皆様暑い日が続いております。お元気でしょうか。
お陰様でご支援が90%を超え、皆様への感謝の思いで日々過ごしております。
そして今、レコーディングの日がちかづいています。
テキストである【京ことば源氏物語】は百年ほど前の、京都室町辺りの京ことばで訳されています。中井和子先生は尼門跡寺院に遺る御所ことばについての著作(共著)もありますが、御所ことばで訳すと、古文同様、読解がとても困難になって、多くの方に読んでいただける訳にはなりません。失われてゆく美しい京ことばの「今」を遺そう、と先生が生まれ育った市井のことばで訳されたので、宮中の物語りながら「〜どすえ」と「今女房」は語るのです。
移り変わってゆく京都のことばは、だんだん「関西弁」に近くなってきているようです。五十年、百年後にはすっかり変わっているかもしれません。
私は十八歳の時に無名塾のオーディションを受け、東京で役者の修業を始め、東京暮らしが長くなった頃に中井先生との出会いがありました。
「あんたの読み方は、歳の割には古風な感じがするわ」と中井先生は仰ったのは、十八歳までに耳にしていた両親や親戚などの京ことばの響きを頼りに読んでいるからかもしれない、と気づきました。
京ことば源氏物語を語るにあたって、ご年配の京都の方や先生にご指導いただいたこともありますが、なかなかこれが絶対正しい、と一つに絞れない場合があります。けれど百年ほど前の京ことばというなら、現在の普通よりも少し古風に語りたい、そう思い、その裏付けとして、国語学の教授で京ことばの研究を長く続けておられる丸田博之先生にご指導を仰ぎました。明治期以降に作られた熟語の存在や時代によって変わってきた高低アクセントの違い、泉のように尽きない興味深いお話しに引きこまれながら、物語の内容や文章の流れの中で、アクセントやイントネーションの微妙を探っています。宮中のお話しでもあるので、現在の日常会話よりも少しゆかしい風情をお聞きいただけたらと思います。
探求するうちに、小さい頃になくなった祖母の録音された声や、母の実家であったお寺で催された法事の集まり、そこで耳にしていた会話の響きが蘇ってきます。自身が繋がっている遠いところへ旅するような心地です。
よいものを作りたいとの思いが一層深まってきました。待っていてください。
皆様暑い毎日、どうぞくれぐれもご自愛の上お過ごしくださいますよう。
感謝をこめて 山下智子