
リターン商品にもなっているPieceから見えてきた、家族の声
前回は、Hito Rehaが大切にしているVision、「誰もが自らの可能性を広げ多様な日常を愉しめる」という言葉と、その原点にある「イベントではなく、日常に。」という問いについてお話ししました。
では、なぜ私たちは、仙台にシェアハウスをつくろうとしているのでしょうか。
その背景には、これまでHito Rehaが障害のある子どもや、その家族と関わる中で聞いてきた、たくさんの声があります。その一つが、2021年から始めた「Pieceプロジェクト」です。
「本当は、こんなことを思っている」
Pieceを始めたきっかけは、障害のある子どもやその家族と話す中で、「本当は、こんなことを思っている」という声を聞いたことでした。でも、その想いが一歩外の地域や社会に出ると、うまく伝わらない。時には、周囲からの言葉によって誤解されてしまう。そして、理解されないまま、家族自身が孤立してしまう。
2021年のPieceのクラウドファンディングでは、実際に家族から聞いた言葉として、「学校以外に習いごとをさせないなんて、かわいそうね」「通常学級でも問題ないように思えますよ」「周囲の子どもと馴染めないのは、母親の子育てに問題があるんじゃないですか」「元気は良いけど、少しうるさいですね」といった言葉を紹介しました。
けれど、その言葉の背景には、
「集中力が続かなくて、習い事ができない」
「通常学級だと板書が間に合わない」
「発達に遅れがあって、馴染めない」
「声の大きさを控えることができない」
という、それぞれの子どもの事情や、家族の本当の想いがありました。表面に見えている出来事だけでは、その人のことはわからない。だからこそ、「その人は、本当は何を感じているんだろう?」というところまで、少しだけ想像してみることが大切なのだと思います。
「理解してほしい」だけではない
Pieceをつくったとき、私たちが伝えたかったのは、「障害について、もっと理解してください」ということだけではありません。もちろん、理解してもらうことは大切です。でも、それ以前に、「知る機会がない」ということも、大きな壁になっていると感じていました。
障害のある子どもと暮らしたことがない。
障害のある家族と話したことがない。
どんな生活をしているのか知らない。
どんなことに困るのかも、どんなことを楽しんでいるのかも知らない。
だから、悪気がなくても、少しずつすれ違ってしまう。そして、その「すれ違い」が積み重なることで、
「どうせわかってもらえない」
「誰に相談したらいいかわからない」
「外に出るのがしんどい」という孤立につながっていくことがあります。
実際にPieceのプロジェクトでは、家族から「自分たちの想いが伝わっていない」と感じ、支援者を頼ることが難しくなったという声も紹介されています。
もう一つの「働きたい」という声
そして、Pieceにはもう一つ、大切なテーマがあります。それが、「働きたい」という母親たちの声です。障害のある子どもを育てる中では、子どもの体調や生活に合わせて急な対応が必要になったり、預け先や支援サービスが限られていたりすることがあります。
そのため、育児と仕事を両立することが難しく、「働きたくても働けない」という状況に置かれている母親がいました。2021年のPieceプロジェクトでは、当時の調査をもとに、障害児者を育てる母親の就労状況や、仕事を希望していても働けない実態を課題として取り上げています。
ここで大切なのは、「働いていない=働きたくない」ではないということ。働きたいけれど、働けない。そこには、本人の意欲だけではどうにもならない環境や社会との接点の問題があります。Pieceでは、そんな母親たち自身にインタビューや記事制作などに関わってもらい、「育児をしながらでも働ける」という小さな成功体験をつくることにも取り組みました。つまりPieceは、単なる「冊子づくり」ではありませんでした。声を届けること。そして、社会との接点をつくること。その両方を大切にしたプロジェクトでした。
「声なき声」を、どうやって届けるのか
Pieceという名前には、一人ひとりの人生の一部分、一つひとつの声を大切にしたい。そんな想いがあります。完成した冊子には、障害のある子どもを育ててきた母親や父親へのインタビューが掲載されました。そこに書かれているのは、制度や支援サービスの説明だけではありません。子どもが生まれてから、これまでどんなことを感じてきたのか。育児の中で何を考えてきたのか。これから、どんな未来を思い描いているのか。一人ひとりの「暮らし」の話です。
現在のPieceも、障害児者本人だけでなく、保護者、きょうだい、ヤングケアラー、支援者など、さまざまな立場の「声なき声」を届けるメディアへと広がっています。
そして、Meet Up Home Sendaiへ
ここで、今回のシェアハウスにつながります。Pieceを通して私たちが感じてきたことの一つに、「知ること」には、出会いが必要なのではないか。ということがあります。文章を読む。話を聞く。イベントに参加する。それも大切です。
でも、もし、一緒にご飯を食べたら?
同じ家で生活したら?
「おはよう」と声をかけ合ったら?
たまたまリビングで一緒になったら?
そんな何気ない日常の中で出会うことができたら。そこには、これまでとは少し違う関係が生まれるかもしれません。だから私たちは、仙台で、大学生と障害のある人が一緒に暮らすシェアハウスをつくろうとしています。それが、Meet Up Home Sendai~ありのままの自分と出会うシェアハウス~です。
「支援する人」と「支援される人」だけではない関係へ
この家で、大学生が障害のある人を「支援する人」になることを目的としているわけではありません。もちろん、生活の中で助け合うことはあると思います。でも、それだけではありません。
一緒にご飯を食べたり。
くだらない話をしたり。
それぞれ別々の時間を過ごしたり。困ったときには助けてもらったり、助けたり。
時には、何もせず同じ空間にいるだけだったり。そういう一つひとつの積み重ねの中で、「障害のある人」という存在ではなく、目の前にいる“一人の人”と出会っていく。そんな暮らしをつくりたいと思っています。
Pieceで届けようとしてきたのが、「この人は、こんなことを感じている」という声だとしたら、Meet Up Home Sendaiでつくりたいのは、「この人と、こんな毎日を過ごしている」という関係なのかもしれません。
Pieceから、Meet Up Home Sendaiへ
2021年、私たちはPieceを通して、「本当は伝えたかったけれど、なかなか伝えられなかった想い」を届けようとしました。
そして今、Meet Up Home Sendaiでは、その「声を届ける」という活動から、「実際に出会い、一緒に暮らす」という挑戦へ進もうとしています。
もちろん、シェアハウスをつくれば、すべての課題が解決するわけではありません。
でも、知らなかった人と出会う。話してみる。一緒に過ごしてみる。相手のことを少し知る。そして、自分自身のことも少し知る。そんな小さな「出会い」が、日常の中に増えていくこと。それが、Hito RehaのVisionである「誰もが自らの可能性を広げ多様な日常を愉しめる」という未来につながっていくのではないかと考えています。
最後にPieceをつくったとき、私たちは、「一人でも多くの人に、この声を届けたい」と思っていました。今も、その想いは変わっていません。
ただ、今回のMeet Up Home Sendaiでは、そこからもう一歩進んで、「届けるだけではなく、出会える場所をつくりたい。」そう考えています。
「障害について知っている人」を増やすだけではなく、障害のある人と、実際に一緒に暮らしたことがある人を増やす。そして、その中から、「また一緒に何かしたい」「今度は自分から関わってみよう」そんな気持ちが生まれていく。私たちは、そんな日常を少しずつつくっていきたいと思っています。
次回は、今回のクラウドファンディングでご支援いただいた方々とも一緒につくっていく、「交流会」についてご紹介します。このシェアハウスは、住む人だけでつくるものではありません。応援してくださる人、関わってくださる人、そしてこれから出会う人。そんな「Meet Up」の輪も、少しずつ広げていきたいと思っています。



