この映画『宮城野』の企画が始まったのは、2004年です。29歳の夏でした。
毬谷友子さんが原作となる舞台版に初役で挑んだときです。
楽屋でお目にかかった時に「これ、映画にしましょうよ」と声を掛けられ、それが始まりです。
クランクインしたのは2007年11月。
「あれ? 3年間も何をしてたの」と聞かれそうですが……他でもありません、お金を集めていました。
脚本を書いたりキャスティングをすることもありますが、先立つものはお金です。
海のものとも山のものともつかぬ新人監督の時代劇なんて、そう簡単にお金は集まりません。
思い立ってから3年、多くの人たちの協力を得てなんとか準備を整え、撮影を敢行。
2008年3月、なんとか完成に漕ぎ着けることができました。
ここまでの4年近くずっと大変な日々でしたが、ここからもまだまだ苦難が続きます。
今度は……公開が決まらないという壁です。
「作品の内容が暗く、華やかさがない」「原作が人気漫画やベストセラー小説ではない」「アート性が強い上に時代劇」「ストーリーが複雑で上映時間が長い」……
理由として挙げられたものは、まさに昨今の映画業界のトレンドを物語っていると思います。
そして、これらが本作の“魅力”でもあるというジレンマにも苦しみました。
そのまま時が過ぎていきました。
結局、この時点ではビジネスとしては失敗でした。
資本主義ではそれがすべてと言われればそれまでです。
でも、どうしても納得できない気持ちがありました。
青臭い思い出の長編デビュー作ではなく、100年後も色褪せることのない映画を目指したし、実際、ベテランのスタッフと豪華俳優陣の力を借りてそれができたとの信念は捨てきれないのです。
それは、国内外の映画祭や自主上映の場で語りかけたお客さんからの温かい反応に、確かな手応えを得ていたからです。
またまた時は流れて、2016年に待望のBlu-ray&DVD化が叶いました。
「どこで見られるの?」と聞かれたときに、「近所のTSUTAYAでレンタルできます」と答えられるようになったのです。
そして昨年末、とあるご縁で、Amazonプライムなどでのデジタル配信がはじまりました。
これがまさかの大逆転!
びっくりするぐらいの視聴回数をたたき出したのです。
守秘義務があるので詳しくは言えませんが……印税がっぽり(笑)とはいきませんが、今までで一番大きなお金が振り込まれました。
その証拠に、SNS上では非常に好意的な反応がどんどん上がっていきました。
もちろんアンチもありますが、スルーされてないのは『気にはなっている』ということにほかなりません。
現代の日本人にとっては「新感覚の時代劇」だと再発見・再認識されたのだと思います。
そして、コロナ禍の今。
2020年、46歳になりました。(明日9月18日が誕生日です)
企画が始まった頃はまだ29歳でしたね(苦笑)
これから世界のカタチが変わるのは誰の目にも明らかです。
価値観がガラリと変われば、マイノリティがマジョリティになるかもしれません。
自分をどこまでも愚直に信ずるならば、『宮城野』が改めて評価される日は来るはずです。
IT技術の進化で、映画のデジタル配信は瞬く間に容易になり、「配信で映画を観ること」は世界的に市民権を得ました。
ここまで来ると、海外進出をやらない手はないんです。
信念はもはや執念になっていますが、ニューノーマルに向かって『宮城野』の再チャレンジをしようと決心しました。
この苦難の日々の中で、鬼籍に入られてしまった人たち、ずっと応援してくれている人たち、そして、この再チャレンジにつきあってやると手を挙げてくれた人たち、みなさんの思いに心からの感謝をしつつ突き進みます!
映画『宮城野』監督 山﨑達璽