
「昼は前菜、夜はバー。それでも僕は朝から厨房に立っていた」
サービスの1ヶ月が終わり、ようやくキッチンに入る話が出ました。
ただし条件付きでした。
昼はレストランの前菜のサポート夜は3階にあるワインバーの料理。
出勤時間も「昼過ぎでいいよ」と言われていました。
でも、僕はそれを選びませんでした。
キッチンの流れが知りたくて、仕込みが始まる朝から出勤させてもらっていました。
結果、朝から仕込み → 昼は前菜のサポート→ 夜はバー気づけば、ほぼ一日中厨房にいる生活。
正直、誰にも求められてはいなかったと思います。評価が上がるわけでもないし、給料が増えるわけでもない。
ただ一つだけ理由がありました。
「この店が、どう回っているのかを知りたかった」
誰が、どのタイミングで、何を見て、何を判断しているのか。
一日中いるからこそ、料理より先に“空気”が見えるようになりました。
忙しくなる前の静けさ。仕込みで決まる夜の流れ。前菜の一手が、バーの一皿に影響すること。
その全部が、一本の線でつながっている感覚。
ただ、今振り返るとこうも思います。
あの頃の僕は、学びたいというより、置いていかれるのが怖かっただけかもしれません。
でも、その必死さごと、この店は受け入れてくれていました。
それだけで、前の店とはまるで違う世界でした。

「ナッツしか出ていなかったバーで、僕は初めて“料理人”になった」
カルチェラタンに入ってしばらくして、夜は3階にあるワインバーの料理を担当することになりました。
とはいえ、「バータイムの料理を作る」と言われても、正直ピンときませんでした。
なぜならその当時、このお店のバータイムで出していた料理は、ナッツなどの簡単なものが中心だったからです。
フレンチのコース料理は作ってきましたが、ワインバーで、何を、どう出すかは、これまでの自分の経験だけでは判断できませんでした。
そんな中、シェフにこう聞かれます。
「植田、何作りたい?」
その一言で、頭が真っ白になりました。作りたいものを聞かれる経験自体が、ほとんどなかったからです。
僕が提案したのは、これまで学んできたフランス料理の伝統料理でした。
派手ではないけれど、自分が好きで、ワインと一緒に食べたらきっと美味しいもの。
正直、「これでいいのか」という不安はありました。でも、自分が作りたいものと、お客さんが喜びそうなもの、その重なるところを必死に探して提案していました。
するとシェフは、「それ、いいじゃん」と言ってくれました。
このあと、バータイムで料理を作りながら、目の前でお客さんの反応を見ることになります。
そして僕は、料理が“評価される怖さ”より、“届く喜び”の方が大きいことを、この場所で初めて知ることになります。

「料理はキッチンで完結しないと、初めて知った夜」
バータイムで料理を出すようになってから、僕の立ち位置は一気に変わりました。
キッチンの奥ではなく、目の前にお客さんがいる場所で料理を作る。
ワインを注ぎながら、料理を出しながら、「これ、なんですか?」と聞かれる。
その一つ一つに、言葉で答えなければいけませんでした。
正直、最初は怖かったです。料理を出した瞬間に、反応がその場で返ってくるからです。
美味しければ笑顔になるし、微妙なら、表情でわかる。
逃げ場はありませんでした。
でも、だからこそ得られるものもありました。
「これ、ワインと合いますね」「こういうの、もっと食べたい」
そんな言葉を、直接、目を見て言ってもらえる。
キッチンで黙々と作っていた頃には、決して味わえなかった感覚でした。
料理が“評価される”というより、料理で会話が生まれる。
その瞬間が、たまらなく嬉しかったのを覚えています。
この夜、僕は初めて思いました。
「ああ、自分は“料理を作る人”じゃなくて、“料理で人と繋がる仕事”をしたいんだな」と
このバータイムでの経験が、このあとの付き合わせ担当との引き継ぎそしてシェフとの衝突へと、確実につながっていきます。
でもそれは、また別の話です。

続く…
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