原画展でだけ観られる絵がある。「さむいひ しずかだね だあれも いないの? ううん みえないかも しれないけれど ちかくに いるよ」を元に、冬の森を表現した絵。オクヒラマユコは、その創作の過程でたくさんの試行錯誤をくり返し、多くの絵を描いてきた。そのうちの一枚である。ありていに言えば、絵本の絵としては採用せずにボツとなった。今年5月、その絵が、創作過程を表す下書きや人物デッサンなどの資料と共に、私の手元に送られてきた。一度は目にしている絵だ。しかし、その原画は実に圧倒的だった。北の国の冬、木肌のザラツキ。凍った土、その中で眠る小さな生き物たちのほんの僅かな体温が伝わってきた。話は変わるが、原画展で私は「おはなしづくりワークショップ」を行っている。参加者は気に入った絵を選び、数分の間選んだ絵と対面する。その時心に浮かんだことを言葉にして書きとめ、自分の声で読み上げる。そんなたわいもない試みではあるけれど、それぞれの感じたことが表現されて、いつも新鮮な驚きが生まれる。北海道安平町での原画展二日目、私も参加者同様に一枚の絵の前に立った。前述の冬の絵である。その時私の心には「ソレガアッタデハナイカ」という言葉が浮かんだ。絵本の言葉にないモノに気づいてしまったのである。落ち葉をすくった時の、木の実をつまんだ時の、木にさわった時の、友だちにふれた時の、手の感触をコトバにしたくなった。オクヒラマユコの絵にみごとに揺さぶられたのだね。(文:オオバヒロコ)







