
みなさまこんにちは。
今日は、11月13日(木曜日)に開催する「コーヒー振る舞いDay」についてお知らせいたします!
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〈 とらいふぁーむ とは〉
とらいふぁーむは、「社会福祉法人」「介護老人福祉施設」という、生産性や効率性の論理から一歩離れた環境の中で、「生きることのほんとうの豊かさとは何か」を改めて問い直すための小さな実験室です。ここでは、日々の介護の営みがそのまま生態系の循環と結びつき、「いのちの流れ」そのものへと目を向けています。施設から出る野菜くずは、地域の環境団体「クリーンむさしのを推進する会」の協力によって堆肥となり、その土から新たな植物が芽を出します。来春からは「かみつぐ助成金」の支援を受けて養蜂も始まる予定です。ミツバチが花を渡るように、人と人、世代と世代の関係がやわらかく受粉していくような循環を目指しています。こうした穏やかなつながりの中で、介護職員や要介護高齢者、地域の人々が互いの存在を媒介し合いながら、見えない関係の網を育てています。
生態学の視点から見るなら、とらいふぁーむは「基盤サービス」に相当します。基盤サービスとは、他のすべての生態系サービスを支える根のような働きのことです。たとえば、土壌形成や栄養塩の循環、分解と再生の連鎖を担う機能です。これらは地上では目立ちませんが、失われればすべての循環が止まってしまうほど重要です。介護職員や要介護高齢者の存在も、それに重なります。彼らは、社会という生態系の中で、静かにその基盤を支えるミミズやダンゴムシ、菌類のような存在です。こんなことを言うと、「ケアワーカーや高齢者を虫けら扱いするのか!」と思う人がいるかもしれません。そうではありません。ここで言いたいのは、ミミズやダンゴムシ、菌類が生態系の基礎を支えているように、彼らの存在が社会という生態系の土台を保っているということです。これは人の尊厳を損なう比喩ではなく、むしろその価値を、これまで見えにくかった場所から照らし出すための比喩です。
このことは、ケアの現場の本質をよく表していると思います。介護の仕事は、直接的に「生産」を生み出すものではありません。なぜなら、ケアという営みは「物」をつくるのではなく「関係」を育てる仕事だからです。そして、この「関係を育てる仕事」は、現在の制度的な枠組みの中では評価されにくい位置に置かれています。たとえば、介護報酬制度や行政的な指標は、目に見える成果や効率を基準に設計されています。そのため、時間をかけて関係を育むことや、寄り添いながら変化を待つことのような「不可視の労働」は、しばしば数値化されず、正当に扱われません。
さらに言えば、介護という仕事の構造自体に、もうひとつの大きな歪みがあります。介護職員は、日々直接的に高齢者と向き合い、身体を支え、声をかけ、関係を築いています。しかし、その労働の対価として金銭を受け取るのは、利用者本人からではありません。報酬は公的制度を通して支払われ、国家や自治体を介して間接的に受け取られる仕組みになっています。つまり、介護職員と高齢者のあいだに「金銭の授受」という市場的な交換関係が成立しないのです。この構造は、ケアが本来「贈与」に近い性質をもつことを示していると同時に、その価値を貨幣的評価の外に追いやってしまう要因にもなっています。市場経済の論理から見れば、ここには「顧客」も「商品」も存在しません。ゆえに、介護職員の仕事は、経済的には「非生産的」とみなされやすくなります。けれども、社会という生態系の観点から見れば、まさにこの非交換的な営みこそが、関係の土壌を豊かにし、人と人とをつなぎ直す「基盤サービス」にほかなりません。
とらいふぁーむの活動は、こうした制度的な歪みの中で、「ケア労働」の価値をもう一度社会の中に浮かび上がらせようとする試みです。人と人とのあいだに生まれる微細なやりとり、身体と環境との呼応を、目に見えるかたちで社会に開いていくことです。そこには、「貨幣」では測れない価値の循環があり、それこそが福祉と生態系を結びつける新しい倫理の萌芽であると私たちは確信しています。

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〈湯淺研究室と協働しています〉
千葉大学建築学コース・湯淺かさね研究室は、とらいふぁーむという園芸空間が人と人とのつながりをどのように形作っていくかを研究されています。生態系の観点から言えば、とらいふぁーむが「文化的サービス」としてどのように機能しうるかへの着目といえます。とらいふぁーむは園芸空間であると同時に、施設と地域、社会と自然、ケアと環境の関係を再構築する実践の場となっています。
とらいふぁーむが目指しているのは、単なる「持続可能性」の評価ではありません。高齢者や介護職員を、役割を終えた存在や代替可能な労働資源として消費するのではなく、「いのちの循環の一部」として再び位置づけることです。それは、いのちを「上書き」するのではなく、タペストリーのように織り重ねていく、アップサイクルな試みです。だからこそ、ここでの活動は、福祉と環境、ケアと生態系が再びひとつの呼吸を取り戻すための実験なのです(※ここで述べている内容は、とらいふぁーむの活動理念および実践の方向性を示すものです。湯淺研究室の研究は、これらの理念を前提とすることなく、中立的かつ自然科学的な立場から園芸空間の機能や人と環境の関係性を分析・検証する形で進められています)。
〈『コーヒー振る舞いDay』のお知らせ〉
こうした取り組みをより多くの方に知っていただくために、11月13日(木曜日)に「コーヒー振る舞いDay」を開催いたします。時間は13時30分から14時30分までです。本企画は、湯淺研究室との共同企画として実施され、コーヒーを媒介に「循環」と「共生」を体感できる場をつくります。当日は、職員・入居者・大学生・地域の方々が集まり、コーヒーやハーブティーを提供します。飲み終えたあとのコーヒーかすはコンポストとして堆肥化し、再びとらいふぁーむの土に還ります。つまり〈淹れる→味わう→土に戻す〉という循環のプロセスそのものを、参加者が手で感じ取ることができる場づくりです。
この取り組みは、介護職員や高齢者を単なる「サービスの担い手」や「受け手」としてではなく、社会の生態系を支える重要な基盤として捉え直す試みでもあります。コーヒーやハーブの香りを囲みながら、関係の豊かさをもう一度確かめることが本企画の目的です。お時間の合う方は、ぜひマイカップを片手に、ふらりとお立ち寄りください。あたたかな香りとやさしい会話が交わるひとときを、ともに過ごしましょう!
とらいふぁーむは、このような取り組みを通じて、ケア・環境・地域のあいだにある境界をゆるやかに溶かしながら、「新しくて懐かしいつながり」のかたちを描きだしていきます。




