2020年3月13日の金曜日、23時。恵比寿ガーデンプレイスに畑を作るというアーバンファーマーズクラブのイベントに参加した帰路、油井が運転するハイエースの中は、クラブミュージックのビートと、土屋、油井、小林の3人の議論する声が響き渡っていた。
東京都内から1時間圏内ということは信じられない程、山と水に囲まれていて、多彩な人たちが集う藤野という町の価値を、食や農業を通して世の中にもっと伝えられるのではないだろうかと。そんな議論がきっかけとなり、後日、五十嵐、土屋、油井、小林の4人で飲むことになった。
「1週間後の土曜、夜8時、土屋商店倉庫にて。」
土屋商店の倉庫での決起酒会によって、THE BIO ISSUEの活動の幕は切って落とされた。
横開きのガラス扉を開けると、すぐそこには藤野在住のアーティスト元朝さんが作った棚が置かれている。元朝さんが作った棚を見ると、小学生の頃、恐竜の化石をイメージした木製のモデルを夢中になって組み立てたことを思い出してワクワクする。そんな気持ちを掻き立てられるだけでなく、機能性も抜群で、組み立てと解体が簡単。車で持ち運びできる棚は、ファーマーズマーケットで野菜を並べる棚に最適だ。
そんな棚の中段には、売物のりんごジュースや藤野のブルワリーJazz Brewing Fujinoが作る地ビールAMP UP IPA、油井のロマネスコ、傘松ファームの卵。棚の上部には、なぜだか地球儀や、エイリアンがバイクに乗る謎のフィギュアが置かれ、一見するとバラバラに見えて絶妙なバランスを保った棚ひとつに、土屋の人柄が現れている。
土屋の自宅の目の前にある倉庫は、数年前までカフェが経営されていた場所。今年に入って、その場所を土屋は借り始めた。まだ計画の概要がベールに包まれている『土屋商店2.0』プロジェクトを遂行するための秘密基地として。そんな出来立てホヤホヤの秘密基地に男4人が集結した。
「プシュっ、かんぱーい。」
缶ビール片手に、決起酒会はスタートした。五十嵐が持ってきたオープンソースソース(BIO食文化を作ることを目的としてレシピを無償公開するドレッシング。「ソフトウェアを自由に利用、改良することを目的に無償公開されたソースコード」という意味合いのオープンソースというIT用語を掛け合わせた)と名付けられたドレッシングをつけたBIO野菜を酒の肴にして。
そして、五十嵐が語り始めた。
「僕は料理人だから食を通してこの町に貢献したい。美味しいのは当たり前、美味しさのレベルもどんどん上がってきてるし、どこでも美味しいものが買える時代。ただ、美味しさだけが追求されている代わりに、失っているものもたくさんあるんですよね。誰が作ったのかもよくわからない原材料や添加物が食べ物に使われ、食文化がどんどん失われていっている。本当にこのままで良いですかね?こんな風にして文化が失われていったら、僕たちの子どもの世代の頃にはどうなってるんですかね?僕、最近農家さんのお母さんが作る手料理いただくことが多いんですけど、地元で採れた野菜を使って、親世代から受け継がれてきたお母さんの味。めっちゃ美味しいんですよ。例えば、鈴木さんちの肉じゃがとか。藤野では、食文化が失われていく世の中の流れを食い止めることができるし、新たに食文化をつくっていくことってできるんじゃないでしょうかね。」
そこに共感しながら、油井も口を開いた。
「例えばですよ、なーんつったら良いかなぁ。部活ですよ、部活。部活みたいなノリでやれたら楽しそうっすね。この活動がきっかけでみんなが食に興味持って、集まって漬物作ったり。生産者と消費者が繋がって、食べた人たちから、旨いって言われたら僕たちも嬉しいっす。」
「そういうの藤野全体でできたら楽しそうだよね。色んな部活イベントも立ち上げられられそうだし」と土屋。
「いかに人にわかりやすく伝えることができるかを仕事で常に考えてるので、どうやったら藤野の魅力や価値が伝わるか、どうやったらこの価値をもっと引き出せるか考えて、僕、発信しますね」と小林。
今ある食文化を受け継ぎながら、BIO食文化を新たに作り上げていくことを議題に、バックグラウンドが異なる私たち4人の歯車が噛み合った瞬間だった。夜な夜な4人で語り合い、他愛もない笑い話から、真剣な話まで。熱量はどんどんと上がっていき、ふと気づくと深夜2時を回っていた。