皆さまこんにちは。海洋生物写真家の峯水亮です。たいへんご無沙汰しております。
前回の5/24からの第1回目のCampfire 支援のBlack Water Dive(以下、BWDと表記)調査は、台風2号マーワー(Mawar)の影響を受けて全日程中止になってしまいましたが、⇒ https://camp-fire.jp/projects/595272/activities/477564#main
あれから2週間、再び久米島を訪れて、2023年6月8日〜15日まで、今年初になる調査を実施しました。
事前に台風3号グチョル(Guchol)が沖縄本島地方をかすめるように東進する予報が出ていたので、またしても台風の影響で潜れなくなるのではと心配しましたが、今回は大きな影響を受けることなく7/8日間(1日だけ欠航)を潜る事ができました。
これから数回に分けて、期間中の成果を皆様にご報告させて頂きますので、お楽しみ頂けたら幸いです。
海水温は例年より2℃ほど低めの25℃なので、厚さが6.5mmのロクハンと言うスーツを着て潜ります。
※私のスーツは作った時は8mm有りましたが、経年で厚さや長さが縮み、今現在は6.5mmくらいと思います。なのでロクハンとしておきます。
今回はボトム水深がおよそ600-1,500mの沖合を中心に潜って来ました。実際に私が潜っている水深は表層から25mまでの範囲です。
この調査では、潜水病の一つである減圧症のリスクを下げる為に、通常の空気より酸素濃度を32%まで高めたナイトロックスを呼気として使っています。(通常の空気の酸素濃度は21%です)
さて、本題の生物について、
今回は魚の稚魚たちのご報告です。
①クロキンチャクダイ稚魚
クロキンチャクダイは、まだあまり詳しい生態が知られていないとても珍しいキンチャクダイの仲間です。これまで日本で知られていたのはほとんど幼魚の報告で、成体に関しては海外でのみ。ましてや今回のような稚魚の所見はこれまで皆無と思われます。実は今年5月のダイブエスティバン開催の沿岸で行うBWDでも2個体が出ており、その存在は後日把握していたのですが、今回沖合でも出現して、その後の経過観察個体の体色などの特徴から確信へと変わりました。今回の体長15mmのクロキンチャクダイの稚魚は、キンチャクダイ科の成魚に見られるような前鰓蓋骨の隅角部にある大きな棘は未発達です。腹鰭が比較的長く真っ白なのも特徴的です。水中での初見は全体的に燻銀色のような体色でしたが、数日経過すると尾鰭は黄色。体色は黒色へと変化していきました。この黒い体色は時間帯によって銀色になったりもし、体色を自らの意思で変えることができるようです。まだまだ生態的に知られていない種類なので、このような知見を積み重ねていく事で、生き物たちの未知な部分を少しずつ紐解いていく事ができるのだと思います。
②ネッタイユメハダカの幼魚
ネッタイユメハダカ Diplophos taenia Günther 1873はワニトカゲギス目のヨコエソ科に属する深海魚です。成魚は沖合の中深層遊泳性。およそ300-800mほどに生息し、体長180mmくらいまでに成るようです。稚魚についてはBWDでもよく見られ、透明であまり目立たない姿をしています。
今回遭遇したのは体長70mmほどの個体で幼魚となります。水深はわずか6mでした。腹側に無数に並んだ発光器がとても美しく、いかにも深海魚らしい姿です。
同様の幼魚については、私は以前、パラオのDayDreamのクルーズ船『龍馬号』のBWDで一度遭遇した事があり、幼魚との遭遇は今回が二度目でした。
以前は写真を数枚だけしか撮れなかったのですが、今回は映像も撮影する事ができました。
③ハリセンボンの幼魚
ハリセンボンの幼稚魚との遭遇経験はまだ少なくて私にとっては今回が3回目です。今回の子は体色もすでに安定し、針もしっかりと揃ったミニチュアのハリセンボンそのものなので、幼魚と言って良いのではないかと思います。正面顔が特に可愛らしいです。
若魚がよく集団で目撃される事からも、おそらく稚魚の頃からある程度の集団でいると想像しているのですが、そのような無数の稚魚玉に未だ私は遭遇した事が無いです。いつかハリセンボン稚魚たちに囲まれてみたいです。
④セミホウボウの稚魚https://youtu.be/ZU8q83RzDmY
場所によってはけっこう見られました。サイズにはばらつきがあって、小さいものは体長18mmから、大きいものでは50mmほどでした。
この頃は頭部を覆う鋭く大きな棘が特徴的ですね。
⑤トカゲハダカ科の稚魚
この稚魚は諸々の特徴から、ワニトカゲギス目 トカゲハダカ科 クロトカゲギス Astronesthes indopacifica Parin&Borodulina, 1997 の稚魚と思われます。成体は外洋の中深層遊泳性で、体長21cmほどになるようです。稚魚は体の外に大きく腸が飛び出ている、いわゆる外腸タイプの深海魚の稚魚の一つです。大きさは体長40mmほどでした。本種は腸が体のほぼ中央付近から外に飛び出しているのも特徴ですね。稚魚の腸が飛び出している理由は、食べたものを直接腸に運ぶ事により、常時餌を食べ続けられるというメリットが有ります。トカゲハダカ科の稚魚、私は2019年8月以来久しぶりの再会で、以前も久米島のBWDで遭遇しました。
⑥ハダカエソ科稚魚
ヒメ目 ミズウオ亜目 ハダカエソ科 Paralepididaeの稚魚。体長25mmほどです。稚魚の時だけ、背中側には垂直に広がる特徴的な鰭がついています。背鰭と近い位置にある腹鰭の位置も特徴がありますね。これらの鰭は、海中で茶柱のように立って静止する際に活用されています。ハワイで撮影した事のある本科別種の胃の中には、他の稚魚が丸呑みされている事から、このような姿勢で真上を通る別の稚魚に下から飛びかかって捕食しているのだと思われます。横に泳いでいる時のこの鰭は、体に沿うように折りたたまれており、初見は何か寄生虫でも付着しているのかのようにも見えました。
⑦ハゴロモトビウオの幼魚
ダツ目 トビウオ科 イダテントビウオ属ハゴロモトビウオ Exocoetus monocirrhus Richardson, 1846の幼魚です。
体長60mmほど。
ずんぐりした姿とひげが特徴的ですね。
私的には初見のトビウオで、おそらく水中写真は世界初になると思われます。
英名はひげを意味するBarbel flyingfish。
最初は水面にいて、途中から少し下に降りてきてくれたので、背中側から撮る事もできました。
海が穏やかであればリフレクション写真も狙えたのですが、なかなかそう簡単ではありません。
⑧ハタ科トゲメギス属の稚魚
諸々の特徴などから、おそらくハタ科トゲメギス属の稚魚と思われます。体長17mmほど。今回、初見の為、現在鋭意調査中です。
❴追記❵ 6/20、稚魚研究者の小嶋先生より、トゲメギス属 Pseudogramma よりかは背・臀鰭の軟条数も少し多いようなので、ヤマトトゲメギス属 Aporops(ヤマトトゲメギス)あるいはクレナイトゲメギス属 Suttonia(クレナイトゲメギス、カザンクレナイトゲメギス)の可能性が高いように思いますとのご見解を頂きました。まだ現場にいて、精査できていないので、何かが判明しましたら追ってご報告します。
⑨アズマガレイ属の稚魚
カレイ目 ウシノシタ科 アズマガレイ属 Symphurus sp. の稚魚。体長30mmほど。水深17m付近で遭遇。成体は水深200m以深の海底に棲む深海魚です。背鰭前半の7本が長く伸びています。各鰭数はおよそD90 A76 C10という構成でした。腸は体の前半にまとまった形で飛び出しています。その他、淡緑色の色素が体に均等に並んでいます。今回、私としては初見のタイプで、動画も撮影する事ができました。
⑩イズハナダイ属の1種
体長14mmほど。以前撮影した事のあるトビイシハナダイの稚魚に外観が似ている事から、とりあえずイズハナダイ属としています。トビイシハナダイの稚魚よりかはかなり地味な体色をしていて、背鰭の一部が紐のように長く伸長しているのが特徴です。
今回は、見られた稚魚のご報告でした。
次回は無脊椎動物編をアップする予定です。