え、やがて風景そのものが維持できなくなる時代です。
このプロジェクトは、単なる観光客誘致のお祭り騒ぎではありません。今ここにある山本駅の美しい姿と空気を、テクノロジー(AI×AR)と「文学」という真空パックに閉じ込め、永遠に色褪せないデジタルアーカイブとして後世に残すための挑戦です。
この作品を通して、地域には以下のような新しい価値が生まれます。
「静寂」を愛する、敬意を持った訪問者の創出この物語に惹かれて訪れる読者は、決して大声で騒ぐような観光客ではありません。純文学の痛みに寄り添い、主人公と同じように駅のベンチで静かに風を感じ、皆様の土地に深いリスペクトを払う「質の高い訪問者(関係人口)」です。彼らは、地域の静けさを壊すのではなく、静けさを味わいに来ます。
見慣れた日常が「誇り」に変わる瞬間皆様にとっての「いつもの駅」が、全国の読者にとっては「一生に一度は訪れたい、憧れの場所」になります。遠方からわざわざ足を運ぶ若者たちの姿を見ることで、この土地の風景がいかにかけがえのない財産であるかという「地域の誇り(シビックプライド)」を、世代を超えて共有することができます。
「物語の舞台」としての新しい経済循環無秩序な開発ではなく、文化的なアートスポットとして認知されることで、周辺の交通機関や飲食店へ、無理のない、優しく持続可能な経済の還元が生まれます。
共に、物語の「守り手」になっていただけませんか
私たちは、山本駅周辺の日常を「消費」したいわけではありません。 皆様が大切に紡いできたこの土地の空気を借りて、絶対に忘れ去られない「物語の城」を築きたいのです。
「面倒くさい」を乗り越えた先には、この駅が単なる交通機関から、誰かの心を救う「永遠の聖地」へと生まれ変わる未来が待っています。
どうか、この美しくも狂おしい物語と、最新技術が交差する挑戦を、温かく見守り、共にこの風景を守り抜く「共犯者」になっていただけないでしょうか。 皆様の土地の力が、この物語には必要不可欠なのです。

スケジュール
5月 唐津市・ロケ支援契約
6月 公式HP開始 小説版「なぎのえき」連載開始(note)
7月 JR九州タイアップ契約
7月 佐賀県唐津市にてロケ撮影開始
7月 クラウドファンディング終了
2026年10月 オーディオドラマ『なぎのえき』配信開始
2026年10月 kindle電子写真集『なきのえき』発売開始
2026年10月 リターン発送

最後に
── 急ぐのをやめたくなったら、いつでもこの駅に。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
人生という特急列車は、乗っている私たちを急かし続けます。 「もっと早く」「もっと効率よく」「休んでいる暇はない」と。
けれど、走り続けるために心をすり減らし、誰にも言えない痛みを抱え込んだままでは、いつか必ず息ができなくなってしまいます。
『なぎのえき』は、そんなあなたが自分の意志で「途中下車」をするための切符です。 過去の喪失を否定するのではなく、抱えた空洞ごと自分を許し、もう一度、今の不格好な現実を愛し直すための、静かで優しい時間をお約束します。
もし今、あなたが少しでも「息苦しい」と感じているのなら。 どうか、この改札を通って、私たちと一緒に夕暮れのホームに降り立ってみてください。
誰もあなたのことを急かさない、ただ波音だけが響くアンバー(琥珀色)の静寂の中で。 私たちはいつでも、あなたのご乗車をお待ちしています。
STUDIO ELAN プロデューサー 篠原 有利
『なぎのえき』公式サイト
https://prunus-mume2023.my.canva.site/naginoeki

最新の活動報告
もっと見る
未来形の喪失
2026/07/14 16:55唐津の海に夜が降りてくると、世界は深い藍色の静寂に包まれる。開け放たれた窓からは、絶え間なく波の砕ける音が聞こえてくる。それは地球の呼吸のように規則正しく、僕たちの焦燥を少しずつ削り取っていくようだ。遠く海と空の境界線は曖昧に溶け合い、漁火の小さな光だけが、そこが物理的な空間であることを辛うじて証明していた。空気はどこまでも澄み渡り、冬の星々が触れ合えば冷たい硝子の音がしそうなほどに、張り詰めている。僕たちはホテルを出て、ほど近い場所に小さな部屋を借りた。この地に定住するつもりでいた。東京に未練の無い僕たちの判断は早かった。東京の狭いアパートとは違う、間取りに少しだけ余白のある部屋。 そこで僕たちは、小さなテーブルを挟んで向き合い、ノートパソコンの淡い光を浴びながら、新しい会社の事業計画書を練っていた。この地に、僕たちは「なぎ」の物語を正しく伝え、彼女の存在を得家のものにするための会社を作ろうとしていた。なぎの記憶に背中を押されるようにして始まったこの道は、険しい。けれど、歩みを進めるたびに、物語は確かな重みを持って形になりつつあった。 僕となぎの物語を語るために。彼女を「最高のヒロイン」としてこの世に再誕させるために。出版社に持ち込んで、ありきたりな「お涙頂戴」として消費されることだけは、どうしても避けたかった。それでは、あの真っ直ぐな瞳をしたなぎは絶対に納得しないだろう。 だから僕と栞は、自分たちで出版社という船を創ることにしたのだ。あまりに無謀で、滑稽な試みかもしれない。けれど、一度は絶望の淵で息絶えかけた僕たちが、今こうして呼吸をしているのは、間違いなく彼女という存在が光を照らしてくれたからだ。「資金繰りの計算は、これでだいたい片付いたね」栞が眼鏡のブリッジを指で押し上げ、ふうっと小さく息を吐いた。決断してからの栞の行動には目を見張った。あっという間に準備をすすめ、起業に必要な手続きの段取りを済ませてきた。仕事に疲れて、暗い部屋にひとりで泣いていた彼女の面影すら思い出せないほどに、いま僕の前にいるのは強く、どこまでも強く行動的なレディだった。デスクライトに縁取られた彼女の横顔は、夜の闇に溶けそうなほど儚く、それでいて、そこに確かに存在しているという温かな実感を伴っていた。「ああ。あとは、登記の書類を揃えるだけだ。……スケジュールはどうする?」僕は彼女に尋ねた。目標が「予定」へと変わる瞬間、僕の胸には静かな、しかし確かな高揚が波紋のように広がっていた。それはきっと、彼女が僕に寄り添い、献身的に支えてくれたおかげだ。僕は心から、彼女に感謝していた。「そうね」栞は頷き、手元のカレンダーに視線を落とす。「——には、市役所に行ってくるわ」僕の手が止まる。 一瞬、僕の耳が、彼女の言葉をうまく拾えなかったのかと思った。「……ごめん、いつ行くって?」「だから、——には、市役所に行ってくる」聞き間違いではない。栞の唇は間違いなく「あした」と動いたのだ。しかし、その三文字が発せられた瞬間、彼女の喉から出るはずの音が、空気が、完全にミュートされてしまった。 まるで、世界という巨大なシステムの管理者が、彼女のその音声データだけを、悪意を持って削除したかのように。僕はパソコンの画面をそっと閉じ、目の前に座る彼女の輪郭を確かめるように見据えた。「栞」 「……どうしたの?」「少しだけ、記憶のすり合わせをさせてくれ。昨日、僕たちは何を食べた?」「昨日? カレーだけど……」栞は怪訝そうに眉をひそめ、探るように僕の目を見つめた。「急にどうしたの。自分の記憶に自信がなくなった?」「なら、今は何時だ。君が認識している、現在の正確な時間は?」「夜の十一時」淀みはない。過去という確定済みの事象も、現在という観測点も、彼女の口からは極めて滑らかに、自然な音として紡がれる。彼女の意識は、過去から今この瞬間に至るまで、完璧な連続性を保って機能している。「じゃあ……」 僕の心臓が、ひどく嫌な音を立てて早鐘を打ち始めた。「この書類、いつ提出するって?」栞は少し呆れたように、ふっと笑う。そして、口を開いた。「だから、——」音が消えた。 僕の鼓膜には、窓の外から流れ込む波の音と、微かな夜風の音しか届かない。栞自身も、自分の声が途切れたことに気づいたようだった。彼女は戸惑ったように何度か瞬きをし、もう一度、慎重に口を動かす。「……——」 「……——の、来週には」 「……——、来年の春には」駄目だった。何度試しても、「明日」「来週」「未来」という、これから先の時間を指し示す言葉だけが、彼女の世界から綺麗に切り抜かれていた。彼女は自分の喉に手を当て、ひどく傷ついたような、そしてすべてを悟ったような瞳で僕を見つめた。「……そっか」栞は静かに微笑んだ。その笑顔は、かつてなぎが「私はもうすぐ死ぬんだよ」と告げた時の、あのどこか透明で、諦観に満ちた表情と、残酷なまでに重なっていた。「私、もう、この世界で未来を語る資格がないみたい」その言葉を聞いた瞬間、僕の奥底で、冷たくて固い何かが弾けた。 世界は、物理法則や時間の概念を使って、静かに栞を排除しようとしている。なぎの未来を暴力的に奪い去ったこの世界は、今度は栞の未来を、こんなにも静かに、システマチックに消去しようとしているのだ。「冗談じゃない」僕は椅子を蹴るようにして立ち上がり、テーブル越しに栞の両手を強く握りしめた。彼女の掌は氷のように冷たかったが、それでも微かな脈動が、確かにそこにあった。「あなたには、未来がないわけじゃない。世界が勝手にバグを起こして、君から言葉を奪っているだけだ。そんなふざけたルール、僕が絶対に認めない」「でも……」「君が言えないなら、僕が言う」僕は彼女の冷たい手を、祈るように自分の頬に押し当てた。窓の外では、夜の海が圧倒的な質量を持ってうねり、静かな怒りをたたえているようだった。「明日は、一緒に市役所へ行く。来週は、ギャラリーの壁を二人で塗る。来月は、あいつの墓前に報告に行く。来年も、再来年も、君はずっと僕の隣で笑ってる。君が未来を発音できないなら、僕が君の未来を全部、何度でも口にしてやる」栞の大きな瞳から、涙が一粒、音もなくこぼれ落ちた。それはデスクライトの光を反射して、この世界のどんな宝石よりも美しく、残酷に輝いていた。なぎを奪われ、暗闇の迷宮でうずくまっていただけの僕は、もういない。 世界が彼女を消去しようとするなら、僕は言葉を武器にして、この不条理な因果律と全力で戦い抜く。 これは、残酷で美しい世界に対する、僕のたったひとりの叛逆であり、栞をこの世界に繋ぎ止めるための、果てしない冒険の始まりだった。 もっと見る
【アクターズ・エッセイ】主役じゃない私と、波音の祈り
2026/07/14 13:05最初にお話をいただいたとき、私の心の片隅には、ほんの小さな棘のような感情が芽生えていました。「そっか、私は主役じゃないんだ」それは役者としての、ひどくちっぽけで個人的なエゴだったのだと思います。眩しい光の真ん中に立つ『なぎ』の傍らで、そっと影を落とすような立ち位置。そこにどんな顔をして立てばいいのか、最初はどこか戸惑いを感じていたのが正直なところです。けれど、そんな浅はかな棘は、台本という名の扉を開けた瞬間に、あっけなく波にさらわれていきました。唐津の海の匂い。琥珀色に染まる夕暮れ。静かに、けれど確実に輪郭を失っていく不条理な日常。その美しさと残酷さに触れたとき、胸の奥から「ああ、これは他の誰でもない、私がやらなければいけない役なんだ」という静かな確信が込み上げてきたのです。紡がれる物語の言葉を追うたび、ふいに涙がこぼれそうになる夜があります。 ただ活字をなぞっているだけなのに、どうしてこんなにも心が解けていくのでしょう。見えない鎧を着込んで張り詰めていた糸が緩み、忘れかけていた深い呼吸を取り戻していく。そんな穏やかな救いを物語から受け取るたび、今度は得体の知れない怖さに襲われます。「こんなにも完成された静寂の世界を、私の声で壊してしまわないだろうか」読者の頭の中で鳴っている美しい波音を、私の不器用な声が邪魔してしまうのではないか。そんな不安に足がすくみそうになる私をいつも繋ぎ止めてくれるのは、この物語の生みの親である篠原の存在です。おそらく世界中の誰よりも、この作品に対して途方もなく「想いが重い」人。その彼が、他の誰でもない私を栞として選んでくれた。その事実だけが、プレッシャーで震えそうになる私の背筋を、何度でもピンと伸ばしてくれるのです。実際の収録現場は、途方もない愛と、少しの狂気が入り混じるような場所です。 声の温度、わずかな息の抜き方。ひとつの音のズレすら許されない、徹底的に妥協のないテイクの繰り返し。時折逃げ出したくなるほど身を削られる瞬間もあります。が、その息を呑むような熱量の渦中にいるからこそ、私は「栞」という女性の生々しい体温を、確かに掴み取ることができているのだと感じています。この美しくて痛切な物語の、ひとつの小さなピースになれたことを、今は心から誇りに思います。 いつか、息の詰まるような日常で戦う誰かにとって、この声が静かな「避難所」になれますように。そんなささやかな祈りを込めながら、私は今日もマイクの前に立っています。栞 役 / 莉子 もっと見る
【プロデューサーズ・ノート】波音に溶かした不器用な祈り ――『なぎのえき』執筆の舞台裏
2026/07/13 17:02クラウドファンディングの期間中、「設定や裏話として、なぎの物語を少し書いてみませんか?」という温かいお声がけをいただいたのが、すべての始まりでした。ほんの軽い気持ちだったはずなのに、いざ筆を執ると、誰の予想も――そして何より私自身の予想すら超えて、心の奥底に眠っていた「物語」がとめどなく溢れ出して止まらなくなってしまいました。そうして今は、小説版『なぎのえき』として日々言葉を紡ぎ、更新を続ける毎日を送っています。画面に向かって文字を打ち込むたび、背中の痛みや胃の軋みといった生々しい身体の悲鳴を感じます。けれど不思議なことに、その痛みと引き換えに得られるのは、置き去りにしてきた過去の自分をそっと抱きしめ、暗闇からすくい上げるような、静かで神聖な感覚なのです。 経営者として、終わりのない重圧と脳の疲労ですっかりすり減っていた私にとって、この『なぎのえき』を執筆するという行為は、思いがけず極上の癒やしとなり、乾ききった心に再び瑞々しい水を満たしてくれています。この物語を別の形で立ち上がらせる「オーディオシアター」もまた、私にとって希望の結晶です。 選び抜かれた俳優の方々が吹き込んでくださる、決してAIには模倣しきれない微細な息遣いや、魂の震え。そこに、現地で丁寧に録り集めたありのままの自然の音が優しく重なり合います。 それは単なる音声作品ではありません。まるで心に染み入るヒーリングミュージックを作曲するように、セリフの一言、会話の絶妙な「間」や噛み合わせを、一音一音確かめながら編み上げています。途方もない手間と時間をかけたこの作品は、極上のリラックスアイテムとして、私自身が誰よりも完成を心待ちにしている最高のリターンです。ただ、クリエイターとしての私のこうした非効率的なまでの執着は、経営者としての私にとっては、最大の頭痛の種でもあります。 徹底的に「声」と「サウンド」にこだわり抜き、まるで映像作品において、大自然の中に何日も潜んでたった「一瞬の奇跡」を待つようなことを、息をするようにやってしまうからです。当然、会社としてはいつもコストの壁にぶつかり、そのたびに深くため息をつくことになります。それでも、この『なぎのえき』だけは、どうしても妥協できません。 以前のノートにも綴った通り、私にとってこの作品は、あまりにも激しく、切実な思い入れがあるからです。「よくある、お手軽に泣けるコンテンツには絶対にしない」そう心に誓い、すべてを投げ打つような覚悟でこの物語と向き合っています。 世間の波に乗って、もっと分かりやすく「泣ける」とか「エモい」ものに仕立てた方が、きっと賢くて器用なのでしょう。でも、そんな浅はかな誤魔化しをすれば、きっと本物の「なぎ」に呆れられ、ひどく叱られてしまう。彼女のあのまっすぐな瞳を裏切ることなど、私には到底できないのです。 もっと見る





コメント
もっと見る