副編集長・中川です。いまこの活動報告を、東京・浅草六区のひさご通り裏手にあるホステル「TIME SHARING STAY ASAKUSA」のラウンジで(コンビニで買ってきたウイスキーを割りながら)書いています。
PLANETS編集部は2020年2月をもって原則リモートワークに以降してからこっち、書籍の出荷やインターネット番組の放送など、どうしても物理的なオペレーションが必要になるとき以外はスタッフが高田馬場の編集部に立ち入ることはなくなっているのですが、悪しき昭和・平成の出版文化を刷り込まれてしまっている身からすると、校了前の踏ん張りどころで編集部やファミレスなど自宅以外の環境で夜通しエンドレスの集中作業ができなくなっているのは、どうにもツライところがあります。
なのでコロナ禍にあって、印刷所への入稿前のこの修羅場をどうやって乗り切るべきか。そのヒントは、『モノノメ 創刊号』の小特集「飲まない東京」プロジェクトにありました。
このプロジェクトは、閉鎖的なコミュニティにおける内輪のメンバーシップの確認やパワハラの温床になりがちな昭和型の飲みニケーション文化の弊害から脱して、お酒を飲まない人でも肩身の狭い思いをしない飲食文化や夜の都市の楽しみ方を世の中に発信しようという趣旨で2021年春ごろから宇野常寛が提唱しているものなのですが、小特集内の記事の1本として磯辺陽介さん、田中元子さん、藤井明香さんのお三方による鼎談を所収しています。
この中で、以前に蔵前に住んでいたという磯辺陽介さんが「Nui.」というホステルが好きでときどき行って、1階のラウンジスペースでジンジャーエールを飲みながら、外国人の宿泊客がおしゃべりしているのを横目に一人で本を読んだりしていた、という話をされているのですが、編集作業が佳境に入ってきた昨年末から現在まで、僕も東京各地のホステルやゲストハウスを点々としながら、そんなワーケーション的なナイトライフをバリバリ実践していたりします。
僕は現在、池袋駅から徒歩15分くらいの上池袋に住んでいるのですが、自宅以外の集中環境がほしいときには、本活動報告でもおなじみの編集スタッフ・小池真幸くんが最近noteに書いていたのと同様、ルノアールとかジョナサンとかの電源・WiFi完備の遅くまで営業している飲食店を常用していました。しかしこの2年というもの、遅くとも21時とか22時に閉め出される世界になってしまっています。じゃあ漫喫やネカフェはどうかとなると、狭苦しい個室で快適度が低く、別にマンガを読みたいわけでもないのにナイトパックで2000円以上取られるのでコスパも悪い。
そうなると、いま21時以降に食事もしながら居られる場所は、知り合いを中心に細々と営業している顔なじみのバーとかしかないわけです。僕は宇野と違ってお酒が大好きなので近所に行きつけのバーが何軒かあって、夕食がてらそのカウンターやテーブルでパソコンを広げて飲み食いしながら仕事もしたりするのですが、当然、顔なじみのマスターや知り合いの常連客たちがめちゃめちゃ気になる話とかをしていたりする。なので、日付が変わるくらいの時間帯になると集中力がもたず、自然と業務終了になってしまいます。当然、これは〆切間際や校了期には向いていない。
そうなったときに、だいたい宿泊料金1500円前後でドミトリーのベッドとシャワーが利用できて(うっかりバーに行って何杯も飲んでしまったりするよりは圧倒的にコスパがよい)、そして居心地よく開放感のあるカフェバーを併設した共有ラウンジで24時間コワーキング可能な今時のホステルやゲストハウスの業態は、いまの自分にとっての最適解だったわけです。示唆を与えてくれた磯辺さんには大感謝です。
僕が最初に見つけて最も頻繁に利用しているホステルが、墨田区向島にある実家から徒歩5分の距離にある「WISE OWL HOSTELS RIVER TOKYO」。2020年6月に開業した「東京ミズマチ」イーストゾーンの一角を占める施設で、あからさまな観光地である浅草と東京スカイツリー&東京ソラマチの間にある下町の住宅街の川辺に、「居住」と「観光」の中間的な存在としてシェアハウス的な長期滞在もできるこうしたホステルができたことは、古くからの近隣住民としてとにかく衝撃的でした。
では、いま住んでいる上池袋から自転車で行けるエリアで同様の利用ができるスポットがないかということでBooking.comで見つけて泊まったのが、神楽坂にある「UNPLAN Kagurazaka」と王子にある「Tokyo Guest House Oji Music Lounge」。
どちらも古くからの東京の景勝地で、外国人観光客が訪れやすいロケーションから、こうしたコスパのよい居住と観光の端境にある過ごし方のできる器が生まれていったことがわかります。先週の『モノノメ #2』のエディトリアルデザイン関係のディレクション作業はここから行っていました。
ちなみにUNPLAN Kagurazakaの共用スペースのベランダからは、スカイツリーも見えます。
そんな感じで、前号「飲まない東京」鼎談で触れられていたNui.などの蔵前界隈の状況が気になって、今週、墨田区での3回目のワクチン接種がてら泊まってみたのが「FOCUS KURAMAE」で、その流れで一晩置いて現在宿泊中の浅草TIME SHARING STAYに至ります。やはり浅草から隅田川エリアにかけてのこの手の施設の発展は目覚ましく、おそらく京都でのここ10年程度のゲストハウス系の発展に近いようなことが、東京ではこのエリアを中心に起きてきたのでしょう。
これらを転々として感じたのは、コロナ禍の影響で本来の想定客層だったはずの外国人宿泊者の姿があまり見られなかったかわりに、それぞれの地域になじみのある若い世代にとっての活動拠点になっていくという流れが、すいぶん促進されたのだなということ。広々としたラウンジで、それぞれディスタンスを置きながらPCでリモート会議をしている若者たちの新しいワークライフスタイルの息吹を感じながら、この雑誌の制作は大詰めを迎えようとしています。
『モノノメ #2』のクラウドファンディングはこちらにて実施中です。