2014/04/24 00:17
この作品は大好きで、何度も見ている。
オープニングから、川の流れ。ソラリスは、海だ。回想の故郷では、家の中でも水がしたたり落ちている。この監督は、理屈ではなく水があると落ち着くのだろう。
潜在意識が物質化するという原作者スタニスラフ・レムのアイディアは素晴らしい。特に、自分が惹かれるのは、死んだ妻が現れるというモチーフだ。ヒッチコックの「めまい」にも似た男の哀しい性がたまらない。
この作品は"映画"についての物語だ、という批評を読んだが、面白いと思った。ヒッチコックは、「裏窓」で、映画とは覗きだ、と描いていたが、ソラリスのスクリーンに映し出すのは、自分の心で、フィクションを現実といつのまにか混同している観客は、主人公というわけだ。
後年、スティーブン・ソダーバーグが、ジョージ・クルーニー主演でリメイクしているが、確かに主演男優は、ジョージ・クルーニーに似ている。
"罪悪感"がテーマだと思う。タルコフスキーは、SFをやりたいわけではなく、宇宙空間という特殊な場所で、人間心理を描き尽くしたかったのだと思う。
黒澤明監督は、この映画の撮影中モス・フィルムの招待で、偶然ソ連にいたらしい。
「(前略)私は、この作品を、夜遅く、モスクワの試写室で見たのだが、見ているうちに、地球へ早く帰りたい、という気持ちで胸苦しくなった。科学の進歩は、人間を一体どこへ連れて行ってしまうのだろう。その、空恐ろしい気持ちをこの映画は見事に掴んで見せている。(中略)タルコフスキーは難解だという人が多いが、私はそうは思わない。タルコフスキーの感性が並はずれて鋭いだけだ。(後略)」 — 黒澤明・1977年5月13日朝日新聞夕刊より
観る度に、違う発見がある、間違いなく名作だ。