昨年の秋、私は香港にいました。
毎年開かれるエレクトロニクスフェア。世界中のメーカーが小さなブースを並べる、あの騒がしい会場です。
目当ての商談を終え、帰り際に通路を歩いていたときでした。ある小さなブースの机の上に、一台のスタンドが置かれていました。銀色の、思ったより小さな円柱です。
説明を聞く前に、私は自分のタブレットをその上に載せました。
そこから先のことを、いまでもよく覚えています。
アームが静かに動き、両側から私のiPadを迎えにきました。挟む位置を探す必要も、角度を直す必要もありませんでした。時間にして、約1秒。
会場の喧騒の中で、私は手を離したまま、しばらく画面を見ていました。
驚いたのは「よくできている」ではなく、「何もしなくてよかった」という一点でした。
道具に感心したのではありません。自分がこれまで無意識に払っていた手間が、そこで初めて目に見えるかたちになったのです。
挟む位置を考える。角度を直す。指先で確かめる。その一連の動作を、私は一度もしませんでした。
置いた。それだけでした。
ではあの約1秒のあいだ、この小さな筒の中では何が起きていたのか。次回は、その内側を開いてみます。



