3月8日は国際女性デー。「性教育への最初の1歩を届ける」を理念にしている一般社団法人ソウレッジが「国際女性デーに考える『若者の困窮と性の課題』」と題し、2日間のオンラインイベントを開催しました。2日目のテーマは『「困窮する若者」支援の現場から見る、緊急避妊薬の重要性』。若者支援における「性」の課題を、当事者と一緒に考えていきます。
ゲスト一覧:
[登壇者(順不同)]
・今井紀明(認定NPO法人D×P)
・鶴田七瀬(一般社団法人ソウレッジ)
・希咲 未來(虐待を受けて夜の街を彷徨って生きていた22歳)
鶴田七瀬(以下、つるたま):今日は国際女性デーです。トランスジェンダー女性やノンバイナリーなど全ての女性をエンパワーメントする日で、ソウレッジも様々な境遇の女性をエンパワーメントしたいと思い、このイベントを企画しました。ソウレッジは、若者支援や若者の性に関する課題にフォーカスを当てている団体です。若者の性の課題には、経済的困窮や、家庭内での生きづらさ、暴力などが密接に結びついているということを、これまでの活動の中で感じてきました。今日は若者支援の専門家と当事者の方をお招きして、今後私たちはどのようにその課題と向き合っていけばよいのかを、一緒に考えたいと思っております。よろしくお願いします。
それでは登壇者のお2人の紹介にうつりたいと思います。
2020年に1回目の緊急事態宣言が発出された頃から、経済困窮の相談が非常に増えた
今井紀明さん(以下、今井さん):認定NPO法人D×P代表の今井と申します。私たちは10代の孤立を解決するというテーマで、ライン相談「ユキサキチャット」を運営しています。「ユキサキチャット」は4年前の2018年から運営を開始したのですが、当初は不登校や中退の子どもたちの相談ということで、進学就職相談等にのってきました。2020年に1回目の緊急事態宣言が発出された頃から、親に頼れず一人暮らしをしていて、自分で学費を払っている大学生や高校生から、「所持金が数千円しかない。アルバイトがなくなってしまって、どうすればいいですか?」というような経済困窮の相談が急激に増加したので、食料支援や現金給付支援を始めました。
「ユキサキチャット」の登録者数は、2020年の4月には700人だったのが、今は7,700人と約11倍、この2年弱で急増しているので、本当に多くのニーズがあるなと思っています。
オンラインでそういった相談がきていたので、進学就職支援以外にも、食料支援や現金給付支援を行っています。現金給付は最大11万円で、月1万円の給付と食料支援とを組み合わせて就職までサポートしています。また、様々な複雑な課題を抱えている方が多いので、安心できる環境づくりのための公的支援や債権整理などをオンライン支援で行っています。
実際に、食料支援や現金給付支援、就職までサポートして、高校卒業というところまできた事例があります。現金給付支援に関しては現在3,000万を超えているという状況です。食料支援は毎週約1,500食から3,000食を、大阪の事務所から全国に配送していて、すでに45,000食を超えており、本当に凄まじい相談数になっています。
このような形で現在支援をしているのですが、今日のテーマの話でいうと、実は「ユキサキチャット」に寄せられる相談の7割以上が若年女性からです。やはりコロナの状況下で、虐待や性暴力、また家出をしてSNSで出会った男性の家に泊まっていて性被害にあったという相談もあり、実際に緊急避妊薬をもらいにクリニックに付き添ったという事例もありました。そういった現場の話も、今日はできればと思っています。よろしくお願いします。
つるたま:よろしくお願いします。D×Pの特徴は女性の方が多いんですね。他の団体だと男性の割合の方が高かったりしますよね。
今井さん:そうですね。15歳から25歳の方に食料支援、現金給付支援をしていますが、7割以上は若年女性なので、食料支援と同時に生理用品や生活用品なども送っています。
つるたま:性知識の本も送られてましたよね。
今井さん:助産師YouTuberのシオリーヌさんの「CHOICE」という本を送りました。やはりニーズがとても高いので、できる限りそういった知識の本も送るようにしています。
つるたま:とても良いですよね。性知識って、やっぱりアウトリーチ(※)をしてもらわないと、なかなか正しい情報にたどり着けなかったりするので、すごくありがたいですね。
※アウトリーチ…学習意欲をもっていない人たちに学習の機会を与え、学習に対する要求や行動を誘発しようとする活動。
今井さん:ただ気をつけなければいけないのが、なかなか男性だと話しにくいこともあるので、その場合は女性の相談員が話を聞くなど、そういった配慮は徹底してやっています。
つるたま:ありがとうございます。では、未來さんも自己紹介お願いします。
援デリという場でしか生きられないようにしているのは社会のはずなのに、捕まると「あなたのせいだよ」と言われてしまう。
希咲未來 (きさらぎ みらい 以下、希咲さん):私は22歳の顔出しを一切しないアクティビストと名乗って活動しています。いじめ、親からの暴力、支援者からの性被害、リストカット、家出、援デリという管理買収の場に取り込まれた時もありました。なおかつ社会的養護という場所にもいました。
まず児童虐待は、その行為内容によって4つに分けられています。 身体的虐待は殴る蹴るといった暴行を加えること。性的虐待は子どもに性的行為をしたり、させたりすること。ネグレクトは、病院に連れて行かないといった、保護者としての監護を著しく怠ること。心理的虐待というのは、著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。配偶者などに対するDVを目撃することも含まれます。私はこれらすべての虐待を経験した当事者でもあります。
また、社会的養護というのは、親元で暮らすことが難しい子どもを国の公的機関で保護、養育し、その家庭の支援を行うことを意味しています。現在、日本では45,000人の子どもたちが社会的養護にいると言われています。社会的養護施設は大きく2つに分けられます。一つは「家庭養護」で、里親家庭や養子縁組家庭がその役割を担っています。里親というのは、自分の家庭に子どもを受け入れる制度です。 もう一つは「施設養護」で6種類の施設があります。乳児院は0歳から1歳未満の赤ちゃんが暮らす施設です。児童養護施設は2歳から18歳までの子どもが暮らす施設で、養護施設と聞いたときに多くの人が思い浮かべるのが、この児童養護施設だと思います。児童心理治療施設は心理的問題を抱え、医療的観点から生活支援を基盤とした心理治療を行います。私がいた児童自立支援施設は、非行問題を中心に対応するとされています。しかしその背景には、性的搾取に遭っていたり、家に居場所がなくて、家出をしたら保護されたりということがあります。母子生活支援施設というのは、お母さんと一緒に入れる施設です。自立援助ホームは児童福祉における最後の砦と言われていて、15歳から20歳、状況によっては22歳までの子どもが自分で契約して入れる施設で、私も少しの間ここに入っていました。
援デリについてはこの後詳しくお話しますが、簡単に言えば性的搾取です。援助交際との違いを説明すると、援助交際は個人対個人で行われますが、この援デリというのは間に斡旋する人がいます。援デリは未成年でも働ける、身分証やスマホがなくても働けてしまうという実態があるため、家に居場所がなくて家出をした未成年の女の子たちが多くいます。援デリという場でしか生きられないようにしているのは社会のはずなのに、ここで捕まると「あなたのせいだよ」と言われてしまう。この子たちの話を聞いていると、搾取している側が緊急避妊薬を渡してきて、「これがあればもうちょっとできるよね」というようなことが実際に起きていて、私は強い危機意識を持っています。現在の活動は、毎日新聞やNHK、西日本新聞さんとかで取り上げてもらったり、こども庁(こども家庭庁)でヒアリングを受けて各地での講演活動を行ったりしています。よろしくお願いします。
つるたま:ありがとうございます。前回のイベントのテーマが「性教育は、私たちの未来をどう変えるのか」だったのですが、その時に、搾取する側が薬を悪用していて、それによって値段が高く設定されていたり、病院に行って処方箋をもらわないと買えなかったり、非常にアクセスが悪い状態だという話が出て、未來さんも実際にそのような現場を見てきたからこそ、思うことがあるのかなと感じました。
希咲さん:そういうことです。
つるたま:実際にそういう場で渡されるのは正規の薬ですか?
希咲さん: 海外のものを個人輸入しているので、本物かどうか分からないようなものが出回っているなという印象があります。
つるたま:でもそれを無料でくれるから飲むしかないという感じですか?
希咲さん: そうですね。「これを飲めば妊娠しないんだから、コンドームしなくてもいいよね。お金もあげるから」と搾取する側から言われてある意味脅迫のように使われているかなと思います。
つるたま:なるほど。未來さんは、緊急避妊薬へのアクセスを良くすることの必要性を強く感じてくれていると思うんですけど、そういう現場を見てきたからという以外にも理由はありますか?
希咲さん: 性的搾取の場にいる子たちだけじゃなくて、高校生で「緊急避妊薬がほしいけどお金がなくて買えない、どうしたらいいですか?」という連絡をくれた子もいて、ソウレッジのクラファンのような仕組みがあったらよかったなとすごく思って応援しています。
つるたま:そういう子たちはどういう希望を持って連絡をくれたと思いますか?
希咲さん: 「何か支援やサポートなど知らないですか?どうしたらもらえますか?」という感じだと思います。
共通点はほとんどが親に頼れていないところ
つるたま:今井さん、こういった内容の相談はD×Pではどれぐらいあるんですか?
今井さん:数としてはそこまで多いわけではないです。それでも去年は10件近くありました。高校生やそれ以外の10代後半の方から、妊娠してしまってという相談が来たりしています。実際に高校生で緊急避妊薬が必要なんだけど「金額が高すぎて買えない、産婦人科に行けない」ということで、私たちからクリニックに連絡して、私たちが支払いをするから、診察してもらえるように連絡したというケースはありましたね。
つるたま:その場合付き添いはあるのですか?
今井さん:このケースでは、付き添いはあったと思います。日々こういった相談はありますが、「妊娠してしまった」や「心配で」という相談を含めたら、数的にはもっと多いと思います。中でも10代後半、高校生ぐらいから19歳までの方からの相談が、「ユキサキチャット」では多いですね。
つるたま:D×Pが支援している中には、シングルマザーの方も結構多いんですよね?
今井さん:そうですね、現金給付支援や食料支援をしている子たちの約7%が子どもがいる10代の方です。
つるたま:そういう子たちには何か共通点があるんですか?
今井さん:現在D×Pで支援をしている方に関していうと、ほとんどが親に頼れていないという共通点があります。親からのベーシックインカムをほとんど受けたことがない。例えば携帯代を払ってもらったことがないとか、高校に入ったら当然働くことになっているとか。あと、もともと親御さんがいなかったり、一人親家庭出身だったりする方が全体の約51%を占めています。
つるたま:半分以上なんですね。
今井さん:そうですね。それから、社会的養護の方が約17%なので、同居していたとしてもネグレクトを受けていたり、もしくは親御さんが働ける状態になかったり、色んな理由で親に頼れないという環境の子から相談を受けています。そのうちの一つに今回のようなケースがあって、親にも相談できないし、親もお金がないから、うちに相談が来るということがあります。
本名だと、親や第三者に知られてしまうかも、という不安が強くなる
つるたま:なるほど。未來さんも同じような状況下でピッコラーレという支援団体に繋がった経験があるんですよね?
希咲さん: はい、19歳の時にピッコラーレというNPO法人に繋がることが出来ました。その時の私は心理的に追い詰められていて、冷蔵庫の中にカビが生えているゴミ屋敷のような部屋にずっと軟禁状態で、そこでも性的な行為を強要されていて、もうどうしていいか分からなくなっていました。そんな時に、ピッコラーレという団体をたまたまツイッターで知って、こういう状況なんですとメールを送ったら返事が来て、めちゃくちゃ私のことを心配してくれたんです。「からだ大丈夫ですか?」「遅いかもしれないけど、緊急避妊薬飲めますよ」と声をかけていただいて、次の日会いに来てくださったんですけど、病院にも付き添ってもらって、そこから身分証や住居の支援もしてもらいました。
つるたま:その支援の中で、一番心の支えになったのはどの部分ですか?
希咲さん: まず匿名性が保たれている、本名じゃなくてもよかったことです。それから当時、携帯を持っていなくて、Wi-Fiがないと電話ができない状況だったので、メールで対応してくれたのも良かったです。メールでも、「寝れてますか?」「ご飯食べれてますか?」と私の体調をとても気遣ってくださいました。そういう言葉をかけられたのが久しぶりだったので、信頼できたというか、信じてみようかなと思えました。
つるたま:匿名性が大事なんですね。その視点はなかったので、新しい発見でした。匿名性はどうして大切だったのですか?
希咲さん: 私、すごく本名が嫌いで言いたくなかったんです。夜の街で使っていた名前も気に入っていて、ある意味それが本名みたいな感じになっていました。本名じゃなくてもいいんだったら連絡してみようかなと思えました。本名だと、親に知られちゃうんじゃないかと心配する子がいるので、そういった配慮だったのかなと思います。
つるたま:なるほど。
希咲さん: 匿名性はとても重要だと思っています。電話をかける時も、親に連絡されちゃうんじゃないかというのをすごく感じます。本名だと、親や第三者に知られちゃうかも、という不安が強くなるんだと思います。
つるたま:薬をもらう時は本名じゃなくてももらえるんですか?
希咲さん: 私の時は本名ではなかったです。
つるたま:そうなんだ!
希咲さん: 「名前なんかどうだっていいから、とりあえず病院に行こう」という感じでした。他の子の話を聞いていると、問診票を書く時に本名を書きたくないと言っている子がやっぱりいて、10代の子たちにとって、匿名性が守られるということは心理的な負担を軽減することに繋がると思います。
つるたま:なるほど。
今井さん:その部分を心配されている方は多いですよね。例えば学校の先生に相談したら、別の第三者に話されたという経験があると、不信感を抱いてしまいます。そうなると本名や自分の居場所を知られたくないとなるので、ピッコラーレさんはそういう若者の気持ちを大切にしている、だから未來さんも話せたと思うんですけど、やっぱりオンライン支援の場合は、そこが重要かなと思いますね。
つるたま:なるほど。以前、緊急避妊薬を飲めなかった理由を調査したら、やはりお金の問題が一番大きくて、そのハードルを乗り越えるためには、親に言わなきゃいけない。他にも、時間的に拘束があったり、遠出ができなかったり、親に言わないと外出ができなかったり、それがどうしても嫌という状況の子たちがいたんですね。親から虐待を受けているわけじゃないけれど、親には絶対にバレたくないと思っている子が多かったので、匿名性がとても重要だということを、お話を聴いていて感じました。
希咲さん: 保険証を使うと、医療費通知が親に届いた時に病院を受診したことがバレてしまって、暴力がひどくなる、だから行きたくなかったという子もいました。
「被支援者」ではなく「人」として接してほしい
つるたま:匿名性以外にも、D×Pの中で気をつけていることや、安全性を感じてもらって信頼関係を育むために、気にかけていることはありますか?
今井さん:そうですね。まずは相談者さんと最初に信頼関係を築くというところで、「支援者」と「被支援者」に極力ならないように気をつけています。相談を受けているとやりとりが一方通行になりがちだと思いますが、例えば日常の話、趣味だったり、好きなことだったり、体調のことだったり。そういう会話の中で言葉の使い方を変えたり、「支援者」というより、そこからもう少し踏み込んで「人」として関わる、そういうことに気をつけています。それから連携機関につなぐ場合、例えば同行援護とか、生活保護が必要なケースとかもあるので、そういったところに連絡する時は、必ず同意を得るようにしています。同意が得られない場合は絶対に連絡しない。ここはかなり重要視しています。信頼関係づくりというのは、スタッフとも毎回相談しながら行っています。
つるたま:「支援という言葉はあまり使いたくない」と、以前、SNSでも今井さんがおっしゃっていたので、今回のイベントのタイトルをどうするか悩んだんですけど、「支援」以外に適当な言葉が見つからなくて。
今井さん:それに関しては、私も未來さんにお伺いしたいです。あまりにも丁寧語で喋られると嫌というか、そのへんの距離感は人によって違うとは思いますが、どういう関わり方だったらいいというのはありますか?
希咲さん: 私も「被支援者」ではなく「人」として接してほしいという思いはすごくあります。ピッコラーレさんも最初のメールは敬語だったんですけど、堅苦しいかしこまった感じはあまりなくて、温かみを感じました。お会いしたあと食事に連れて行ってもらったんですけど、その時も「何食べたい?」から始まって、「私はこういうの好きなんだよね」「これ食べる?」みたいに気さくに接していただいて、そういうところが良かったです。
今井さん:オンライン相談の場合、信頼関係が築けるまでにハードルがあったと思うんですね。緊急避妊薬もかなりデリケートな話ですし、そういう関係になるには何かきっかけというか、何か引っかかるものがあったんですか?
希咲さん: 言葉がとても良かったんです。当時の私は、自分のからだしか必要とされていない状況でした。私が今まで何か言っても大人は信用してくれなかったし、「あなたのせい」と言われていたのに、ピッコラーレさんは会ったこともない私に「体調は大丈夫ですか?」とすごく心配してくれました。今までの大人とは真逆の態度と言葉で「あなたは悪くないです」と言ってくれたんです。それと、状況を知って、すぐに会いに来てくれた。本当に行動に移してくれたということも信頼につながりました。どうせ来ないって思っていたので(笑)。
つるたま:そうなんだ。
希咲さん: 当時は携帯を持っていなかったので、外に出るとメールも見れないし、連絡を密にとることもできなくて、私なんか多分わかんないだろうなと。朝も早かったので、本当に来てくれたというのが嬉しかったです。
今井さん:なるほど。もう一つお伺いしたいんですけど、クリニックに行く時は同行してもらえた方がいいですか?また、その時同行するのは、女性の方がやはり良いですか?
希咲さん: そうですね。私の時は女性でしたし、ピッコラーレの特色として全員助産師などの資格を持っているということも知っていたので、やはり女性というのは安心材料の一つになったと思います。あと、一人だとおそらく行かなかったと思うので、一緒に行ってくれたというのも大きかったです。
今井さん:なるほど、ありがとうございます。
つるたま:一人だと行かなかったというのは、どういう理由ですか?
希咲さん: 保険証がなかったし、家もなくてネットカフェに泊まっていて住所と言える場所もないし、携帯もないから連絡先も書けない、身分証もなかったから、こんな私が病院に行ったところで相手にしてもらえないとわかっていたのでたぶん行かなかったと思います。これはあまり言っていないのですが、「妊娠したら子どもと一緒に死ねる、一人で死ななくて済む」と思っていたんですね。でも、どこかで死にたくないという気持ちもあったし、もうちょっとまともな人生を生きてみたいというのもあったから、気持ちに微妙な揺れがありました。
つるたま:なるほど。その時の費用はピッコラーレが払ってくれたんですか?
希咲さん: そうですね。全て払ってくれました。もう本当に感謝しかないし、こういう団体があるよって他の女の子たちにも知ってほしいと思っています。
非行行為をしていなかったら、今生きていなかったかもしれない
つるたま:その時は被害届を出したり、ワンストップ支援センターに相談したりしたんですか?
希咲さん: してないです。そもそも携帯がなかったので連絡しづらかったし、行政のそういう支援は言葉が硬くて、行きたくないなと思っていました。
つるたま:やっぱり言葉って大事なんですね。
希咲さん: 硬いし雰囲気怖いし、私なんかが話したところで相手にしてくれない、警察はどうせ何もしてくれないし、私も自分のことを被害者だと思っていなかったんです。自分は加害者でも被害者でもなく、普通に生きているだけだと思っていたから、被害届を出すという考えに至りませんでした。
つるたま:確か児童自立支援施設は、非行を正す場という感じですよね?
希咲さん: そうですね。でも、私はそこにすごく憤りを感じています。この施設は非行や不良行為をした、あるいはそのおそれがある児童の自立を支援することを目的としているのですが、非行行為の背景には様々な要因があって、決してその子が悪いわけじゃないのに、すべてその子の自己責任と言われているような感じがするんです。私がそこで出会ったのは、中学3年生で平仮名の50音をきちんと書けなかったり、両親がいなかったり、母親の彼氏から虐待を受けて家出した子だったり、全身に刺青を親に入れられた子たちでした。でもこれはその子の自己責任ではないし、非行行為をしていなかったら、今この子生きていないよねという子たちで、そこの定義やイメージを変えてほしいなと思っています。
つるたま:そこに本人の意思は関係なく、その子たちが生きるためにそれが必要な行為だったということですよね?
希咲さん: そうです。世間一般的に、家出=非行じゃないですか。でも、家がいたいと思える場所だったら家出しなくていいわけで。
つるたま:あぁ!家出が非行、確かに。
希咲さん: そうなんですよ。でも、そういう子たちは虐待を受けていたり、家にいると暴力を振るわれたりしていて、家にいられないから家出をしたら非行と言われてしまう。「これっておかしくない?」とずっと思っていました。
今井さん:本当に同感です。
希咲さん: 良かった。
今井さん:「ユキサキチャット」に相談してこられた若年女性の中にも、現在あるいは過去に、性虐待を含む何らかの虐待行為を受けてきた方がすごく多いです。データとしてはまだはっきりした数はわかりませんが、現金給付支援と食料支援をしている子たちの2,3割という状況になっています。あと支援しているうちの約1割は、家出してSNSで出会った男性の家に泊まっている居候のような状態で、やっぱりそこはすごく課題だと思っています。
先程、未來さんがおっしゃったとおり、家出が非行になってしまうというのも本当に問題だなと思っていて、家がやっぱりどうしても安全な空間になっていない。例えば、親に夜の仕事を強制されてしんどい。そういう状況にいるとやっぱり家を出たくなる。そういった事例は「ユキサキチャット」でもたくさん聞いているので、そういう子たちをサポートしやすいような環境を、色んな側面から作っていかないといけない。今回の緊急避妊薬を無償にという取り組みも含め、女性の権利が守られる状態にしていくことが、本当に必要だなと思いますね。
つるたま:そうですよね。妊娠にまつわる課題が10代で発生した場合、しかもそれが望んだものではないとなった時に、周りに頼れる大人もいないという状況だと、その後の人生への影響が大きいですよね。ただ、それがあまり社会に伝わらないなと最近感じています。「泊まるということは、当然そういう行為をすることに同意したってことだよね」「分かっていて来たんでしょ?」と思っている人も多くて、「それでも泊まりたいと言うから泊めたんだよ」という話を聞くと、本当に性的な対象としてしか見ていない、目の前にいるのは人権や尊厳のある一人の人間ではなく、搾取される対象物ぐらいに思っているのだろうなと感じます。しかも、悪気がないこともありますよね。
希咲さん: 逆に女の子を救っていると思ってる人もいますよね。そんなわけないんですけど。福祉は何もしてくれない、あるいは傷つけられてきた経験がたくさんあって信用できないから、だったらこっちの方がまだましというだけであって、女の子を傷つけていることに変わりはない。からだだけでも必要としてもらえているという気持ちも、彼女たちのどこかにはあって、そこは難しいなと思うけど、やっぱり彼女たちのせいではないと、声を大にして言いたいと思っています。
つるたま:そうですね。社会の構造自体が変わっていかないといけないと思います。もちろん、性別関係なく知識を得られる場が必要だし、かつ、社会の中でそういう子たちを救っていける仕組みがあれば、知識がなくてもなんとかなるだろうと思います。
希咲さん: 緊急避妊薬でいうと、今は搾取する側の人間は手に入れられるのに、本当に必要としている女の子たちは自力で手に入れられない。あげく、本物かどうかわからない薬を渡される。それが日本の現状で変えなきゃいけないと思います。
後半は緊急避妊薬について詳しくお話します。