久しぶりに飯舘村の長谷川さんの自宅に泊めていただいた。
2017年春の避難解除に向けて、村内宿泊ができるようになったからだ。
長谷川家のある飯舘村前田の空間線量は、自然減とわずかな除染の効果で毎時0.8~1マイクロシーベルトにまで下がった。
これは年間5ミリシーベルトの外部被ばく量に値する。
長谷川花子さんが剥いてくれた福島市産の熟れた白桃をいただいたが、白桃ひとつを食べると、0.3ベクレルほどの内部被ばくになる。
野菜も1ベクレルを下回る物が多いが(出荷制限は100ベクレル/キロ)、飯舘産の野生のきのこは、1万ベクレル/kgを軽く超えてしまう。
村で生活するのは、法で定められた年間被ばく量1ミリシーベルトの5倍にあたる年間5ミリシーベルトに加え、放射性物質を含む食物を口にした分だけ、内部被ばく量も加算される。
放射性物質の多くは尿で排出されるというが、取り込んだ分は体内でも放射線を出し続ける。
生きている限り、被ばくし続けるのだ。
そのことを熟知した上で、長谷川さんは村に帰るという。
非常に重い選択だと思う。
窓を開けると、汚染土を入れた山積みの黒いフレコンが、美しかった前田の風景を覆う。行き場のない汚染土の量は増える一方だ。
「ずっとあの黒い山を眺めて暮らさなきゃいけないのよ」
花子さんは二階の部屋の障子を、ピシャリと閉めた。
その時に撮影した、障子を閉める花子さんの後ろ姿が、今回の映画「サマショール」のメインビジュアルである。
ps.チラシ下段に使用した写真は、飯舘村飯樋の墓地で、土葬されたご先祖さまの土盛りが残っている。
野田雅也(共同監督)