2020/09/13 21:00

9月9日にはじめた本プロジェクト、3日にして目標の10%超えを達成いたしました。いち早くご支援いただいた皆様、誠にありがとうございます。そして、こちらをご覧いただいている皆様に心より感謝申し上げます。

これからの募集期間中、本文で伝えきれなかった映画『宮城野』にまつわる様々なエピソードを、この場を借りてお伝えしていきたいと思います。


まずは映画『宮城野』になくてはならない存在、片岡愛之助さんについて深堀りしていきましょう。

歌舞伎俳優としてはもちろん、国民的テレビドラマ『半沢直樹』の黒崎検査官役などを通じ、名実ともに押しも押されぬ人気者となった愛之助さん。2007年の撮影当時、実はまだ映像作品への出演は数えるほどしかありませんでした。そんな愛之助さんを主演の一人に抜擢した山﨑監督に、振り返ってもらいました。

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Q.片岡愛之助さん起用の経緯は?

山﨑達璽監督(以下山﨑): 時代劇を撮る時は歌舞伎俳優を起用したいという夢がありました。映画化にあたって、矢太郎という役柄を膨らませて、宮城野と並ぶもう一人の主役に位置付けようと思ったとき、いよいよ実現できるかなと興奮したのを憶えています。

自分と同年代の人がいいなと思い、中村獅童さんや市川亀治郎(現・猿之助)さん、そして愛之助さんなどの名が挙がりました。

その後、愛之助さんに候補が絞られていったのですが、まずとても惹かれたのは、時折見せる「涼しい眼」です。舞台を観てると、たまに気付きます。あの眼はどこかに寂しさと怖さがあるんです。

そして、映像を観ていたからです。愛之助さんを最初に映像に起用したのは、映画ファンなら知らない人はいない映画解説者の水野晴郎さんなんです。彼がマイク・ミズノ名義で監督していた『シベリア超特急5』(05)に、愛之助さんが主演しています。

水野晴郎さんは大の歌舞伎好きでした。そして、私のデビュー作『夢二人形』(98)をいち早く評価してくださったのも水野さんなのです。歌舞伎が取り持つなんとも不思議なご縁を感じます。

もう一つはNHKの正月時代劇『新選組!! 土方歳三 最期の一日』(06)です。三谷幸喜さん脚本で人気を博した大河ドラマ『新撰組!』の続編とされる作品で、愛之助さんは榎本武揚の役を好演していたんですね。まさにあの「涼しい眼」で。


Q.愛之助さんの映画出演への反応は?

山﨑:オファーのあと、すぐにやりたいとの返事をもらったと思います。

ことのき撮影が2007年11月と決まっていたのですが、同月に愛之助さんの国立劇場での歌舞伎出演が決まったというので焦りました。

坂田藤十郎さんによる『摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)』でした。藤十郎さんは上方俳優で固めたいとおっしゃり、お気に入りの愛之助さんにも白羽の矢が立ったんですね。

すると愛之助さんから「みなさんにご迷惑が掛かるのは承知だが、自分は徹夜でも何でもするから出たい」と、熱い電話がありました。もともとオールセット(すべてスタジオでの撮影)のプランがあったので、昼夜逆転撮影を決断したんです。

Q.昼夜逆転撮影とは?

山﨑:国立劇場での愛之助さんの出番は二幕目(12時45分~)と大詰め(15時30分~)でした。終演後に着替え、挨拶を済ませてから、大泉の東映撮影所に向かうと18時くらいに到着します。

私服のまま段取りをやってから、拵えをして、愛之助さんの撮影がはじまるのが20時頃から、たいてい明け方まででした。

ホテルに帰るものの、寝ると起きられなくなりそうなので、そのままボーッと過ごして、二幕目の舞台に出て、最初の出番のあと2時間ほど楽屋で仮眠を取る。そんな生活だったとか。

矢太郎は隈ができてて不健康そうな役どころですが、それはメイクではなくて、そんな生活だったから。でも一度として疲れたとかしんどいとかを口にしたことはありません。

いつも朗らかで、國村隼さんと関西弁で盛り上がったり、撮影現場を明るい雰囲気にしてくれてましたね。そしてその日の撮影が終わると全スタッフに「お疲れ様でした」と挨拶をして帰っていく……誰の目から見ても人格者でした。

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こうして愛之助さんシフトでのぞんだ撮影現場。矢太郎役に全力を注いでくださった愛之助さんと、信頼関係が築かれていったといいます。気になる撮影にまつわるエピソードは、また改めて。

引き続き応援のほど、よろしくお願いいたします。