2010年より、海外にルーツを持つ子どものための専門教育支援事業として運営を行っているYSCグローバル・スクール。当スクールで子どもたちをサポートするスタッフは、多文化コーディネーター、日本語教師、教科学習担当の3つの役割に分かれて活動しています。その全員が、基本的に給与を受け取り支援に携わる専門家たちです。
これまで関係機関や保護者等と連携しながら、海外ルーツの子どもたちのニーズに寄り添い、学びの環境を整える【多文化コーディネーター】のお仕事については 10月18日に公開の『【インタビュー】平野成美さん(多文化コーディネーター)』および11月5日、12日に公開した『進学率70%の現実-海外にルーツを持つ子どもの高校受験(前篇)(後編)』でお伝えしてきました。
また、11月15日には第1回、『【”ミニ”インタビュー】日本語教師・ゆりこ先生編』を、11月17日には第2回、『【”ミニ”インタビュー】教科学習担当・まさみ先生編』として、活動するスタッフに課題や支援のポイントをご紹介しました。
今回はスタッフ”ミニ”インタビュー最後の3回目。
YSCグローバル・スクール立ち上げ初期から参画し、算数・数学の教科学習に加えて、現在発達障害を持つ海外ルーツの子ども・若者のための特別支援クラスを担当しているわかこ先生にお話しを伺いました!
*記事中のマスクをしていない写真は全てコロナ禍以前に撮影(写真:🄫Yuichi Mori)
―― 現在のお仕事を簡単に教えてください。
2010年からYSCグローバル・スクールで勤務していて、主に算数・数学を担当しています。週に3日ほどの出勤で、ほかの日は発達障害の子どもと関わる別の仕事も続けています。2018年からは、このスクールでも発達障害のある子どもたちの特別支援クラスも担当するようになりました。
――発達障害児クラスの担当として、海外ルーツの子どもの学習で特に課題だと感じていることは何ですか?
このスクールにいて一番感じることは、「海外ルーツ」にしても「発達障害」にしても、とても大きな括りで、その言葉で括られる中に本当に多様な状況の子どもたちがいるということです。
たとえば、ご両親は海外ルーツ、本人は日本生まれ・日本育ちで日本語を話す、自閉傾向があるお子さんがいますし、海外から来日して間もない、日本語以外の母語で識字に困難のあるお子さんもいたりします。
「海外ルーツで発達障害がある」という括りの相談があっても、子どもの数だけケースがある状態です。そして当然、個々によって必要な言語や環境の支援が異なります。
そうした中で、ひとりひとりの子どもの背景・言語・特性などをかけあわせて適切な支援を検討していきますが、何を指針にして、限られた支援時間で何を優先するか、また誰に・どんなリソースに繋いだり相談したりすべきかも含め、道筋の立て方が難しいです。
それらのコーディネートと、直接教えるときのスキル。どちらの役割も人材も必要です。そのような点でお困りの支援者の方が、各地に多くいらっしゃるのではないかと思います。
ですので、発達障害児の担当といっても「目の前の一人」の支援者であるということを忘れず、同時に「手探りで難しい」と言っている状態からは一歩進みたいと考えています。
これまで積み重ねてきたケースから見えてきたことを整理し、専門家の方や支援者の方とつながる機会も増やしていきたいです。
―― 「海外ルーツの子どもを支援している」、または「これから支援したい」という方々に向けて、ご自身の体験からお勧めしたいことはありますか?
海外ルーツの子どもに限ったことではないし、目新しいことでもないのですが。日々教えていて、子どもたちから「わかった」という反応を直に感じるのは、何を説明するにしても「具体的で想像しやすい、身近な例」を出した時です。
中学校の数学を教えることが多く、抽象的な数字を扱うことが苦手な子どもも少なくないので、なるべく、その場にいる誰かの生活の中の例を用いるようにしています。
そのとき出す例は、ルーツや言語、その他の事情に関わらず、「誰にとっても想像がつくこと」で、「誰かが嫌な思いもしない内容」になるように気をつけています。つい最近も、関数の単元では、ある子どもの毎朝のコンビニでの買い物を取り上げ、データを分析する単元では先生も含めてみんなの睡眠時間を聞いて、「中央値」や「平均値」などの傾向を分析しました。
このスクールでは集団授業が多く、そうした例を取り上げると、必ず自然な会話が生まれます。例えば睡眠時間なら、そんなに寝てるの?/寝てないの?、何してるの?というように。
そうすると日本語での発話も増えるし、友達の知られざる生活の一面に驚いて盛り上がったりすることもあって楽しいです。この方法は一対一の支援でも使えるのではないかと思います。
数学だけでなく、日本語にしても、子どもたちにとって何かを強いられる学習は苦痛なので、少しでも身近なことと結びつけて「わかった!」と思えたり、友達や先生など「仲間と一緒で楽しい」という思いを持ってもらえたらいいですね。
…海外にルーツを持つ、発達障害の子どもたちのことは最近、メディアなどでも少しずつ取り上げられる機会が増えました。日本語を母語としないということで、目の前の困っている状況にある子どもたちが「日本語の課題なのか障害なのか」、アセスメントができずに学校でも支援の場でも悩んでいるという声をよく聞きます。
また、そのような状況下で「ただ日本語がわからないのに、発達の課題だと誤解されて学校から特別支援学級を勧められた」と言ったケースや、逆に「発達障害が日本語の課題だと誤解され、長年、必要な支援が受けられなかった」というケースもあり、場合によっては学校と保護者との間でトラブルに発展するようなことも起きています。
現在、日本語教育側からのアプローチだけでなく、障害福祉側からのアプローチも行われつつあります。双方が知恵や経験を持ち寄りながら、多言語多文化環境下で育つ子どもの発達を適切にサポートすることができるような環境整備が急務です。
ただ、環境が整備されるまでの間を待っているわけにはいきません。障害があるかどうかの判断がつかない状況であっても、あるいはその判断自体の要不要が明らかでない状況であっても、”わかこ先生”が言っていたように、「目の前の一人」子どもと真摯に向き合いながら、今その子に必要なことが何かを考え、日々の実践の中で最善を尽くせるようにしていく必要があります。
YSCグローバル・スクールでは、2018年から”わかこ先生”と共に海外にルーツを持つ障害児や学びに特性がある子ども、これから社会で生活を営んでゆく障害者の若者を対象とした「学習えじそんクラス」と「生活えじそんクラス」を運営しています。
日本語教育や学習・進学支援に留まらず、どのような状況にあっても海外ルーツの子どもたちが日本で安心して学び、成長することができるようこれからも必要なサポートを届けていきたいと思っています。
全国各地で「無支援状態」となっている海外ルーツの子どもたちは少なくとも1万人以上。コロナ禍の影響により、経済的に苦しい外国人家庭も増えています。子どもたちの多様な課題に対応できる専門機関も少ないのが現状です。
1人でも多くの子どもたちへ、質の高い支援機会を届けたい。
私たちYSCグローバル・スクールのクラウドファンディングは、残り【11日】となりました!
あと【30万円】で目標金額達成となります。
たくさんの方々に海外ルーツの子どもたちと私たちの活動を応援していただけるよう、
プロジェクトの拡散やご支援にご協力をお願いいたします!!