2021/1/11
遠州が生んだ技術者をテーマにした冊子を数多く手掛ける「二宮尊徳の会」(神奈川県)代表の地福進一さん(67)=同県藤沢市=が、日本統治時代の台湾に地下ダムを造った袋井市出身の農業土木技師、鳥居信平(1883~1946年)の著述集を新たに編集した。クラウドファンディング(CF)で資金を募って出版し、国内や台湾の大学、公立図書館へ贈る計画。地福さんは「遠州や台湾など鳥居のゆかりの地の方々に読んでほしい」と望んでいる。
2017年に同会が発行した本「八田與一と鳥居信平―台湾にダムをつくった日本人技師」から鳥居に関連した部分を独立させ、新資料を加えた。「年代順に規則正しく資料を並べ、鳥居本人の言葉で真実を明らかにさせるようにした」(地福さん)のが特徴だ。
鳥居に関しては、台湾に渡る前の徳島県技師の頃の足跡が判明していなかった。地福さんは19年夏に同県を訪ね、図書館に残されていた地元新聞社のマイクロフィルムで当時の鳥居の動向を確認。耕地整理の現地調査や実地設計に携わっていたことが分かった。
また、同県内の関係者の協力を得て、鳥居が1913年9月の徳島県農会報に寄せた論考「旱魃(かんばつ)と水源」なども発見した。地下ダム構想はこの中にうかがえ、地福さんは「台湾に行ってから急に出てきたものでなく、徳島時代に原点があった」とみる。
出版は計800冊を目指す。鳥居の研究をしている台湾の大学教授らに200冊、袋井市や森町の関係者に100冊、徳島県に50冊を届け、残りはCFの賛同者への返礼品とする。地福さんは「鳥居の業績が広く伝わり、人類のため、社会のためという高い志を受け継ぐ技術者が育ってほしい」と期待する。
CFの詳細は運営サイト「CAMPFIRE」内の「台湾に地下ダムをつくった日本人技師鳥居信平の著述集を出版したい」へ。期間は2月末まで。
<メモ>鳥居信平(とりい・のぶへい) 周智郡上山梨村(現在の袋井市上山梨)生まれ。東京帝国大で農業土木を学び、卒業後は農商務省に勤務。1911年に徳島県農業技師となり、14年に「台湾製糖」へ転職した。23年、かんがい対策として台湾南部の屏東(へいとう)県に地下ダム「二峰圳(にほうしゅう)」を建設した。自然環境に配慮された設計で、現在も地域の人々の生活に恩恵をもたらしている。この功績を縁に、袋井市と屏東県の交流が続いている。