「金沢の街に映える」レンタル着物とは?
今回、色監修をさせていただいているナツメミヤビの上濃雅子です。きもの講師、着付け師であり、きものカラーコーディネーター、きものパーソナルカラーコンサルタントとして活動しています。
心結さんから「加賀友禅の街歩きにふさわしい着物を作りたい」とお話をいただいたとき、頭にぱあっとイメージが広がりました。
私も若いお嬢さん方の派手で鮮やかなレンタル着物が街にあふれているのを日々見ています。着物の一歩として旅先の思い出として、笑顔振りまくその姿はほほえましくもあり、普段に着物に親しんでいる身としては、あの色彩、素材は自分はちょっと着られないな・・・と思っていました。
そんな彼女たちが二回目の金沢に来たとき、母娘旅でお母さんにも一緒に着物を着てほしいと思ったとき、妙齢の大人の女性が金沢の街を着物で歩きたいと思ったとき・・・どんな提案ができるか。
日本海側独特のスモーキーな空気感、渋い金沢の街の色に、しっとりと調和しつつ、それでいて地味に沈まない、遠目にも近くでも写真映えする、旅先での昂揚感も味わえて華やかさも忘れない、そんな着物を着てほしいと思いました。さらに言えば、地元の方もこの地に伝わる「加賀友禅」をもう少し気軽に着てみることができたならとも思いました。ちょっと欲張りですね(笑)。
街歩きにもパーティにも。「付下げ(つけさげ)」という選択
今回企画した着物のタイプはいわゆる「付け下げ(つけさげ)」というものです。
上前(裾の方)と、肩付近だけに柄が飛んでいて、他は無地でさっぱりとしています。
「小紋(こもん)」(洋服でいうと、ランチやデートに着るおしゃれなワンピース)よりはおめかし度が高く、「訪問着(ほうもんぎ)」(洋服でいうと、ドレスアップ用のエレガントなシルクのドレス)よりもフォーマル度は低めで気軽ですが、ドレッシーな着物です。
小紋と同じく名古屋帯を合わせて街歩きやお食事、観劇へ。
袋帯を締めればちょっとしたパーティにも行けてしまえる重宝な着物で、再注目されています。
実は、付下げの前に最初に思い浮かんだのは「散歩着(さんぽぎ)」という着物でした。
「散歩着」とは、小紋(全体に同じ柄が繰り返しある着物)の上前(うわまえ:前に来る裾部分)に、刺繍や大き目の柄を大胆に配したもので、大正時代から昭和の初期にかけて、良家の奥様やお嬢様がお出かけや観劇などに着たおしゃれ着のことです。付下げの前身とも言われていますが、とても数が少ないのでご存知の方も少ないかもしれませんが、着用シーンはまさに今回の企画コンセプトとドンピシャです。
散歩着を頭に浮かべつつも、今回は技術面、コスト面も考え、全体には柄のない「付け下げ」にすることにしました。
金沢や石川に縁のあるモチーフを入れたら、きっと楽しんでいただける!
全体に柄がなくても寂しくならないよう、裾柄は大胆にパッと目を引くように。
足元を上から自撮りしたときに加賀友禅がばっちり写って素敵だね!
肩に柄がポンとあると着座の時に華やかに見えるからいいね。自撮りしたときに柄も一緒に写る!
心結さん、作家 上坂さんの意見も一致していきました。
地紋のある生地でありそうでなかった加賀友禅に
加賀友禅では繊細な糸目(いとめ)を引くためと、上品さも出るため、地紋のない「変わり一越ちりめん」を使うことが多いのですが、今回はフォーマル度を押さえるために敢えて地紋のあるものを選んでみました。作家さんは大変描きにくいので普通は嫌がられます、普通は(笑)。
ですが作家の上坂さんは「面白い!こんな加賀友禅はこれまでないぞ!こんなの一回作ってみたかった~!」と腕まくりして引き受けてくださいました。ということで、思いがけず、これまでになかった加賀友禅の着物を見ることができそうです。(実際、コンセプトに合いそうな付け下げの加賀友禅をリサイクルでも探したのですが「そんなの相当な趣味人しか作らない!」と業界の方々にも言われ、見つけることはできませんでした。)
ありそうでなかった加賀友禅の着物。熱意と挑戦がぶつかり合った偶然の産物です。出来上がりが、本当に楽しみです。
「人に映える」着物とは?
「尊い技には美しい色が宿る」
着物の色を学んだ私の師匠の言葉で大好きで大切にしている言葉です。
加賀友禅の優美な色彩が引き立つのは訪問着によくある淡いパステル調の地色で、格調高く、エレガントで、本当に美しく素晴らしいと思います。淡色の地色は、人の顔色を色白に見せる効果があり、品よく控えめな印象に仕上がります。フォーマルシーンではそれが見事に目的を果たしています。
ですが、今回のレンタル着物は「自分が主役」のシーンでも着てほしい着物です。自分を生き生きと、健康的に、若々しく、最高に輝かせる色で、旅先での高揚感を満たしてくれる色がいい。
結婚式に招かれた脇役のTPOで着る着物とはまた狙う印象、目的が違います。
そこで、「人に映える色と柄」を「パーソナルカラー」の考え方で方向付けすることにしました。
「パーソナルカラー」とは、その人が持つ生まれ持った色、肌・髪・瞳・頬・唇などと調和した色、似合う色のことで、色だけではなく、素材感や柄(デザイン)も関連します。
例えていうなら、春の花のように温かで軽い明るい色が似合う人、夏の暑さを吹き飛ばしてくれる爽やかな色が似合う人、実りの秋を思わせる熟れた深みのある色が似合う人、そして冬の雪の白と木々の黒、そこにコントラストを効かせた色合いが似合う人・・・そしてそのどちらもが似合う人や中間の人も。人の肌色、髪色、瞳の色、そして質感、形は様々ですが、ある程度はタイプに分けて系統だてることができます。
金沢の街の色を背景に、着る人自身も映えるようにすり合わせていくと、自然と作るべき色、柄、素材感が見えてきました。
着物の色柄は、本来季節や格、意味を持つものが多いです。それが日本の文化であり、着物独特の美しさに通じます。それも踏まえつつ、今回は客観的に街と人を見た時の色彩調和も考えました。地元の方から海外の方も金沢の街で着物姿を見た時に、着物だけが素敵なのではなく、着ているその人が引き立って素敵に見える、着てこそ着物というわけです。
初めての体験は化繊の着物でもいいと思います。
次に本物に触れたとき、その違いが分かるからです。
金沢の素晴らしい伝統工芸加賀友禅を通じて、着る人も、それを見る人にも笑顔が広がるこのプロジェクトは5着から、小さくて大きなスタートを切ります。
株式会社心結 越田社長のぶれない思いと熱意。
作家 上坂幸栄さんの絵に対する子どものようにまっすぐな姿勢。
ものづくりは刺激的で楽しく、私も笑顔いっぱいで携わらせていただいています。
ご支援いただくみなさまと共に、この笑顔の連鎖を広げていけたら嬉しいです。