第2回 ハチミツご購入者配信レポート
HANAPの橋澤です。
夏らしい暑い日が続いていますが、皆様お元気にお過ごしでしょうか?
長袖、長ズボンの養蜂着を着て屋外で作業する養蜂家の夏はホントに大変で、熱中症にならないようにこまめに水分補給をしながら、出来るだけ早朝の内に作業しています。
今回もHANAPのハチミツ生産の近況をレポートさせて頂きます。
「養蜂家って普段どんな仕事してるの?」っていう質問をたまに頂きます。今回は養蜂家としての私たちの仕事もご紹介したいと思います。
そして、ミツバチの生態については、働きバチの仕事のことをご説明したいと思います。
巣箱の上で休んでいるニホンアマガエル
【ハチミツの生産レポート】
-7月-
7月に入って採蜜量は一気に減りました。
ミツバチが夏バテして働いてくれなかったということではなく、蜜源植物の開花が減ったためです。
少しだけ採蜜できた長生村では、アカメガシワやヒマワリの他、我が家の庭ではイワダレソウやミント、タイム、モナルダといったハーブが花を咲かせていました。
イワダレソウの蜜を吸うミツバチ
長生村で7月21日に採蜜したハチミツは、爽やかな酸味の後にコクのあるとても濃厚な風味で喉にピリピリした刺激が残ります。喉の調子が悪い時にはとっても効きそうな感じがします。
まろやかで優しい風味だった同じ長生村で6月13日に採蜜したハチミツとは全く違い、力強い風味のハチミツになりました。
長生村で採蜜したハチミツ(左が6月13日、右が7月21日)
採蜜量は少なかったですが、ミツバチたちは元気に群を維持しています。次の流蜜期(花から蜜がたくさん出る時期)に備えて、体力を温存しているのでしょう。
少しでもミツバチに快適に過ごしてもらうため、暑さ対策として、巣箱に葦簀(よしず)をかけたり、巣箱の窓を開けて換気し易くしたりしてあげています。
しかし、ミツバチたちの暑さ対策はもっと効果的で、近くの水場から水を運んできて巣箱の周りに打ち水をして温度を下げるそうです!
実際に暑い日には、ミツバチたちは水場にたくさん集まってきます。
葦簀をかけた蜂場の様子
【養蜂の仕事について】
養蜂には様々なやり方があって、どんなスタイルの養蜂をするかによって仕事の仕方も大きく変わります。
養蜂のスタイルは、大きく2つのタイプに分けられます。
一つは、「転飼(転地)養蜂」といって、蜜源を求めて季節によって移動していく養蜂です。南北に長い日本の土地を活かして、桜前線が移動して行くように、目的の花の開花に合わせて巣箱を移動しながら、採蜜していきます。
日本では、伝統的に多く行われてきた養蜂のスタイルで、現在も多くの養蜂家さんが巣箱を移動しながら目的の花のハチミツを取っています。「単花蜜」と言われる特定の花の名前がついたハチミツをたくさん採るために、合理的な方法です。
しかし、たくさんの重たい巣箱をトラックに乗せて移動し、春から秋まで家族と離れて暮らすなど、とても大変な仕事です。
もう一つは、「定飼(定地)養蜂」といって、一年中巣箱を移動せずに行う養蜂です。花に合わせて移動しないため、一群当たりの採蜜量は少なくなる可能性が高いと思います。また、採蜜の仕方や環境にもよりますが、採れるハチミツは、様々な種類の花の蜜からできた「百花蜜」となりやすいです。一般的に百花蜜は、単花蜜よりも価値が低く扱われるという欠点もあります。しかし、定飼養蜂だと、その土地ならではの複雑な味わいの百花蜜が楽しめると思います。
HANAPでは、一年中巣箱を移動しない定飼養蜂を行っています。
その理由は、その土地でできた自然のままの風味を楽しんでもらいたいという想いがあるからです。
そして、巣箱を移動することは、移動する人間だけでなく、移動されるミツバチたちにとってもストレスのかかる大変な作業になります。
野生のミツバチは、花の開花に合わせて巣を移動することはなく、一度気に入った場所に巣を作ったら、問題が起きない限り、その巣を維持します。そのため、定飼養蜂の方が、元々のミツバチの生活スタイルに近いと思っており、できるだけミツバチにストレスをかけないで飼育したいという私たちの考え方からも定飼養蜂をしています。
転飼にしろ定飼にしろ、日々の作業内容としては、「内検」といって巣箱の中の状態を確認する作業を、大体週に1回全ての巣箱で行います。ハチミツがどれだけ溜まっているかだけでなく、女王バチが元気に産卵しているか、病気などの異常がないか、蜜や花粉は十分に蓄えられているか、ミツバチの数(密度)は十分か、産卵や貯蜜に必要なスペースが十分にあるかなどを確認し、必要な作業を行います。ミツバチの数や必要な作業内容により、1箱の内検に5分で終わるものもあれば、30分近くかかることもあります。
冬の間は、暖かい日以外は内検をしません。その代わりに、来年の飼育計画を立てて巣箱や巣枠を準備します。また、1月には都道府県にミツバチ飼育届を提出します。
内検作業の様子 ミツバチの健康状態を確認中
ミツバチのお世話以外にも、蜂場の草刈りなどの環境整備も必要です。また、養蜂技術の向上のためにも、ミツバチやハチミツに関する勉強も欠かせません。
私たちは採蜜からハチミツのビン詰め、ラベル作成、販売まで全て自分たちで行っているので、基本的に休みは殆どありません。でも、好きなことを仕事にしているから、毎日が楽しく、この仕事が出来て良かったと思います。
養蜂の作業や技術について詳しく知りたい方は、素晴らしい専門書がたくさんありますので、ぜひそちらを一読頂ければと思います。
養蜂に関するオススメの本の一例です。
松本文男 著 「養蜂大全」(誠文堂新光社)
千場英弘 著 「蜜量倍増 ミツバチの飼い方」(農文協)
角田公次 著 「新特産シリーズ ミツバチ-飼育・生産の実際と蜜源植物-」(農文協)
佐々木正巳 著 「養蜂の科学」(サイエンスハウス)
また、一般社団法人日本養蜂協会のホームぺージからも養蜂に関するマニュアルや手引書がダウンロードできます。
https://www.beekeeping.or.jp/technology
【ミツバチの生態②】
ミツバチと言えば、何と言っても主役は働きバチたちです。
単純に数が多いからだけではなく、ミツバチの群が健康に維持できるのは、働きバチたちが元気に仕事をしているからこそです。
働きバチの仕事と言えば、花々に飛び回って蜜を集めてくることってイメージがありますよね?
でも、働きバチの仕事は、蜜集めだけではないんです。様々な仕事を分担して行っています。
働きバチの中に、部長や係長などリーダーはいません。一匹一匹は、命令されるわけではなく、役割を果たしていきます。
誰が何の仕事を分担するかどうやって決めるのか不思議だと思いませんか?
実は、羽化してからの日齢によって、つまり成長にともなって役割が決まってきます。
これを「日齢分業制」と呼びます。
羽化~5日目:掃除係
まず、羽化したばかりの働きバチは、掃除係をします。巣の中にゴミが溜まっていると、病気になって最悪の場合、全滅してしまうかもしれません。だから、ミツバチはとってもきれい好きです。働きバチの最初の仕事は、巣の中をきれいに保つことです。
3~12日目:育児係
このころの若い働きバチだけが、体の中でローヤルゼリーを作ることが出来ます。
ローヤルゼリーは、女王バチと生まれて3日目までの全ての幼虫に与えられます。
8~16日目:巣作り係、空調係
この頃の働きバチは、お腹にあるロウ腺からミツロウを分泌します。このミツロウを使ってハニカム構造と呼ばれる六角形の穴(巣房)が並んだ巣を増設したり、壊れている場所があれば修復したりします。
また、ミツバチの巣の中は、常に約35℃に保っています。
この温度調節に失敗すると育児がうまく出来なくなってしまいます。温度が低い時には、働きバチが集まって筋肉を使って発熱します。温度が高い時には、羽ばたいて換気をします。さらに温度が高い時には、水を吸ってきて、打ち水のように水分を蒸発させて気化熱によって温度を下げます。
12~18日目:食料貯蔵係
外で花蜜を集めてきた働きバチから口移しで蜜を受け取り、巣の中に貯えます。
足や体に付けて持ち帰った花粉も、巣の中に貯蔵します。
16~24日目:門番係
この頃になると、巣の出入口から外に出て、外敵がいないか見守ります。
また、少しずつ飛ぶ練習も始めます。
20日目以降:食料調達係
人間でいえば中高年になって、初めて外勤バチとして巣の外で働き始めます。
巣から半径2~4kmも飛んで、花の蜜や花粉を集めます。
ミツバチの体重は約0.1g(1円玉の1/10)です。人間の体重(約60kg)の60万分の1ですから、人間の大きさに換算すると、約200万km(月までの約5倍の距離)もの距離を往復していることになります!
これを1日に10回以上も繰り返し、しかも、帰り道は体重の半分近くの花蜜をお腹に入れて持ち帰ります。
こうして1匹のミツバチが集めた花蜜から出来るハチミツの量は、約ティースプーン1杯程だと言われています。
外で働き始めて約10日頃、働き疲れた働きバチは、ひとり巣箱から出て草むらの中でそっと寿命を迎えます。
若い働きバチは巣の中で安全な仕事から始め、過酷で危険な仕事ほどベテランの働きバチが担当します。
効率良く生き残るための生存戦略だと思いますが、詳しく知れば知るほど良くできたシステムだと感心させられます。
巣門(出入口)にいる働きバチ
巣箱の中を見なくても、巣門(巣の出入口)にいる働きバチを見ているだけでも、色んな役割があるのが分かります。食料調達に勢い良く飛び立って行く子、花粉を両脚につけて帰ってきた子、蜜を口移しで受け取っている子、換気のために巣の中に羽で風を送っている子、家族に巣の場所を教えるため外に向かって匂い(フェロモン)を飛ばしている子、異常がないかウロウロしている子など、ついつい作業中に手を止めて眺めてしまいます。
次回は女王バチのドラマチックな一生についてお話したいと思います。